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LITTLE WING 6



「さて面倒なことが終わったから…これからが本題だシヌ」
「何?だって対談はおわっただろう?本題って何のことだ」
長い手をもてあましながらぐるぐる回すロンに、シヌは困惑する。
全く話が見えないのだ。


「お前、このオレが対談をするためだけにここに呼んだと思ってたのか?」
「ああ…相手がお前だし?誕生日だといって拉致られたこともあったしな」
もちろん普通ならそこまでしないだろうが、目の前にいるのはただの男じゃないことを
過去の経験からシヌは悟っている。


「ったくぅそんな昔のことをネチネチと性格悪いぞ…傷つくなぁ…ねぇミニョちゃんこれどう思う?」
「えっあ…あの…」
都合が悪くなるとすぐにこうしてミニョに助けを求めようとするのは、常套手段なのか?
急に話を振られたミニョは、ちょっと困ってる。
そしてそんなミニョの反応をロンは楽しんでいるように見えるのだ。


「ハイハイ…お二人ともそのくらいにして置いてください・・時間が勿体無いですよ」
手打ち式のように、その場を収めたのはハルカである


「やれやれ…うちの最年少のくせにすっかり生意気になってしまったな」
わざとオーバーアクションでお手上げポーズをするが、本心ではないだろう。
その証拠に目が笑っている。
紆余曲折があった後任ギタリストだが、すっかりメンバーとして定着している。
(もう俺の出る幕はなさそうだな)
安心しつつも、こころのどこかで僅かだが寂しさを感じてしまうシヌ。


「さん…さん…シヌさん!!」
「あっすまない…ハルカどうした?」
しばし感傷的になったシヌだが、ハルカの声で我に返った。


「これ…見て欲しいんですけど」
シヌの目の前に渡されたのは、譜面である。


「え?この曲?」
それは、天才ギタリストとして誰もが知っている人物が作曲したもの。
当時斬新だった彼のプレイスタイルは、いまでは当たり前になっているほどだ。


「オレなりにアレンジしたんですよ。どっかの誰かさんがどうしてもシヌさんのギターで歌いたいってゴネましてね。まったく子供よりタチがわるくて参りました。」
「黙れハルカ!いいから早くしろよ。」
嬉々として話すハルカをロンが遮る。これ以上余計なことを話すなといわんばかりに。


シヌが少し前に感じた思いなんて、あっという間にどこかへ消えてゆく。
「やれやれ…ロンは相変わらずだな…だけどオレのギターは…」


愛用のレスポールは宿舎に置いている。
もちろん他のギターで弾けないというわけではないのだが…モチベーションが違ってくるのだ。


「心配すんな、ちょっと待ってろ」
そういって部屋を出てゆくロン。
そして言葉通りすぐに戻ってきた彼の手には、見覚えのあるレスポールが…


「これ…いつの間に」
「お前が風邪で寝込んでいる間にちょっとな。いやぁ親切なリーダーが居てよかったなぁ」
驚くシヌに、しれっとした表情のロン。


(テギョンか…)
あのテギョンがロンのいうことを素直に聞くのが信じられないが、目の前の男の行動力はや強引さはシヌが誰よりも知っている。
KEIFERのギタリストとして、アジア人のシヌが受け入れられたのもロンの存在なくしてはありえなかった。


『お前のプレイで、オーディエンスをKOしろ!!』
一昔ほどではないにしろ、ロックは西洋のものだと言う固定観念は残っている雰囲気の中
初ステージでは、その言葉で吹っ切れたのである。
あの時…少なくとも
もがき苦しんでいたミニョへの思いを一瞬でも忘れられるほどだった。


そして今・・・
シヌの隣で微笑むミニョ・・・
この幸せがあるのは、やはりあの日のロンの強引さがあってこそ。


「さっシヌさん・・・向こうで合わせましょうよ…ロンのところには負けるけど、その辺のスタジオよりはクオリティ高いですからね」
ハルカに促されてるシヌ。


「わかった・・・じゃあミニョも一緒に…おいで」
「いいんですか?私が居てじゃまになりませんか?」
ミニョに視線を移すと、彼女はいつものように気を使うことを言う。
邪魔どころか居てもらわないと困るというのに。


