忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ROULETTE 26


ドア1枚隔てて聞こえてきた、信じられない話。


だがテギョンは、それを確かめずにその場から離れてしまった。


 


一旦車に戻ると、少しの間時間をつぶすことを考える。


「全く…なんでこのオレがこそこそしなければならないんだ?」


苦笑しつつ呟くと、いつもの海洋深層水を口に含む。


 


『ミニョに会う』


嬉しそうにジェルミは、話していた。


聞き間違いなんかでは、決してない。


そのために海外ロケのスケジュールも合わせると言っていた。


 


今どこにいるのか?


何故、ここに帰ってこないのか?


聞きたくても今のテギョンには、それが出来ないのである。


 


ミナムの前で、たった一人の妹を愚弄するような言葉を発してしまったからだ。


 


あの日…帰国予定の便に乗ってこなかったミニョ。


やっと会えると思って楽しみにしていたテギョンの落胆は大きかった。


落胆は怒りへ変わり、やがてミニョがわざと自分を避けたと思い込んでしまったのだ。


もちろんそう思うのは、数日前のミニョとの口論が原因だ。


 


かつてミナムの身代わりをしていたミニョを、事故多発地帯と揶揄していたのは


ほかならぬテギョン。


何かトラブルに巻き込まれた可能性を考えられる気持ちの余裕ができたのは、それから1週間近く経った頃だった。


 


だが…時はすでに遅かったのか?


改めてミニョから連絡が無いかと尋ねても、冷めた視線をテギョンに寄越す。


『どうぞご心配なく。それからミニョは当分戻ってこないから』


『あの時は悪かった…ついカッとして』


テギョンなりに誠意を持って謝罪しても、ミナムの態度は軟化しない。


 


『言葉ってさ重いよね…テギョンヒョンはさ…そうやって何度もミニョを傷つけてきたんじゃない?ミニョのことより自分の気持ちを優先したんでょ?』


図星を指されて、返す言葉もなかった。


自分の母親と双子達の過去を知ったときも、激情に任せてしまったことを思い出す。


あの時、一度はミニョを失いかけたのだ。


 


『オレさ、テギョンヒョンのこと音楽家としては尊敬してるよ…だけどさ…頼むからミニョのことはそうっとしておいて欲しいんだ』


搾り出すようなミナムの声。


ミニョと同じ顔から出るその言葉は、そのままミニョに責められているようで辛かった。


 


それからは、以前のように仕事に打ち込む日々。


あんなことがあっても、ミナムはプロだからグループ内に私情を決して持ち込んではいない。


それでも、余所余所しい空気はやっぱり伝わるもので。


二人の関係を必死でフォローしていたのが、ジェルミだった。


 


(そう言えば…まだミナムが加入する前もこんな感じだったな)


ふとテギョンは、過去に思いを馳せた。


シヌとテギョン…性格や育った環境も全く違う


互いに相容れない仲、ジェルミの明るさに救われていたのである。


 


(ジェルミ…)


誰にたいしても公平な態度は、年下なのに尊敬に値する。


 


そう思ったとき、テギョンの車を走らせ


AN企画へと向かったのだった。


 


再び宿舎に戻ったのは、翌日のこと。


 


「お帰りヒョン!!ひさしぶりぃ」


「ああ…ただいま…そうだこれ」


屈託の無い笑顔で迎えたジェルミに、紙袋を渡す。


 


「わぁ!お土産?開けていい?」


口では許可を取っているのに、手は既に包みを開けている。


 


「ミナムの分も入ってるからな」


「うん…わかっているよぅ」


テギョンの言葉に、ジェルミは渋々と9個入りのショコラを5:4で分けていたのだった。


 


「ジェルミは、昔から変わらないな?」


「え?少しは成長してるよ!」


心外とばかりに、ジェルミは口を尖らす。


 


「いや…いい意味で言ってるんだ。お前がいなければ…メンバー内の関係も良くないものになっていたと思う」


「オレはみんなが好きなんだよ。テギョンヒョンも、シヌヒョンも、ミナムも…それにミニョも…あっ」


テギョンの言葉が嬉しかったのか、ジェルミの表情はぱっと明るくなる。


だが、ミニョの名前を出した瞬間口を噤んでしまった。


 


「気にするな…お前はミニョと仲が良かったな。あいつのこと好きだったんだろう?」


わかりやすく態度に示していた頃を思い出す。


自分もこんな風に素直だったら…今の状況を招くことは無かっただろう。


 


「それに引き換えオレときたら…ミニョもこんなオレに嫌気がさして帰ってこないんだろうな。」そんなことないよ!!」


自嘲気味に呟いたテギョンに、ジェルミは激しく反応する。


だが、構わずテギョンは続ける。


 


「気を使わなくてもいい…あれっきりオレのところには連絡すらないんだからな」


「違うよ!!しないんじゃないできないんだよミニョは…」


絶えられないとばかりにジェルミは声を荒げるが、驚きの表情のテギョンを前に目をあわせようとしない。


 


「ジェルミ?何か知ってるのか?ミニョはどこにいるんだ?いや…居場所をいいたくないなら、それでもいい。だけど元気なのか?せめてそれだけでも知りたいんだ」


テギョンはジェルミの肩をぐっと掴むと、切羽詰った様子で迫る。


 


そんなテギョンを前にして、ジェルミはこれ以上は無理だと悟ったようだ。


 


そしてジェルミからミニョの状況を語られることになる。


向こうで事故に巻き込まれて重症を負ったこと。


 


「それで怪我はどうなんだ?後遺症とか?それよりどこの病院にいるんだ」


「大丈夫術後の経過は順調で、今はリハビリに励んでいるって。ごめん場所は言えないよ。ミナムと約束したから。」


辛そうに顔を歪めるジェルミ。


これ以上追求すると、自分とミナムの間で板ばさみになってしまう。


 


ミニョの話が聞けただけで、収穫はあったというものだ。


ふとテギョンにある思いがよぎる。


入院中のケアは、どうなっているのだろう?


たった一人のミナムがここにいるという事は、頼れるものはいないはずなのだ。


 


「あっそれはさ…ミナムの知り合いが偶然向こうにいて…ミニョのこと頼んでいるんだって…」


「知り合いって…どういう関係なんだ」


テギョンの疑問に答えたジェルミだが、知り合いというのが引っかかる。


 


だが、それ以上問いただすことは叶わなかった。


ミナムが、帰宅したからである。


 


二人の間で、交わされた短い挨拶。


 


「え?ヒョン帰って来た…どこか行くの?」


入れ替わりに部屋を出て行くテギョンを見て、ジェルミは心配そうに声を掛ける。


 


「ああ…社長のところへ…ちょっと用があるからな」


ミナムと入れ違うように、宿舎を出たのであった。


 




======================================================================


テギョンさんのメインの話になりました。


いやあ安定の存在感でございます。


しかも、思った以上にキーが進む進む。(汗)


抑え気味にするのが、難しいくらいです。


ミナムとは蟠りがあるテギョンさんのターゲットはジェルミでした。


 


ジェルミは二人のヒョンのことを大切に思ってますからね…
でも、その発言によって大きく動くことになります。



 



 


 

拍手[26回]

PR
ROULETTE 25

A.N.JELLの宿舎では


朝の情報番組の番宣に出演のため、ミナムはまだ日が昇ってないうちに起床した。


隣の部屋を覗くと、ジェルミはまだ夢の中らしい。


とりあえず先にシャワーを済ませてたのち、再びジェルミをやや乱暴に起こす。


それでも覚醒しきってない彼には、シャワールームに押し込み水攻めの洗礼を受けてもらう。


「もうっ何すんだよ…冷たい!!」


「漸く目が覚めたんじゃないか…良かった良かった」


ちょっとかわいそうだと思ったが、寝起きの悪さゆえ仕方がない。


 


キッチンへ戻ったミナムは、冷やしておいたアイスティーを一気飲み。


この間シヌにあったときに、もらったものである。


ミニョもお気に入りだと聞いて、飲んでみたくなったのだ。


 


ふと、テーブルにおいていた携帯が反応していることに気付く


 


