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ROULETTE 36

一時間ほどして、看護士の女性が戻ってきた。


「着替えです。運ばれてきたときに着用していた服はクリーニングに出していますので、退院までには間に合います。あとは、雑誌も買ってきました」


「ありがとう…これで足りるかな」


財布から取り出した、100ドル紙幣数枚。


だが、こんなにかかってはいないと受け取りを拒否する看護士。


 


強引にも受け取ってもらうことも考えたがある考えを思いつきここは一旦引くことにするテギョン。


 


「異国であなたのように親切な女性に会えるなんて、白衣の天使は本当にいるのだと思いました」


「天使だなんて、褒めすぎです。それに私は人として当たり前のことをしたんですもの」


テギョン視線を感じると、彼女は慌ててそれをそらし毅然と言い切る。


 


「でも…そんな天使にも休息が必要です。夜勤明けだったのですよね?帰って休んでください」


「あ…はい」


テギョンの言葉に、落胆の様子を見せた彼女。


 


「明日から数日間ですが、お世話になりますのでよろしくお願いします」


「え?あのなんのことですか?」


すでにこの病院に入院しているテギョンが改まってこのようなことを言い出すことに、


看護士の女性は戸惑っている。


 


「貴女を僕の専任にしていただけるように依頼しました。勝手を言って申し訳ありません」


「そんなこと!!短い時間ですが、精いっぱいお世話させていただきます」


テギョンの言葉に、看護士の表情がぱあっと明るくなるのが分かった。


 


自分の容姿が人を引き付けることをわかっているテギョンは、それを最大限に生かすことにしたのである。


 


それにしても、韓国内ではスーパーアイドルで知らぬ人がいないほどだというのに


この国では違う。


(井の中の蛙ってやつだな)


当初の思惑では、有名人である自分が人目につかないように別棟へと便宜を図ってもらうつもりだった。


だがこの状況でわざわざアピールするのは、売れないアイドルのようだ。


ならば、この看護士から有益な情報を聞き出すのが一番の策だと思ったのである。


ミニョがいるという確証は得られていないというのに…ここに拘ってしまったテギョン。


自分の直感が正しいと、信じたかったのかもしれない。


テギョンの退院は当初予定していたより、長くなってしまった。


『もう少し多く摂取していたら、命にかかわるところだったんですよ』


 


故意に行った行為だとは、口が裂けても言えない。


本当に苦しんでいる人たちには、心の底で懺悔をするテギョン


 


そして入院が長引くことによって本来テギョンがここに来た目的の遂行が困難になったことを思い出し、携帯を手にした。


 


連絡先はアン社長である。


電話口の社長の第一声は相変わらずの軽いノリだが、病院のベッドからの電話と伝えたとたん急に深刻なものに変わる


 


【病院てどうした?病気か?ケガか?大丈夫なのか?】


「過剰な食物アレルギー反応を起こしてしまったらしい。気を付けてはいたんだが気が緩んでいたんだな。治療のため数日間入院して治療している」


独身の社長にとってテギョンたちは息子も同然なのであり、テギョンに関しては入所も早かったので特に気にかけてくれているのだ。


 


【そうか、大事に至らなくてよかったぞ。ところで不自由はしていないか?あっ病院はどこだ?】


「ああ…クリスフォード大学の附属病院だが、社長聞こえてるか?」


一瞬返事の途切れた社長を怪訝に思うテギョン。


 


really?お前たち日ごろから仲が良くないが、やっぱりどこか引き合うものがあるんだな?まあそうじゃないとこんなに一緒にやってない】


「なんのことが、話が見えないぞ」


先刻までの深刻そうな様子からどこか楽しそうに変わった社長に、テギョンは困惑する。


 


Sorry…その病院の旧館は、シヌのドラマのロケで使っているんだ】


「シヌの!!…そうなのか」


社長の言葉を聞いた瞬間のテギョンの気持ちの高揚は、言葉で言い表せないほど。


だがそれを悟られないように今回の目的である―舞台鑑賞について切り出すのである。


「ということで、社長にいわれていた舞台の件だが…その」


No プロブレン…あれはまあいんだ…それよりお前の身体を優先しろ】


舞台鑑賞に関しては仕事漬けのテギョンを無理やり休ませるために口実だったことをカミングアウトした社長。


 