だが・・このときばかりはシヌの願いは叶わなかった。


「悪いな、ミニョちゃんはオレが借りる」
そういって二人の間に割りったロン。
軽くミニョの肩に手を乗せただけなのに、抱き寄せたように見えてしまう。


「借りるって・・・どうして!!」
「こわっ・・・おいおいそんな嫉妬の塊の顔をするな」
できるだけ平静を装ったつもりだが、ロンには通じない。


「ロンさん…あの・・・私」
ロンの手がそのまま乗った状態のミニョは、この状況に困惑しているのか
下を向いたままである。


「もうミニョちゃんまでどうしたんだよーオ・シ・ゴ・トだよ」
「「え?」」
ロンの言葉に、ミニョはもちろんシヌもはっとする。


「あ~あ二人とも忘れているのか?ミニョちゃんはうちのホテルのイメージキャラクターだってことを」
はぁっと天を仰ぐロン。
確かに言われてみればそうだ。
ロンの父親が宿舎にわざわざ宿舎へ尋ねてきた日のことを思い出す。


「という事でこっちの事情はわかっただろう?…というわけでいこうかミニョちゃん」
ヒラヒラと後ろ手に手を振ったロンの後を着いてゆくミニョ。
途中振り返ったので・・・エールを送る


“ファイティン”
“はいっシヌヒョンも”
声に出さないが、お互いの気持ちは通じていると思えた。


そしてそのまま奥の部屋へと二人の姿が見えなくなるまで、見つめていた。


「もうっシヌさんは心配性ですか?」
「え?いや…その…ミニョは普通の女の子だから緊張しているじゃないかって思ってさ」
ハルカに呆れられたシヌは、とっさにそういって誤魔化す。
一緒にいる相手はロンだ。
誰よりもミニョとのことを応援してくれた男なのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうか・・


「大丈夫ですよ!!ロンはミニョさんには特別優しいから」
「ああ…わかった!!」
そうだ・・・何も心配することなのないのだ・・・
自分自身に言い聞かせるように、シヌもまたハルカの後を着いてゆくのだった。


ドアを開けてそこに広がる景色は、はっきりって普段自分たちが使用している
スタジオよりも広いかもしれない。
ハルカが言ったことは、オーバー発言ではなかったようだ。


サウンドもダイレクトに伝わってきて、やはり音楽を愛するものとしては
喜ばしいことだ。


シヌのリードを聞きながら、笑顔で続くハルカ。
「本当に弾きやすいなぁシヌさんは、ロンに感謝だね」


その言葉は、そのままハルカに返そうと思うシヌ。
ANJELLとは違ったサウンドは、シヌには良い刺激になるのだ。


ふと気が付けば・・・あれほど気がかりだったミニョのことを忘れてしまうほど
のめり込んでいたのかもしれない。


『ミニョちゃん・・・その服・・・いで』
『ロンさん・・・なッなにを言ってるんですか』
別室で交わされている二人の会話など、想像すらできなかったのであった。


=====================================

わざわざシヌを呼びつけたロンの思惑は、やっぱりこういうことでしたね?
目の前でハルカに暴露されてしまったロンは、ちょっと恥ずかしいのかもしれません。
ハルカ君はすっかり余裕の男の子になり、頼もしい限りです。


最後なにやら不穏な空気を流しておりますが、ここはご安心くださいと断言します。
シヌミニョは絶対なので!!


久々に続きをUPしたため、テンポがいまひとつ悪いです。
お許しを…

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Little Wing 5



心地よい疲労感で迎えた翌朝、ミニョの腕をそっと外すとその可愛い寝顔にそっとキスを落とした。

その後、シャワーを終えて戻ってくるとメッセージが入っている。



『昨日は十分すぎるくらい堪能したか?早速だがそろそろ対談はじめようぜ』
相変わらずこっちの行動を見透かしたような発言。
それでも、いまの自分たちがあるのは間違いなく奴のおかげ…苦笑しつつ電話をかける。


10分もしないうちにやって来たロンの開口一番は
「シヌ、ハラ減った~なんか作ってくれよ」


一緒に住んでいたの頃のように催促してきたのだ。

「何だ?食べてきたんじゃないのか?」
呆れるシヌだがちょうどミニョが起きる前に朝食の準備をしようとしていたところ、二人分も三人分も同じだろうと思いキッチンに立つ。


「あっ一人分追加お願いしま~す」
ロンに続いてやってきたのは、ハルカ。


「全く…どっちかが作ればいいだろう?」
フライパンを動かしながら、つい漏らすシヌ。
ロンはともかくハルカならそれなりに料理が出来ると思えたのだ。


「だってロンにさーシヌさんの料理はマジ美味ィーって散々訊かされてたんだよね。
だからせっかくのチャンスを逃す手はないよ」
いたずらっぽくこっちに視線をよこして来た。