『もしもし…オッパ?今電話しても大丈夫』


「ああ…平気だけど…どうしたんだ?そっちは夜中だろう?」


可愛い妹からの電話は嬉しいのだが、すぐに時差を計算してしまう。


入院しているミニョが起きている時間としては遅すぎるのだ。


 


「ごめんね…なんだか眠れなくて…そうしたらオッパの声が聞きたくなっちゃった」


『全く…そんな可愛いことこと言われたらオッパは強くいえないなぁ。』


異国で怪我をして記憶障害の妹。


信頼できるシヌが傍についているとはいえ、いつだって気にかけている。


一番気になっている体調のことを尋ねると、リハビリは順調に進んでいるらしい。


 


『あとね…ホームパーティに誘われたんだ』


「そうか…良かったな?楽しんで来いよ」


シヌの共演者達と、内々で行うという。


ずっと病院にいたミニョにとって、気分転換になるはずだ。


 


その後もお互いの近況を話していたのだが…


やがてミニョが何かを言いかけては、やめることに気付いてしまう。


「ミニョ、困っていることがあればオッパに話してみろよ」


『うん…困ってるってことじゃないけど…ちょっと聞きたいの…今日ねシヌオッパが私の頭を撫でてくれたんだ…でね?その感触がなんだかすごく懐かしくて…以前も良くあったのかなって…ちょっと思って』


 


ミニョの質問に、ミナムは少々困惑してしまう。


ミナムが晴れてグループの一員となったとき、ミニョはテギョンの恋人になっていた。


そしてすぐに、海外ボランティアに参加。


シヌがミニョに思いを寄せていることはすぐに気付いたが、二人が一緒の姿をあまり見ることはなかったからである。


 


「オレは見たこと無いけど…二人きりのときだけだったとか?何かひっかかるのか?」


『ううん…そういうわけじゃないけど…あ…なんだか眠くなっちゃった…じゃオッパも仕事がんばって。あとか風邪引かないようにね。それからジェルミさんにもよろしく伝えて』


「うん…じゃあ、いつでも掛けてこいよ。オッパも掛けるから」


通話を終えたあとも、しばらく手元の携帯をじっと眺めるミナム。


やがて…シャワーを終えたジェルミが戻ってきた。


 


「ああ…スッキリしたぁ」


「そうか…ジェルミも飲むか?」


ミナムがアイスティーを指差す


 


「うん…ガムシロップ3個入れてね」


「うぇ…甘すぎんだろう?」


甘党のミナムでも引くほどだが、ジェルミは美味しそうにごくごく飲んでいる。


きっとジェルミとっては、あれが普通の味なんだろうと思うのだ。


 


「じゃ…髪やってくる」


殆ど毎日髪型を変えるジェルミは、今日はどのスタイルで行くか傍で見ているのも楽しみである。


 


「あっそうだ…ミニョが電話でよろしくってさ」


「えー!!ミニョが?電話きたの?いつ?」


ミニョからの伝言を伝えただけなのに、いきなりの質問攻め。


つい今しがたと伝えると、今度は何故そのときに教えてくれないかと拗ねられてしまう。


ジェルミもミニョと話しをしたかったというのだ。


だが…面と向かってならともかく、電話はまだ難しいということを伝えるとジェルミも察してくれたようだ。


 


「ところでさ…ミニョってここでオレの身代わりをしていたときなんだけど、たまにシヌヒョンに頭をなでられていたことってあった?」


「はっ何言ってるの?」


不意に投げかけた質問に、ジェルミは信じられないといった反応をする。


 


(ミニョの思い違いか?)


だが、ジェルミのそれは真逆の理由であった。


 


「たまにじゃなくて、ほとんど毎日だよ。ううんそれどころか1日に何回も。


オレ…ほら前にいったじゃない?シヌヒョンがあんまり優しいから嫉妬したって…」


ジェルから聞いた事実に、ミナムは驚いてしまう。


テギョンの手前控えていた行為は理解できたが、今の状況でなら自然と出るはずなのだ。


それなのに、ミニョは今日始めて撫でられたという。


 


(わざと?)


一瞬考え込むミナムを、ジェルミは怪訝そうに覗き込んだ


「ねぇ…それがどうしたんだよ?」


「あっいや…その…そうだ!!ミニョがシヌヒョンのドラマの共演者達とパーティをするってさ」


ジェルミの追求を誤魔化すため話題を変えたると、思いのほか食いついてきた。


日程の詳細を聞かれたが、残念ながらそこまでは聞いていない。


 


「もうっなんで聞いてないんだよ。あの生意気な奴も参加するんだろう?


オレもパーティー行きたい!!ねぇもう一回ミニョに電話してよ」


「無茶言うなよ。もう寝てるって!!それにオレ達にそんな時間あるわけないだろう?スケジュール詰まってんだからな…おいジェルミなにやって」


駄々っ子発言呆れるミナムを尻目に、なぜかジェルミは電話を手に持っている。


 


「あっもしもしシヌヒョン?今大丈夫?え?うん元気だよ…だけどねシヌヒョンがいないとすっごく寂しいよ。」


自然に甘えた声でシヌと話すジェルミ。


こういう部分は、まだミナムには真似できない。


そして、ジェルミの電話の目的はといえば…


 


「ところでさーパーティするんだってね。え?何で知ってるって?ヘヘなんででしょう?


うん…バレちゃった?でね、いつやるの?分かったまた電話するからじゃあね!!」


「全く…わざわざシヌヒョンに聞くことじゃないだろう?行けるはずもないんだから」


パーティ好きのジェルミに、ミナムは閉口する。


 


「それがそうでもないんだなーこの前のミナムとのロケが結構好評で第2弾があるっていわれたんだ。まだはっきり日にち決まってないから、パーティにあわせてもらうんだもん」


「はっ第2弾だって?…聞いてないぞ…それに運よく日程が合ったとしても、行けるかどうかわかんないだからな?」


あの番組はジェルミがメインだから多少は融通がきくのかもしれないが、こっちの都合だって聞いてほしいとミナムは心の中でぼやく。


しかも、誘われてもいないパーティのためだ。


 


「大丈夫だよ。オレとシヌヒョンの中だし、ミナムはミニョの兄さんだろう?それに絶対オレがいたほうが盛り上がるもん。」


「はぁ…おまえなぁ…そのポジティブ発言は、ほんと尊敬するよ」


自信満々なジェルミに、ミナムは溜息しかでない


 


「なんとでも。ああミニョに会えて一緒にパーティも出来るなんて楽しみだー」


小さな子供のように目をキラキラさせるジェルミ。


おそらくジェルミの願いは叶うのだろうと、ミナムは苦笑していた。


 


だが…早朝二人きりだと思っていた宿舎の中


ジェルミのテンションにあわせてミナムもつい声が大きくなっていることに気付かなかったのは仕方がなかったのかもしれない


 


ドアの向こう側で


海外の仕事から1日早く帰宅したテギョンが


この話しを聞いていたことを


 


(ミニョだって…どういうことなんだ!?)



==========================================================================


これまでは、ミナムの回想シーンの中での出演だったテギョンさん。


ついに本格的に登場となりました。


シヌミニョにとって最大の壁になるのですが、彼が出ないと盛り上がりません。


ここから、どう絡んでゆくかは…いつもの如くのノープランです。


 


拍手[32回]

ROULETTE 24

それから1ヶ月が過ぎた


ドラマは予想以上に好評を博し、どうやらシーズン2の噂も出ているらしい。


当然シヌにも引き続きオファーがあることを社長へと早速相談した


 


『…そう…そうか…良かったな!!』


久しぶりに聞いた電話の向こうの社長の声は、普段よりもトーンが落ちているように感じたのは気のせいだろうか?