さらに体調のことを考慮して、休暇の延長も便宜を図ってくれるようだ。


願ったりのことで、有難く受け取る。


だが、シヌに連絡を取ることを勧められた時は固辞をした。


「社長!!それには及ばない。向こうにいるときもさんざんオレのアレルギーでミナン兄迷惑をかけたんだ。こんな情けない姿を見せるのは気が引ける。幸いにも親切な人がいてケアをしてくれるし、…このことはシヌもそうだがジェルミとミナムにも伏せてほしい」


 


リーダーとしてのプライドを散らつかせると、案外社長はあっさりと納得してくれた。


その代わりこまめに近況を知らせる約束を取らされたのだが。


 


「フフフ・・・」


通話を終えた後、テギョンの口元が思わず緩んでしまう。


“ミナムの知り合いがいて、ミニョのこと頼んでいるんだ”


“知り合いって…誰だ?”


以前交わしたジェルミとの会話。


心のどこかでずっと引っ掛かりを感じていたその“知り合い”の存在。


ミニョのことをあれほど大切にしているミナムが、安心して任せられる存在。


『シヌ』の名を聞いた瞬間、バラバラのピースが一気に埋まった。


 


今すぐにシヌに確かめたいところだが、ジェルミ同様ミナムに口止めされている可能性がある。ミナムが頑なにテギョンを拒む以上、秘密裏にことを進める必要があるだろう。


 


あくる日昨日の看護士が、テギョンの病室を訪れた。


「改めてお世話させていただきます。」


制服を纏い髪の毛を纏めたその姿は、昨日とはやはり印象が違う。


彼女の名は、マリアンヌ。


 


「マリアンヌ?聖母マリアにちなんでいるのかな?」


半分冗談で聞くと、どうやら図星らしい。


この職業に就くには、ふさわしい名前だと言えるだろう。


そのことを伝えると、恥ずかしそうに微笑む彼女。


 


「やっぱり…きっと将来慈悲深い母親になるのでしょうね」


「そんな…ただの名前負けです!!」


テギョンの言葉を聞いて、とんでもないと言いたげに首を大きく振る。


 


元来不愛想なテギョンが滅多に見せない笑顔を、惜しげもなくマリアンヌには向ける。


目的のためには、彼女と親しく成っておく必要がある。


その後些細なことも、あえてマリアンヌに頼んだ。


 


テギョンがコールボタンを押すたびに、息を切らして駆けつけてくれるのだ。


一生懸命なその様は、愛するミニョとどこか重なる。


尤もミニョのような事故を起こすことはなかったが…


 


入院の3日目を迎えた午後、


点滴針が漏れたようでナースコールを押すと、やってきたのはマリアンヌではない。


今日は休みなのだろうか?


代わりにやってきた看護士の顔を思わず凝視してしまう。


 


「申し訳ありません痛いですか…?」


「あっいえ…いつもの方ではないので」


ただでさえ目つきの鋭いテギョンの強い視線に看護士は緊張気味である。


せっかく来てくれた看護士に対し失礼なことを言ってしまったと一瞬思ったのだが、


テギョンの発言は思わす事実を引き出すことになった。


 


「彼女は別棟のサポートに付いています。スタッフの一人が急に体調を崩して


しまったようで」


「別棟があるんですか?僕は倒れて運ばれてきたので全然知りませんでした」


「病院なんてそんなものですよ。実は私だって別棟に関しては話だけで、足を踏み入れたことがないんです。あそこに出入りできるのは一握りの優秀なスタッフですから」


本来内部の情報を簡単に漏らすのもどうかと思うのだが、おしゃべりな看護士に


感謝するテギョンだった。


 


尤も入院患者の情報は固く守られているようで、一般病棟のスタッフでも知りえない。


 


(となると…次は)


テギョンはマリアンヌからゆっくりと話を聞き出す方法を考えていたのだった。


 