「わかった…ったく二人とも調子がいいな」
口ではそういいながらも、シヌは満更でもない。


やがて…慌しい足音が聞こえてきた。



「おっおはよございます」

やって来たミニョは急いでシャワーをしてきたのだろう。
声が上ずり髪の毛も完全に乾ききっていない。


「ちゃんと乾かしておいで…風邪を引いたら大変だろう?」
さりげなくミニョを促した。
もちろん半分は本心…だけどもう半分は頬が高揚しているミニョを見せたくなかった。

ハルカはもちろん…ロンにさえ。

どうしようもない独占欲は、もう抑えることはできないのだ


シヌのそんな気持ちなど思いもしないミニョは、素直に部屋をでると10分後に戻ってきた。


だが、何故か浮かない顔。
手伝う気満々だった彼女は、ほとんど出来上がっている様子を見てがっかりしたのかもしれない。

だけどミニョにお願いしたい大切な仕事があるんだよ。


「ミニョ…ちょっと味見して?」

小皿をひょいと渡すと、途端に嬉しそうな表情に変った。


「サイコーです」
親指をクイット立てるミナムの頃のポーズを見せてくる。


それが懐かしくて――
可愛いすぎて――

ロンやハルカが待ちわびていることなど、一瞬忘れそうになる。


「おーい、お二人さん?こっちは腹が減って倒れそうだぞ」
ロンがニヤニヤしながら見ていたので、急いで盛り付けた。


「あー美味い!!」
「ホントに美味しい、予想以上だよ」
ロンとハルカはものすごい勢いで食べている。
そして二人同時のお代わりを要求で、こうしてみると良いコンビだと思えた。


「いいなぁ…ミニョさんはこんな美味しいものをいつでも食べられるんだね」
「え…はい…本当は私がもっと上手だったらいいんですけど」
ハルカの言葉に、ミニョは少し複雑な表情を浮かべる。


ミニョがいつも幸せそうに食べてくれるから、喜んで作っていたけど
もしかして心の中で気にしていたのかもしれない。

だから、後片付けを申し出たミニョに任せて少し席を外した。


ところが戻ってくると、キッチンにいつの間にかロンがいる。
あのロンが、食器を洗っているのだ。


(恐ろしく似合わないな)

だが、当人は結構楽しそう。


「もうっロンさんたら、洗剤を入れすぎです。濯ぐ水が勿体無いじゃないですか!!」

「ハイハイ…厳しいな」

ミニョの指摘を素直に聞くロン。
二人は時折視線を合わせて笑っている。



「ロン…悪かったな。代わるよ」

さりげなくポジションチェンジのつもりだった。


「……ああ…いいところに来た…助かったよ」
手を止めたロン。
一瞬の沈黙に違和感を覚えたのが、ミニョの笑顔を独り占めしたくて
すぐに忘れてしまったのだった。



「さあ…腹ごしらえ済んだし、はじめようか」
ロンがパンと手を打つ。


いつの間に準備したのか、ビデオカメラもセットしている。

本格的な機材を見て、社内報とはいえレベルが違うことを実感した。


「あの・・・じゃあ私は向こうの部屋で」
「ミニョさん…この二人の対談なんてプレミアものだよ…見物しようよ。これでも食べながら」
気を利かせて席を立とうとするミニョに、ハルカが箱を渡しながら声をかけた。