 


「ただその場合、グループへの復帰が遅れるかもしれません」


シヌにとっては最大の懸念事項なのである。


 


『お前がそのつもりなら、ノープロブレムだ。こっちはなんとかなるんだからな


それにそっちでより評価が上がれば、今度は単独主演も夢じゃない。結果的にはわが社としてもBIGNAMEが手に入るんだ


電話の向こうのハイテンションで話すアン社長に苦笑しながらも、通話を終えたシヌ


 


演技の世界に思った以上にのめりこんでいる自分に驚く。


TOP俳優のアレクの演技は、大いに刺激になる。


 


何よりも、熱心なファンと公言するミニョ。


たとえ縁者としてだけのシヌでも、全く素通りされていたあの頃を思えば幸せである。


もちろんカン・シヌ個人へ目を向けてくれることが、何よりだが。


 


「贅沢な願いだな」


自嘲気味に呟くシヌの声は、例によってにぎやかな訪問者遮られた。


 


「シヌ居る?」


すでにどっちが自分の部屋かわからないくらいに、我が物顔でこの部屋を訪れるカイルである。なんだかんが言いつつこの状況をシヌも楽しんでいるのだ。


 


「あのさーリタからの提案なんだけど…」


カイルによると、4人全員そろうロケのオフがあるという。


その日を使ってホームパーティを希望しているのだ。


 


「でねっ?ミニョも来てほしいなって。出るよね?1日くらいなら外出許可も


「ああ…けど…ゲストが多いなら、ミニョが疲れないかな?


外出することは気分転換には良いだろうが、人見知りのミニョの事を気にしてしまうのだ。


 


「ああっそれなら、問題ない。オレ4達とミニョだけだから」


「え?オレ達だけって本当か?」


自信たっぷりに応えるカイルに、シヌは思わず聞き返してしまう。


 


「うん…本音は単にミニョを自宅に招待したいんだよ。ガールズトークっていうやつ?してみたいんだって…でもミニョのことだから遠慮するかもしれないだろう?


それなら、オレ達も一緒ってことで…はっきり言って男達はオマケってわけーそれなのに話しを付けろってお達しがあって。しかもシヌに直接言わずにオレを仲介させてさー酷くない?うううっ」


泣き真似はやや大げさと思いつつもリタに強く言われたのは、間違いないだろう。


 


「分かった…撮影の前にちょっと寄ってみる」


「そう?頑張ってね」


てっきり着いて来るかと思ったが、違ったようだ


 


病棟へ向かい、挨拶をしてからミニョの病室へ向かった。


ノックをすると、少し慌てたミニョの声と何かを片付ける音


 


「あっシヌオッパ!お早うございます。」


「ごめんね?食事中だったんだろう?気にしないで食べて」


サイドテーブルの上のトレイには、まだ食べ終えてない食器が見える。


 


「いえ…もうお腹いっぱいなので」


「ダメだよ…しっかり食べないと…そうだ終わったらお茶入れてあげるから」


気を使うであろうミニョを優しく諭すと、残りの食材に口を付け始めた。


最も、残っていたのは僅かだからあっというまに完食できたのだが。


 


そして…


「シヌオッパ…終わりましたよ!!」


「ん…良い子だ」


得意げなミニョを見て、思わず手が頭に伸びてしまう。


フワフワとしたミニョの髪の感触は相変わらずだった。


 


「え?」


「ごめん…つい」


頭を撫でられたミニョは、戸惑ったのかもしれない。


実際再会してからこの行為をするのは、初めてなのだ。


ミナム時代は、数え切れないほどだったが…


 


「シヌオッパ…」


「あっ!!そうだ…実は、ミニョにお願いしたいことがあったんだけど」


誤魔化すように話題を変えたシヌは、早朝の訪問目的を話し始める。


 


「お誘いは嬉しいですが…私なんかが行けば迷惑がかかりますから」


「そんなことないよ。心配しないで」


予想通り固辞をしようとするミニョ。


リタの話をしても、首を縦には振らないのだ。


控えめな性格に加えて、生来の頑固さも併せ持っているので一筋縄ではいかない。


 


(なかなか手ごわいお姫様だな)


どうやって説得しようかと考えあぐねていたときだった。


 


「あ~あ…もう何やってるんだよ」


ノックと同時に入ってきたのは、カイル。


 


「え?お前用があったんじゃないのか?」


「ないよ。一応気を利かせて時間差にしたんだからね!!でもちょっと気になって早めに来たんだもん。そしたら…もう…オレが説得するから」


「え?カイルがどうやって?」


彼が韓国語を流暢に話せることを知らないので、戸惑いは隠せない。


 


「良いから任せてよ要はハートなんだから」


そういって、強引に食器を片付けに行くように指示されてしまう。


 


果たして…結果は


10分後シヌが病室へと戻ってくると、カイルが大きな丸のジェスチャーをする。


 


「え?本当にか?どうやって?」


「んとね…『オネガイシマス』と『コノトオリ』を連呼した」


ペロッと舌を出すカイル。


 


「全く…それは説得って言わないだろう?」


「良いじゃない?結果オーライだし。じゃオレ先に行くよ。リタに教えてあげなくっちゃね!!」


カイルは弾んだ声で、病室を後にしたのであった。


 


「あの…本当に私なんかが行って…良いのですか?」


「もちろんだよ。オレがずっと傍についているから心配しないで」


尚も不安げにこちらを見つめるミニョを優しく見つめるシヌ。


 


その潤んだ瞳に吸い寄せられるように、ゆっくりと顔を近づけてゆくのだが


 


 


「あっ…忘れてた!!お茶いれないとね」


ぱっと身体を反転させると、湯沸しポットのスイッチを入れて用意をし始めるシヌ。


ミニョの僅かだが落胆している表情を、気付くことは無かったのだった。


 


「リハビリの方は、順調かい?」


「はい…何とか…頑張ってます」


やっぱり気になるのが、この話題だ。


ミニョのリハビリに立ち会えたのは、一度だけなのである。


自分の目で確かめたいと思うが、タイミングが合わない。


 


(パーティー…本当に大丈夫なのか)


ミニョに関してはのシヌは、過保護なくらい心配が募るのである。


 


一方…


 


一足早く病室を出たカイルはロケ現場でリタを見つけると、


開口一番ミニョの返事を伝えた。


 


「へぇ…やるじゃないメッセンジャーBOY。思ったより使えるのね?」


「もうっもっと他に言い方あるだろう」


素直に感謝の言葉を言わないのは、リタらしい。


 


「全く…さっきまでそわそわしてたくせに…良かったな」


「なっ何よ…全然心配なんかしてなかったわよ」


恋人のアレクには、案の定筒抜けである。


顔を赤くして否定しても、余り意味はない。


 


(こっちの二人は、問題ないね)


相変わらずの仲の良いところを、カイルは楽しそうにみつめていた。


 


 


しばらくしてシヌもロケ場所に現れると、アレクは真っ先に駆け寄った。


 


「ありがとな…リタの頼みを聞いてもらってさ…」


「いや…オレは何もしてない。結局のところミニョにYESと言わせたのは、カイルなんだ」


改まって礼を言われてしまい、シヌはとっさに否定する。


 


「ああ…そんなこと黙っていればいいのに…本当に正直だねシヌは」


 


少しだけきまりの悪い顔をしたカイルだが、なぜか大きく息を吸うと


 


「今日も1日ふぁいてぃーん」



と、一際大きな声をあげたのであった。

====================================================================
シヌとミニョちゃんの穏やかなひと時です。



ミニョちゃんをパーティに呼びたいリタさん。



あれ?言葉の壁はと思われるかもしれませんが?そこは何とかなるでしょう。



優しいけど押しが弱いシヌのことをお見通しだったカイル君。



見事ミニョちゃんを口説き落としました。



今回の記憶喪失編ですが、これまであえて封印してきた頭ナデナデがやっと出てきました。



いやあ長かったです。

拍手[33回]

LITTLE WING 6



「さて面倒なことが終わったから…これからが本題だシヌ」
「何?だって対談はおわっただろう?本題って何のことだ」
長い手をもてあましながらぐるぐる回すロンに、シヌは困惑する。
全く話が見えないのだ。


「お前、このオレが対談をするためだけにここに呼んだと思ってたのか?」
「ああ…相手がお前だし?誕生日だといって拉致られたこともあったしな」
もちろん普通ならそこまでしないだろうが、目の前にいるのはただの男じゃないことを
過去の経験からシヌは悟っている。


「ったくぅそんな昔のことをネチネチと性格悪いぞ…傷つくなぁ…ねぇミニョちゃんこれどう思う?」
「えっあ…あの…」
都合が悪くなるとすぐにこうしてミニョに助けを求めようとするのは、常套手段なのか?
急に話を振られたミニョは、ちょっと困ってる。
そしてそんなミニョの反応をロンは楽しんでいるように見えるのだ。