それから数日後のこと体調が回復したテギョンは、とあるレストランの最上階にいた。


 


向かい側に困惑顔で座っているのはマリアンヌである。


さっきから全然食がすすんでいないようだ。


 「お口にあいませんか?冷めてしまいますよ」


「いえ…そんなことは…いただきます」


テギョンが促すと、マリアンヌは静かに頷く。


 


時間は1日前に遡る。


無事に退院を迎えたテギョンのもとに、マリアンヌがやってきた。


 


今回のことでお礼をしたいことを告げると、彼女は職務を全うしたまでだと言う。


もちろんそんなことは想定の範囲である。


 


「僕がここに来た時、買い物をしてくれましたがその時の代金も受け取ってくれませんでしたよ。貴女にはこの命を救っていただいてこのまま何もしないというのは僕の国では許されない不義理なのです。どうかこの通りです!!」


「本当にお気持ちだけで…それに何か頂くというのはその」


テギョンの強引さにマリアンヌは揺れだしたようだ。


 


「それなら、食事を一緒にどうですか?こっちへ来てから友人もいなくていつも一人寂しく食べていたので」


「食事…そうですね」


妥協案として提示すると、ようやく折れてくれた。


 


そして今に至るのだ。


仕事終わりの彼女は約束通り現れたが、明らかに動揺している。


ホテルに併設されたレストランで、ハイレベルらしい。


尤もテギョンはそんなことは知らずに、ここを選んだ。


彼の父のファン・ギョンセ氏が会員で、以前訪れたことがあったからである。


 


普通の店での食事と思い込んでいたマリアンヌの驚きはかなりのものだった。


だが…普通の概念はひとそれぞれ…


 


「こういう店の方が、メニューに対してこちらの希望を伝えられてよいのですよ。うっかり食べてまた病院へ戻ることになったら、困りますから。あっでもあなたにまた会えるからそれもありでしょうか?」


「もうっそんなこと仰ってはダメです。せっかく良くなられたんですから。ブラックリストに載ってしまうかもしれませんよ」


テギョンのあまり笑えない冗談に、マリアンヌはは少しだけムっとした表情を見せる。


 


「僕の退院祝いも兼ねてると思ってくださいませんか?こっちに来てずっと外の食事はいひとりだったんですよ。」


「そうでしたか…わかりました。ではお言葉に甘えます。遠慮しませんよ」


マリアンヌは宣言通り、テギョンの前で気持ちの良い食べっぷりを見せてくれた。


 


 


「ところで、先日コールしたとき別の方がいらしたので実はがっかりしました。貴方の仕事は忙しいのわかっているのに」


 


さりげなく別棟の話題へとテギョンは持っていく。


冗談ぽく、それでいて切ない表情を見せながら…


 


「お世辞だとわかっていても嬉しいです。そんな風に仰っていただけで」


「お世辞じゃないです。貴女には初めて会ったときから、不思議と安らぎを感じていました。これでも人を見る目はあるんですよ。」


恥ずかしさから顔を背けようとするマリアンヌに、熱い視線を注ぐテギョン。


そしてマリアンヌの手の甲に、己のそれをそっと重ねた。


 


「今夜はこのままもう少しあなたと一緒にいたいです。僕の願いは叶いますか?」


「え…あっあの私は…」


テギョンの言葉に戸惑って返事に窮するマリアンヌ。


 


「だめですか?」


指を強く絡めて再び懇願するテギョンに、小さくうなずくのがマリアンヌの答えだった。


 


「ありがとう…じゃあ行こうか?」


レストランを出たテギョンは、マリアンヌの肩を抱きながら


棟続きのホテルの部屋へと向かう。


(今夜中に…ミニョの情報を聞き出さなければ…)


狂気を笑顔に隠し、部屋のロックを解錠した。


============================


テギョンさんが止まりません。


何故かキーを打つのもやたらと軽やかに(コラ!!)


ミニョちゃんにたどり着くためには、手段を選びませんね?


今後どうなるでしょうか?


好きなように暴走させると、回収するのが大変になりますので(汗)


 


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