「ハイハイ…お二人ともそのくらいにして置いてください・・時間が勿体無いですよ」
手打ち式のように、その場を収めたのはハルカである


「やれやれ…うちの最年少のくせにすっかり生意気になってしまったな」
わざとオーバーアクションでお手上げポーズをするが、本心ではないだろう。
その証拠に目が笑っている。
紆余曲折があった後任ギタリストだが、すっかりメンバーとして定着している。
(もう俺の出る幕はなさそうだな)
安心しつつも、こころのどこかで僅かだが寂しさを感じてしまうシヌ。


「さん…さん…シヌさん!!」
「あっすまない…ハルカどうした?」
しばし感傷的になったシヌだが、ハルカの声で我に返った。


「これ…見て欲しいんですけど」
シヌの目の前に渡されたのは、譜面である。


「え?この曲?」
それは、天才ギタリストとして誰もが知っている人物が作曲したもの。
当時斬新だった彼のプレイスタイルは、いまでは当たり前になっているほどだ。


「オレなりにアレンジしたんですよ。どっかの誰かさんがどうしてもシヌさんのギターで歌いたいってゴネましてね。まったく子供よりタチがわるくて参りました。」
「黙れハルカ!いいから早くしろよ。」
嬉々として話すハルカをロンが遮る。これ以上余計なことを話すなといわんばかりに。


シヌが少し前に感じた思いなんて、あっという間にどこかへ消えてゆく。
「やれやれ…ロンは相変わらずだな…だけどオレのギターは…」


愛用のレスポールは宿舎に置いている。
もちろん他のギターで弾けないというわけではないのだが…モチベーションが違ってくるのだ。


「心配すんな、ちょっと待ってろ」
そういって部屋を出てゆくロン。
そして言葉通りすぐに戻ってきた彼の手には、見覚えのあるレスポールが…


「これ…いつの間に」
「お前が風邪で寝込んでいる間にちょっとな。いやぁ親切なリーダーが居てよかったなぁ」
驚くシヌに、しれっとした表情のロン。


(テギョンか…)
あのテギョンがロンのいうことを素直に聞くのが信じられないが、目の前の男の行動力はや強引さはシヌが誰よりも知っている。
KEIFERのギタリストとして、アジア人のシヌが受け入れられたのもロンの存在なくしてはありえなかった。


『お前のプレイで、オーディエンスをKOしろ!!』
一昔ほどではないにしろ、ロックは西洋のものだと言う固定観念は残っている雰囲気の中
初ステージでは、その言葉で吹っ切れたのである。
あの時…少なくとも
もがき苦しんでいたミニョへの思いを一瞬でも忘れられるほどだった。


そして今・・・
シヌの隣で微笑むミニョ・・・
この幸せがあるのは、やはりあの日のロンの強引さがあってこそ。


「さっシヌさん・・・向こうで合わせましょうよ…ロンのところには負けるけど、その辺のスタジオよりはクオリティ高いですからね」
ハルカに促されてるシヌ。


「わかった・・・じゃあミニョも一緒に…おいで」
「いいんですか?私が居てじゃまになりませんか?」
ミニョに視線を移すと、彼女はいつものように気を使うことを言う。
邪魔どころか居てもらわないと困るというのに。


だが・・このときばかりはシヌの願いは叶わなかった。


「悪いな、ミニョちゃんはオレが借りる」
そういって二人の間に割りったロン。
軽くミニョの肩に手を乗せただけなのに、抱き寄せたように見えてしまう。


「借りるって・・・どうして!!」
「こわっ・・・おいおいそんな嫉妬の塊の顔をするな」
できるだけ平静を装ったつもりだが、ロンには通じない。


「ロンさん…あの・・・私」
ロンの手がそのまま乗った状態のミニョは、この状況に困惑しているのか
下を向いたままである。


「もうミニョちゃんまでどうしたんだよーオ・シ・ゴ・トだよ」
「「え?」」
ロンの言葉に、ミニョはもちろんシヌもはっとする。


「あ~あ二人とも忘れているのか?ミニョちゃんはうちのホテルのイメージキャラクターだってことを」
はぁっと天を仰ぐロン。
確かに言われてみればそうだ。
ロンの父親が宿舎にわざわざ宿舎へ尋ねてきた日のことを思い出す。


「という事でこっちの事情はわかっただろう?…というわけでいこうかミニョちゃん」
ヒラヒラと後ろ手に手を振ったロンの後を着いてゆくミニョ。
途中振り返ったので・・・エールを送る


“ファイティン”
“はいっシヌヒョンも”
声に出さないが、お互いの気持ちは通じていると思えた。


そしてそのまま奥の部屋へと二人の姿が見えなくなるまで、見つめていた。


「もうっシヌさんは心配性ですか?」
「え?いや…その…ミニョは普通の女の子だから緊張しているじゃないかって思ってさ」
ハルカに呆れられたシヌは、とっさにそういって誤魔化す。
一緒にいる相手はロンだ。
誰よりもミニョとのことを応援してくれた男なのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうか・・


「大丈夫ですよ!!ロンはミニョさんには特別優しいから」
「ああ…わかった!!」
そうだ・・・何も心配することなのないのだ・・・
自分自身に言い聞かせるように、シヌもまたハルカの後を着いてゆくのだった。


ドアを開けてそこに広がる景色は、はっきりって普段自分たちが使用している
スタジオよりも広いかもしれない。
ハルカが言ったことは、オーバー発言ではなかったようだ。


サウンドもダイレクトに伝わってきて、やはり音楽を愛するものとしては
喜ばしいことだ。


シヌのリードを聞きながら、笑顔で続くハルカ。
「本当に弾きやすいなぁシヌさんは、ロンに感謝だね」


その言葉は、そのままハルカに返そうと思うシヌ。
ANJELLとは違ったサウンドは、シヌには良い刺激になるのだ。


ふと気が付けば・・・あれほど気がかりだったミニョのことを忘れてしまうほど
のめり込んでいたのかもしれない。


『ミニョちゃん・・・その服・・・いで』
『ロンさん・・・なッなにを言ってるんですか』
別室で交わされている二人の会話など、想像すらできなかったのであった。


=====================================

わざわざシヌを呼びつけたロンの思惑は、やっぱりこういうことでしたね?
目の前でハルカに暴露されてしまったロンは、ちょっと恥ずかしいのかもしれません。
ハルカ君はすっかり余裕の男の子になり、頼もしい限りです。


最後なにやら不穏な空気を流しておりますが、ここはご安心くださいと断言します。
シヌミニョは絶対なので!!


久々に続きをUPしたため、テンポがいまひとつ悪いです。
お許しを…

拍手[30回]


ROULETTE 23

 「これって、すごい人気で日本国内でも品薄状態だよ。おまけに本来国内限定なんだけど…輸送コストもあるしね。」
カイルからの話は続く。リタは費用はいくらかかっても構わないといった。
だが…なぜそんなに…高級いちごならこの国にもあるはず。

「リタはさ、この苺の名前が気に入ったみたいだよ。『甘姫』っていうんだけどさ
SWEET PRINCESS のことじゃない?。ミニョのイメージにぴったりだってだから…」
「カイル!!おしゃべりな男は嫌われるわよ!!」
徐々に顔を赤らめてゆくリタ。

「もう素直じゃないな!!ツンデレ女王様♪」
「いい加減にしないとぶつわよ!!」
二人のやり取りは、まるで姉と弟の兄弟げんかのように見える。
おろおろしながら見ているミニョに、大丈夫だと教えてあげた。

「撮影が終わって、これ受け取りに行ってきたところ。オレ一人でも良かったけど
リタがこの目で確かめたいからって…ね」
「それを聞いたときは俺も驚いたんだ。お嬢様気質で人任せだったリタが自分で動くというのはめったにないからね。だから受け取ってやって欲しいんだ」
カイルの言葉を受けて、アレクが続ける。

「そうか…ミニョ…あのね」
事情を知ったシヌが再びミニョに話すと、少し涙ぐみながら頷いていた。

その後、リタに促されたミニョが苺をパクリ。
途端に、幸せそうな笑顔がこぼれた

「甘くて、すっごく美味しいです!皆さんも食べてください!」
「やったー実は食べたかったんだー」
ミニョの言葉に真っ先に食いつたカイルは、箱の苺に手を伸ばす早業を見せてくれた。
「本当に、甘くてとろけそうだよ♪」
「もうっアンタって子は…」
ミニョと同じような笑顔を浮かべるカイルに、リタは呆れつつも苺を一つ掴む。

「まっまあ…悪くないわ。この私の手を煩わせたんですから美味しくなかったら許せないけどね」
「それは良かった…リタに貶されないだけ光栄な苺だな…」
いまひとつ素直じゃないリタと、そんな彼女を愛しそうに見つめるアレク。

「リタさん、本当にこんなに美味しい苺をありがとうございます」
その後ミニョからリタへ感謝の言葉が告げられたが、リタは何故か少し不機嫌な顔をする。

「オンニ」
「え?」
小さく呟いたリタの言葉が聞こえなかったのか、思わず聞き返すミニョ。
「だから…オンニって呼んでも良いわよって言ったの!!」
少し大声でいったあと、恥ずかしそうに顔を逸らすリタ。

「あの…えっと」
「ミニョ…リタはね…きっとミニョのような可愛い妹が欲しかったと思うんだ…だから呼んであげようか」
シヌの言葉に頷いたミニョ。

「リタオンニ…ありがとうございます」
「そうよ…今日から妹にしてあげるわ♪」
ミニョをぎゅぅっと抱きしめるリタ。

(やれやれレ…ライバルが増えたかもな)
シヌは、苦笑するしかなかった。
=========================================
頑張り屋のミニョちゃんが、心配でたまらないシヌ。
それにミニョちゃんにはなにやら秘密が?気が気じゃないのかもしれません。
そんなときにふと思い出したのは、あの方(傍にいなくてもやっぱりその存在の大きさを痛感してます)
そして、やって来たアレク&リタ。
お詫びのプレミアム苺を持参したリタは、素直じゃない女王様でした。
だけど、あまりに可愛いミニョちゃんにすっかりメロメロですね。

拍手[31回]

ROULETTE 22

「悪い、ちょっと訳あり…ほら?いつまでもそこにいないで早く来い」

アレクの呼びかけに、入ってきたのはリタである。
つかつかと入ってきたと思ったら、ミニョの前で立ち止まった。

「ミアネ…」
「え?」
リタの口から出た謝罪の言葉…ましてや韓国語だったため…ミニョは目を丸くさせている。

「おいっリタ。単刀直入すぎるだろう?シヌ。この間の事でリタが謝っていることを彼女に伝えてくれないか?」
「この間のことって…ああ」
帰りの車の中でケンカをして一人車を降りたリタが、ここへやってきてシヌに絡んだ日のことらしい。
そのことをミニョに伝えると、自分のほうこそ折角きてもらったのに
挨拶もしないで申訳ないということを、自分の口で伝えたいと言ってきたので
ベッドの端にあったメモ用紙ととると、さらさらとペンを走らせる。

「疲れているからと、失礼な態度をとってしまってごめんなさい」
「もうっそんなこといわれると、困るじゃない。はいっこれオミマイ」
ミニョに紙袋を押し付けたリタは、目で開けるように合図をする。
紙袋から丁寧に箱を取り出したミニョが静かに蓋を開けると、あっと声をあげた。
そこには、一粒がかなりの大きさの苺。
察するにかなり高価だろう・・・

当然ミニョも、動揺している。
「あの…」
「あら?イチゴ嫌い」
ミニョのリアクションがリタには少し不満だったのかもしれない。
だがミニョは大きく首を横に振ると、シヌに視線を寄越してきた。
「シヌオッパ…こんな高そうなものをお見舞いだなんて申訳なさすぎです」
つつましいミニョならではの言葉。
そのままリタに伝えると、ひどくがっかりした様子だ。

「それじゃ困るよ!!日本の親戚に無理言って取り寄せたんだからね」
そういって病室にやってきたのは、カイルである。
「日本て…リタどういうことなんだ?」
「それは…」オレが説明する。」
リタの話を遮ったアレクが、話し始めた。
自分とけんかをしたリタが、憂さ晴らしのような言動をここでしたことを
後でひどく後悔をしたらしい。
後日改めて病室を訪ねたいと思った時、お詫びを兼ねてミニョの好きそうなものを
見舞いの品として考えていたが、シヌにはここで怒られたので聞きづらかったといわれ
てしまった。
そんな時、ミニョの病室を頻繁に訪れているカイルからミニョがスイーツ好きという事を聞きつけ、このいちごを頼んだという話しだった。
 

拍手[19回]

ROULETTE 21

それからもミニョは、以前にもましてリハビリに励むようになった。
だが、そのメニューはシヌの想像よりはるかにハードになっているのだ。
あせらずにゆっくりで良いと声を掛けるが、ミニョは小さく笑って首を横に振る。
“心配しないで、シヌオッパ!!1日も早く自分だけで動けるようになりたいの”
素直だが頑固なミニョだから、言い出したら聞かない。

この日はロケが予定より早く終わり、そのまま病室へ向かうとミニョは不在だった。
「あら?こんにちは。今はリハビリ中ですよ。あと15分ほどで、戻ってくると思います」
シヌに気付いたのは、ミニョの担当の看護師である。
いい機会だ。ミニョの様子をそれとなく彼女に聞いてみる事にした。

「このところ、リハビリをがんばりすぎているんじゃないかと思うんですが」
「大丈夫ですよ。患者さんそれぞれに合わせたメニューです。ただミニョさんには、がんばりたい特別の理由があるようですけど?」
シヌに心配を一蹴した看護師は、思わせぶりの言葉を残してその場を離れた。

(特別な理由…?)
シヌには全く検討も付かないが、医療のプロからの言葉を聞いて少しは安心できたようだ。

しばらくすると、カタカタと車椅子の音が聞こえてきた。

ガラガラと扉を開ける音に続いて、入ってきたミニョ。

「リハビリお疲れ様ミニョ」
「シヌオッパ…いらしてたんですね?ごめんなさい待たせてしまいましたか?」
シヌの姿を見るなり、申訳なさげな表情のミニョ。
「いや・・少し前に来たばかりなんだ。撮影が予定より早くおわったからね。それよりもそんな風に俺に謝らなくても良いからね。前から何度も言ってるけど俺がミニョの顔を見たくて勝手にここに来てるんだから。それに待っている間ミニョが頑張っているんだなあって想像してたし。ねっ?」
「はい…シヌオッパ」
シヌの言葉に、今度ははにかんだ顔を見せてくれるミニョ。
そういえばぎこちなかったオッパ呼びは、かなりスムーズになって来ている。
シヌ自身も、この呼ばれ方に馴染んでいるようだ。

先刻看護士にいわれてはいたが、やっぱりミニョの身体が気がかりだ。
辛くないかと尋ねると、始めのころより体力が付いてきたという。
確かにミニョの頑張りは、ミナム時代に証明済みである。

「わかった…だけど絶対に無理しちゃダメだ。いいね」
「はいっシヌオッパ」
頬にそっと触れると、コクコクと頷くミニョ。
本当は、ミニョが頑張る理由を聞きたかった…
だけど、ミニョの全てを知りたいなどと言うのは思い上がりも甚だしい。
(あいつなら…有無を言わさず聞き出そうとするんだろうな)
自分には決して真似のできない横暴ともいえる行為が、許されていた男。
本当は羨ましくて仕方なかったのかもしれない。

「オッパ…シヌオッパ?どうなさったんですか」
「あ…ごめんごめん!!ちょっとぼうっとした」
病人のミニョに気を煩わせることがあってはいけない。
シヌは普段どおりの優しい微笑をミニョへと向けたのだった。

それから程なくして…
近づく複数の足音…
ミナムとジェルミかと思っていたのだが…

『あっあの…こっこちらです!!』
ミニョの担当の看護師の声が聞こえてきた。普段の声よりゆうにオクターブは高い。
だがその理由は、すぐにわかった。

「やぁ…」

ノックに続いて…やってきたのはアレクだ。
病室へ案内してくれた看護士にお礼を伝えると、彼女は真っ赤な顔をして立ち去った。
どうやらアレクの大ファンだというのは、本当らしい。

「あの…」
ミニョは突然現れた、カイルに緊張の色が隠せないようだ。
元来人見知りなのだから、無理もない。
「ミニョ…顔は知ってるよな?ドラマの共演者で主演の…」
「その先は俺から自己紹介させてくれよシヌ。初めましてアレク・J・フリードです」
シヌを遮ったアレクは、ミニョのベッドに近づくとその場で屈んでいる。
長身のカイルだから、ミニョを威圧しないようにと目線の高さを合わせた配慮なのかもしれない。
もちろんその存在感は、さほど変わらないようだが


「はっ初めまして…コ・ミニョです」
簡単な挨拶程度なら、話せるミニョ。
「アレク…来るなら言ってくれれば一緒に来たのに」
撮影のときは一言も言ってなかったアレクに、思わず苦言を呈してしまった。

拍手[21回]

ROULETTE 20



逃げるように去っていた看護士。


 


フィアンセという言葉―決して聞き間違いなどではない。


にわかに信じがたい話だが、改めて考えると思い当たることは多い。


 


手術後、病院で目覚めたときのシヌの反応。


あれほど忙しいシヌが、殆ど欠かさず会いに来ること


ましてや今回は、地方ロケが終わった足でだった。


 


そして意味深な兄ミナムの言葉・・・


ミニョ自身、シヌが傍にいると不思議と安心できたこと


 


さっきシヌに聞きたかった質問の答えが、ここにあったのだ。


この病院で目覚めてからのことが、次々と蘇ってきた


 


“ミニョ俺のことがわからないのか!!”


(シヌオッパ…)


 


“君のお兄さんの仕事仲間だよ”


(シヌオッパ…)


 


“カン・シヌ覚えてくれる?”


(シヌオッパ…)


 


“見られたくなければ、俺が隠してやるから”


(シヌオッパ…)


 


“変わってないな…ミニョ”


(シヌオッパ…!!)


 


記憶をなくした自分をどんな思いで見てたのだろう?


もし自分がシヌの立場だったら、耐えられなかったに違いないのだ。


時折見せる翳りのある表情の理由もこれでわかった。


 


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・シヌオッパ・・・」


あんなに優しいシヌを忘れてしまったこと


ひたすら謝罪の言葉を繰り返すミニョ。


シーツを握り締めた手の甲に、ポタポタと落ちる涙の滴。


泣いたって仕方がないとわかっている。


もし涙が枯れるくらい泣いて思い出せるならどんなにか良いだろう?


 


その時、ノックもそこそこに病室に入ってきたのはいつもの看護士。


その表情はかなり焦っていた。


 


そしてミニョのベッドの傍まで来ると、いきなり信じられない行動をとった。


「申し訳ありません!!ついさっき聞きました。うちのものが軽率な発言をしてしまったことを」


そういって土下座をしているのだ。


 


「あっあの・・・頭を上げてください・・・貴女は何も悪くないじゃないですか!!」


慌ててその行為を止めるミニョだが、看護士は指導係である自分の責任だといって聞かない。


 


「聞いたときは、びっくりしました。今でも信じられません。だけど少し感謝してるんです。私の疑問が解けたのだ」


「え?どういうことですか?」


ミニョの言葉を受けてゆっくりと頭を上げる看護士は、意外そうな表情をしている。


 


そしてミニョは、うまく伝わらないと思いながらもいまの自分の気持ちを看護士へと伝えた。


「……ということなんです。彼が何故あんなに私に優しいのか不思議で仕方なかったので」


その言葉で看護士の表情は少しは和らいだように見えたため、改めて看護士が知っていることを教えてくれるようミニョは頼んだ。


 


尤も当の看護士にしても、詳しいことは知らないようだ。


この病棟に時間外でも自由にでいる出来るのは、家族あるいはそれに殉ずる者だと言う事。


担当医から、シヌがミニョの婚約者だと聞かされたこと。


 


ミニョを思うあまりシヌが強引な行為に走ることを懸念して、なるべく気にかけていたこと。ただその心配は全く杞憂であるとすぐに気付いたという。


そして記憶をなくしているのに、シヌに打ち解けてゆくミニョの姿をみて安心してたこと。


 


「でも…私思い出せなくて…申し訳ないんです」


「無理に思いなすんじゃなくて…ねえ?前世の恋人と生まれ変わって再会したと思えば良いでしょう?彼に前世の記憶があってあなたにはなかった。だけど彼にひかれた。同じ相手を2度好きになるなんて、なんだか得した気持ちにならないかしら?」


ミニョの葛藤に対し看護士は考え方を少し変えてみるのだという。


だがそれよりも、ミニョは看護士の言葉で目をまん丸に見開いてしまった。


 


「好きって…私が?シヌオッパを好きなんですか?」


「え?疑問系?ってまさか、気付いていなかったの?これまでずっと恥ずかしがっているからって思ってたのに。そうよ。きっとあなた以外の世界中の人が気付くと思うわ」


断言しようとした看護士は、すぐ前言撤回する。


 


「あっもう一人…肝心の彼もあなたの気持ちに気付いてないみたいね。まあ彼の場合は慎重になっているからある意味仕方がないけど…今朝だって二人のやり取りは恋人にしかみえないわ…だから言い訳になるけど…」


さっきの看護士の勇み足のような発言に繋がったのだと。


 


「好き…好き…」


呪文のようにその言葉を唱えだすミニョ。


混乱する頭で、必死に自分の気持ちを整理しようとする。


そんなミニョに向かって、看護士の言葉は続く。


深く考えずに、今ミニョが傍にいて欲しい人を思い浮かべるのだと。


 


答えは、すぐに出た。


異国で兄のミナムにも会えない日々の中、こうして心穏やかにすごせていたのは


シヌが傍にいてくれたから。


だからリタの存在に心を痛めてしまった…所謂嫉妬という感情だったことも。


 


気持ちを自覚できたら、一気に心が軽くなった。


昔のことはわからないが、今のミニョは確かにシヌを好きなのだと


 


ミニョのその様子を見て、看護士もまた安心したようだ。


この後戻ってきたシヌに、すぐにでも気持ちを伝えるように進められる。


 


だが…


泣いたばかりのこの顔で言いたくないのだ。


 


できれば…


きちんとお洒落をしてメイクもして…


今より少しでも可愛くなった自分で…この溢れる思いを伝えたいって思うのは


当然のことだったのかもしれない。


 


シヌ本人が全く知らない“フィアンセ”という言葉は、こうして完全に一人歩きを初めてしまったのだった。


===============================


ミナムが仕事へ行って寂しがるだろうミニョちゃんを気遣うシヌです。


ミニョちゃんの寂しさはもちろんですが、隣のシヌにドキドキです。


(自覚したら、恥ずかしいですから)


シヌのフィアンセという事実は、衝撃的でしたがこれまでのシヌの言動から


疑うことなく受け入れたミニョちゃん。


もしすぐにシヌに告白していたら、どうなっていたのでしょうね。 


 

拍手[37回]


ROULETTE 19



部屋に戻った途端、カイルはこらえていた笑いが一気にこみ上げてきた。

「ククク…アハハ」
ジェルミがMCを担当しているバラエティは、本当に面白い。
(言葉がわからないという振りも、こういうときは厄介だな)


其れでも、無表情を決め込むには限界があった。

映像でだけ笑っていたということにしたが、シヌに何か感づかれたのではと冷や汗ものだ。
(こういうところは、やっぱり鋭いし)

「それにしてもあいつ、本当にからかいがいのあるやつ」
こっちの挑発に、あまりにもストレートすぎる反応をするジェルミ。


ミニョの病室へよった帰り道、反対側からやって来た二人組みと擦れ違った。

(あれ?あいつらシヌの…)
名前は忘れたがドラム担当の金髪、隣にいるのはなるほど良く似てるーミニョの双子の兄貴だ。


“ねぇミニョの病院ってこの辺なんだろう”
“そのはずだけど…変だな道間違えたのかな”
二人に会話が耳に入った。

間違ってはいない…少しわかりにくいだけ。

しばらくすると、どうやら、金髪のほうが小走りでこっちへやって来た
訊いた方がと早い考えたのだろう…予想通り大学病院への道筋。

ここからなら、ゆっくり歩いても15分ほどで付く距離だ。

だが…カイルにはある考えが浮かんでしまう。
あの後おそミニョらくは、シヌに連絡をするだろう。

(このタイミングは、いくら兄貴でもオジャマ虫だよな)
少しだけ遠回りをさせたつもりだった。

こんなに時間がかかったのは、袋小路にぶつかったのかもしれない。
(それは・・・オレのせいじゃないし)
一応自分自身を擁護する。

シヌにくっついてきたジェルミを目にしたとき、屈託なく甘えるその姿が羨ましく・・また嫉妬すら感じてしまった。

シヌがこっちへいるのは撮影中のあいだだけ…
帰国したら自分の存在など、すぐに忘却の彼方へと飛んでしまうに違いない。

「一人で寝るベッドは、やっぱりひろいな…」
そう呟いていたのであった。


翌朝、ミニョの病室ジェルミと一緒に向かったシヌ。
ジェルミはこの後番組収録の打ち合わせのため、ミナムを迎えに来たのだ。
尤もミナムは、後での入りでも良かったのだが・・・ジェルミが一人はいやだといったらしい。

病室の前に来ると、ミニョの可愛い声が聞こえてきた。
“っもう…オッパたらぁ…そんなこと言っていじわるだぁ”

こんなに素直に甘えた声は、やっぱり初めて聞く
やはりミナム相手だからなのだろう。

シヌに心を許してくれているとはいっても、肉親のそれには到底適わない。

(フッ…ミナムに張り合うなんて…これじゃあジェルミと変わらない)

シヌは思わずく苦笑してしまった。

ノックに続いて入っていくと、ミニョはすぐにこちらへ気付いてくれた。

「シ・・シヌオッパ…ジェルミさんお早うございます」
「おは「おはようーミニョ…あれっシヌオッパって?」
シヌが返事をする前に、意外な呼び方に対してジェルミが即座に反応した。


「あの…それは」
「そんなの良いだろ…行くぞ」
ジェルミの話を遮り、腕をつかむミナム。

「もうちょっと位ミニョと話をさせてくれても…」
「昨日散々話ただろう…それに今回オレ達は仕事で来てるんだ」
ぼやくジェルミに、ぴしゃりと言い放つミナム。
だが、そこはやっぱり素直なジェルミ。すぐにミナムの意見に同意した。

「じゃぁシヌヒョン悪いけど、後よろしくお願いします。ミニョ我がまま言ってシヌヒョンに迷惑をかけるなよ!!」
兄らしい言葉を残して、ミナムは病室を後にしたのだった。


それからしばらくして・・・
歩きながら…ミナムは昨夜のミニョとの会話を思い出していた。

“シヌオッパって…私のフィアンセなんでしょ”
人はあまりにも衝撃的な話を聞くと、思考回路が停止するというが
ミナムはまさにそうだった。

何か言いたいのに、全く言葉が出ないのである。

“シヌオッパが優しくしてくれるのって、オッパの妹だけの理由じゃないって言った
あの言葉の意味わかったんだ”


あの時ミナムはそんなつもりで言ったんじゃなく、単にシヌの気持ちを確かめればという
思惑だった。


それにしても、誰が何のためにフィアンセなどと吹聴したのだろう。
看護士の失言によって知ったというが、少なくともシヌは違う。
ミニョに対しては誠実すぎるほどのシヌが、ありえない。


“それで?ミニョはその話を聞いてどう思った?”
“うん…凄くびっくりした。だけどなんでかな…シヌオッパって凄く優しくて
傍にいてくれるだけで心が温かくなるの。
それにね忙しいのに、毎日のように会いに来てくれて

疲れた顔なんて見せないんだ。いつも私の心配ばっかりで…
シヌオッパを覚えてない私をどんな気持ちで見てたのかなって思ったら…
涙がとまらなくなっちゃった”

シヌと再会してからの日々を思い出していたという。

その後やって来たシヌには、看護士がとっさに機転を利かせてくれたらしい。

ミニョの話を静かに聞きながら、何故はっきりとその話を否定しないのだとミナムが自問自答していた。

《違うよ!シヌヒョンはフィアンセなんかじゃない。お前の恋人はファン・テギョンだ》
そうはっきり告げるチャンスはいくらでもあるというのに…

だがこんなことになる前からずっと思ってたことがミナムにはあった。
大切な妹を任せられる相手として二人を天秤にかけたら、少しの迷いもない
間違いなくシヌに託したいと思っている。

それにここにいるミニョは病人には違いないが、自分が知っている中で一番女の子の表情をしている。
いま確かにミニョは恋をしているのだ。

シヌの気持ちはわかりきっている。
だからミナムは、このまま黙認をすることを決めた。

他の人にはこの話が耳に入らないようにと、ミニョに口止めをする。
“わかってる…シヌオッパにしれたら気をつかうもの。オッパと二人の秘密だね”
そういって指切りをした。

こうして時間を稼げるうちに稼いで…二人の関係を揺ぎ無いものにしておけばいい。

「ミナム…さっきからどうしたんだよ?難しい顔して?」
ジェルミが心配そうに声を掛けてきた。
(そう言えば…こいつもミニョのこと…)
ジェルミだって人間的には凄くいい奴だ。だからこそミニョにとっていつまでも変わらない友達ていて欲しいと思ってしまう

「ああ…ごめん…武者震いかもな…緊張してるみたいだ…オレうまくできるかな」
「大丈夫だよ!!俺に任せておけば」
自信満々のジェルミ笑顔が、やけに眩しかったのだった。


======================================================


キリが良いので、一旦ここで終わります


カイルくんは、足止めが目的で遠回りさせたようです。


まだ謎な部分が多くてすみません。


 


一方ミナムは、ミニョちゃんから重大な話を聞かされました。


混乱する頭の中…ハッキリしているのはミニョちゃんの幸せ。 


そうしたら、相手はもちろん一人しかいませんよね。 


拍手[32回]

ROULETTE 18



記憶障害になったミニョとの再会で、初めこそぎこちない様子のジェルミだったが


徐々に持ち前の明るさでをフルに発揮してミニョに接する。


ANJELLの動画を見ていると知ったので、特にジェルミがカッコ良く映っている


(あくまでも本人の申告だが)ものをプレイリストにいれている様だ。


 


「ほらぁ!これオレのスーパーテクだよ。凄いでしょう?」


「はい!!どうやってるんですか?マジックみたいで尊敬します」


ジェルミのペースにすっかり載せられているミニョ。


思い起こせば、ミナム時代のミニョはこうしてよくジェルミと盛り上がっていた。


 


「おい!!自分ばかりプッシュかよ?ミニョ!オッパのほうがもっとカッコイイのあるからな!!」


ジェルミに対抗するミナム。


今回ばかりは、シヌは完全に蚊帳の外の扱いらしい。


3人の楽しげな様子を、見守っていた。


 


やがて時間はあっという間に過ぎてしまう。


時折ミニョが目に手をやるしぐさに気付いたシヌは、今日は早めに引き上げることを提案した。


 


「えー!!もう?まだ良いだろう?」


真っ先に漏れるジェルミの不満の声。


 


「だめだ!!ミニョが疲れてしまうだろう!!行くぞ」


半ば強引にジェルミの方を掴むシヌ。


だが、続いて立ち上がりかけたミナムに対してはそのままでいるように促す。


 


「隣にベッドがある。今日は付いていてやってくれ。ミニョも久しぶりだからミナムがいたほうがうれしいよな?」


「えー良いなぁミナムは」


この期に及んで実の兄のミナムと対等に張り合うジェルミに、ある意味尊敬の念を抱くシヌ。


あげく一人でホテルに戻りたくないといいだしたので、妥協案として提案したのは…


シヌの部屋を来ること。


途端にジェルミは、上機嫌になった。


 


「やったー!!シヌヒョンのところに泊まれるんだ。それならいいよ!!」


気分のUPDOWNが激しいジェルミを、ミニョは呆気にとられてみていた。


今後はこれが日常茶飯事になるということに、今のところ気付いていないだろうが…


 


病院からの道すがら、シヌはジェルミに話しかける。


「ミニョに会って、良かっただろう?」


「うん…ほんというとさ、すっごく怖かったんだ。ミニョの記憶の中にオレがいないってことが。だけどミナムに言われた。シヌヒョンがここでミニョと再会した時は記憶障害のことなんて予想できなくて、もっと辛い思いをしたんだって。それと比べたら恵まれているだろうって」


しんみりと語るジェルミ。


さっき追いかけたミナムがそんなことを…確かにそれは合っている。


 


「ミナムの言うとおりだ。ミニョが目覚めたときの“誰”は、今だから言うが


かなりのダメージだったよ。それに引き換えジェルミは、存在を認識されていてちょっと羨ましかったな」


 


「へ…へぇそうなんだ。でもさ!それってシヌヒョンが傍にいてくれたからなんだよね。


ミナムとも話したけど、シヌヒョンがいなかったらミニョはどうなっていたんだろうって想像するだけで怖いよね」


そう語るジェルミの表情は、少しだけ大人びて見えた。


少し会わないうちに成長していたのだと、頼もしくもありだけど…少しだけ寂しく思う。


 


そうして話しながら家の前に着いた時だった。


 


「シヌ!お帰りー♪」


隣の部屋から顔を出したのは、カイルである。


 


だがシヌが返事をする前に、声をあげたものがいる。


 


「あー!!お前ー!!さっきのうそつき男だー!!」


「誰?」


指を突き刺すジェルミに対してカイルは怪訝な表情である。


 


「とぼけんなよ?変な道教えやがって!!」


「え?ああ…何だ…ねぇこいつシヌの知り合い?」


興奮するジェルミに構わず、シヌへ尋ねてきた。


「知り合いっていうか。同じバンドのドラマーだ。動画で見て知ってたんじゃないのか?」


以前ミニョがリピートしていた映像に付き合わされたという話があった。


当然ジェルミだって目にしている筈なのだ。


 


「ああ~!!ごめんねー。覚えてなかった。やたらと目力ハンパないボーカルと、ミニョの双子の兄さん?は覚えていたけど、ドラムって印象薄かったのかな」


「何だって!!失礼な奴だな…大体さっきからやけにシヌヒョンに馴れ馴れしいけど誰だよ?」


揶揄するカイルに、ジェルミの怒りは再燃したようだ。


だが…どうやらジェルミもカイルが何者かというのは気付いてなかった。


 


「やめろ!!近所迷惑になるだろう、ジェルミとにかく入れ…ああカイルもだ」


二人を促すシヌ。まさかこんなことになるとは思いもよらなかったのだ。


 


部屋へ入るのは初めてのジェルミは、キョロキョロとあたりを見渡し少し落ち着かない。


対するカイルといえば勝手知ったるなんとやら、真っ先に椅子に座ってしまう。


そしてジェルミは間を大きく開けて反対側へ腰掛けた。


 


(やれやれ…)


当然シヌの場所は二人の間となる。


初めにジェルミのほうを向き、カイルを紹介する。


ドラマの共演者だと伝えると、はっとした後に決まり悪そうな表情だ。


 


「ほら?そっちだってシヌのドラマ観たんだろう?オレのこと気づかなかったくせに」


「だっだって…ドラマではこーんな眼鏡かけてたし、印象違ったんだ。そっそれに


主演とあのキレイな女優さんしか目に入らなかったんだよーだ」


指で大きな輪っかをつくり、先刻のカイルの言葉をそのままそっくり返すジェルミ。


 


「「フン!!」」


二人同時に、プイと顔を横にそらず。


まるで似たもの同士の二人だ。この状況がいつまでも続くのはシヌとしてはやりにくい。


何となく気まずい雰囲気が続く中、言葉を発したのはカイルである。


 


「ねぇねぇ…シヌお腹すいた…ご飯たべたい」


「おいっお前!!シヌヒョンに作らせるのか!!生意気だぞ」


遠慮のない言葉に、ジェルミが大きく反応した。


 


「えー?だっていつものことだもん・・ねぇシヌ?シヌって本当に料理上手だよね」


何故がわからないが、やけにジェルミを挑発するカイル。


だが…シヌが料理上手ということはジェルミにも当然知っていることだ。


 


「そんなのとっくに知ってるよ。俺はずっとシヌヒョンと同じ宿舎でくらしていたんだからね」


付き合いの長さで言えば、ジェルミのほうが上だ。


 



「だっだけど…こっちに来てからは、殆どシヌが作ってくれるんだから!!」



「じゃあ…全部で何回だった?絶対オレのほうが多いに決まってるよーだ」



ワーワーギャーギャーと再び言い争いの始まった二人を無視して、シヌはキッチンへ向かった。


 


 


そして30分後…


「わぁい…シヌヒョンの料理やっぱり美味しいな」


口の周りソースだらけにして、頬がるジェルミ。


まるで子供のようだが、こんなことが嫌味なくできるのはジェルミならではだ。


 


対するカイルは…ジェルミの食べっぷりを呆然と見ていたが


負けずに、大口を開けている。


 


そして二人同時の『お代わり!!』


二人の勢いに、シヌは呆気にとられるしかなかった。


 


食事の後は、ジェルミがDVD鑑賞をしようと言い出す。


 


「オレがメインなんだよ!!シヌヒョン見たことないよね?」


「ああ…まぁな…だけど」


シヌはちらりとカイルを見る。


韓国のバラエティ番組だから、言葉がわからないと楽しめないと危惧したのだ。


 


「オレの事は気にしないでいいよ」


「ほら!!あいつもそういってるし…早く見よう!!」


やられっぱなしだったカイルに対して、形勢逆転となったジェルミは


水を得た魚のように生き生きとし始め、番組をみて更に解説付きという


ファンから見れば、かなり贅沢な状況であった。


一方のカイルは、時折笑って見ている。


言葉は理解できなくても、バラエティでの笑いのつぼは同じなのかもしれない。


 


それから数時間…


急にジェルミが静かになったと思ったら、シヌの肩に寄りかかっている。


 


「しぬひょん…オレ…ひとりでちゃんと回してがんばってるんだよ…」


どうやら寝言らしい…


 


「そうだな…オレには出来そうもない…えらいぞジェルミ」


「うん…」


シヌが素直に褒めると、ジェルミの口元は満足そうに緩む。


だが…このままでは、肩が辛い。


 


「シヌ…ベッドに運んだら?用意してきたよ」


「ああ…ありがとう悪いな」


タイミングが良いと思いつつ、ジェルミを寝室へ連れて行った。


 


「あ~あ…世話焼けるよね?」


「お前がそれをいうか」


日頃同じようなことをしているカイルの発言を聞いて思わずシヌは苦笑する。


それから間もなくして部屋に戻ると言い出したカイルは、帰り際意外な言葉を残した。


 


「あいつが起きたら、ちょっとやりすぎてごめんね伝えておいてよ。あとドラム叩きながら歌ってる映像ってカッコ良かったてさ…じゃお休み♪」


 


「あっおいカイル」


シヌが何か言う前に、パタンと閉まったドア。


カイルのほうはジェルミの存在に気付いていたのに、何故?


シヌは怪訝に思うが、からかいが過ぎたくらいでそれほど深く考えることはなかった。



=========================================


ミニョちゃんの特別室に、ミナムがお泊りになりました。



(シヌもOKなのですが、今のところとまった事はありません(汗))
積もる話もあるでしょうし…(ミナムだけにしかいえないことも…)

そしてジェルミに遠回りさせた犯人は、予想通りのカイルくんでした。
シヌを廻って張り合う二人。
やっぱりどこでも人気のヒョンです。
帰り際にカミングアウトしたカイルくん。
彼の真意はどこにあったのでしょうね



 

拍手[29回]

<< 前のページ 1 |  2 |  3 |  4 |  5 |  6 |  7 |  8 |  次のページ >>
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[09/25 まゆ]
[09/24 ゆぅぺん]
[07/06 まゆ]
[07/05 まるちゃん]
[06/01 まゆ]
最新記事
(05/11)
(02/12)
(02/12)
(12/28)
(12/28)
(12/04)
(11/15)
(11/02)
(11/02)
(10/21)
プロフィール
HN:
まゆ
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
忍者カウンター
忍者アナライズ
フリーエリア
◆ Powered by Ninja Blog ◆ Template by カニコ
忍者ブログ [PR]