「わぁ…美味しそう!!また食べられるなんて幸せです」
どうやら…例のスイーツのブランドのケーキのようだ。


「プティフールを特別に頼んだ、種類をたくさん食べられるようにね!!」

ちょっと得意げなハルカだ。


「おいシヌ…スイーツ小僧に妬くなよ」
二人から目を話せないシヌに、ロンが揶揄してきた


だけどその指摘は少し違う。
嫉妬の対象は、スイーツそのものなんだから。


そしてようやく対談が始まる。


【ロックとビジネスの関係について―】

それが今回のテーマだ。


そんな俗っぽい話をするかと思ったが、キーファーグループの時期総帥のロンにとっては重要な話である。

違法DLが蔓延りCDの売り上げが落ちる中、バンドの存在証明はライブにある。

そしてそれには、しっかりとしたテクニックに裏打ちされたものであるべきだと
熱っぽく語るロン。

そう言えば、KEIFER時代はこれでもかというくらいリハーサルを繰り返したいたことを思い出していた。

いつだって最高のパフォーマンスを見せるため…


最近は耳や目が肥えたファンが多い。
納得できなければ、すぐに批判に変わるだろう。
だが…逆に納得させられれば、注がれる賞賛の声。

KEIFERの揺ぎ無い人気はそこにあり、決して安価ではないプレミアムチケットも、あっという間に売り切れるのだ。


もちろんロンのカリスマ性は、他の追随を許さない…

『見せ掛けのメッキなんか、剥げたらそこで終わりだ』
それが口癖だったのだ。

生演奏が困難なTV出演でも、ライブにこれないファンのためにと
決して手を抜かないのだ。


ただ…ロックバンドが市民権を得ているアメリカと比較して、
自分たちはどうだろう…
人気があるとはいえ、その位置づけは…まだまだである。


A.N。JELLに続くバンドがなかなか育たないのが。
練習生の中で希望を聞くと、殆どボーカルとギターに集中する。


特に人材不足になるのはドラマー。
後方にいて、注目度はどうしても低い。

加えて本格的なドラムセットは、それなりの価格のため
アマチュアがそろえるには負担であり、練習場所も必要だ。


「だから…それは環境が整っていればいいだろう」

ロンは笑いながら言う。

「いつだって思う存分練習ができれば、問題はないじゃないか?」
言葉で言うのは簡単だが…実際それができないから皆苦労するのだ。


「オレを誰だと思ってるんだ?」
自信たっぷりで語られたその言葉


音楽学校の設立。
最高レベルのあらゆる機材を揃えて、いつでも自由に使えるようにする。
もちろん音楽だけじゃない。
世間に出ても困らない知識は、しっかりと叩き込む。


奨学金制度ももちろんあって、才能があっても経済的に苦しいものも
音楽の道を諦めることがないように

さらに有望な生徒達でバンドを組ませ、バックアップもする。


だけど…売れる奴らはほんの一握りなのだ。

殆どは挫折を味わう。


「そのときはキーファーグループで働いてもらって投資した分は何年かかってもキッチリ回収するから」

はっきり言い切ったロン。


そこで、いったんカメラを止めた。


「まぁ…こんなもんだろうなぁ。あとは広報担当の奴が適当に纏めるだろうから」

「おいおい…オレはもっとその話が聞きたいんだけどな」
ロンのもうひとつの表情も、シヌには大いに興味深かった。


だが、ロンは対談の第2弾にとっておくと嘯く。


「次回はまともにアポを取れよ」

「おまえなぁ…俺の楽しみ奪うなよな」
一応釘をさしたつもりだったのに…ロンと来たら相変わらずの答えだった。


何はともあれ、一応目的は済んだわけだ。


早速ミニョの所へ戻ると、最後のケーキを食べ終えたところだったようだ。


ふと見ると、口端にクリームの残りがある。
すばやく指で絡めとって、ペロリ。



「うん…甘いな…オレはこれで十分だ」

「もっもう…シヌヒョンたら皆さんの前で恥ずかしいです」
シヌの言葉に、ミニョは真っ赤になって俯いている。

きっと今夜のミニョの身体は、一段と甘い味がするに違いないとぼんやりと考えていたのだった。


======================================

キリが良いので、一旦ここで終わります。

音楽学校の設立は、まだ先のことでしょうが…

もちろんロンの構想の先にいるのは、シヌです。
シヌ大好きですからね。

一方・・・そのロンに対してシヌはミニョちゃんを無意識に隠そうとしています。
やっぱり、独り占めしたいですよね


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Little Wing 4



「あ~あロンてば!あんなふうにミニョさんに思わせぶりなことして・・・知らないよ」

「お前こそ…わざとスイーツの話題をミニョちゃんに振っただろう」
あれから隣の建物内に入っていったハルカとロンの会話である。


「オレは、ただケーキの感想聞いただけだよ」
自分の正当性を主張するハルカ。
TOJOグループのコネクションを発揮したおかげで、すんなりと手に入ったものだからと自慢げだ。


「どうだか…顔が緩んでたぞ?」

そういって揶揄するロンだが、出会ったころよりさらに綺麗になったミニョを思えばハルカが惹かれるものも無理はないと思う。


ロンにしても…
可愛い妹のように思っていたのに、済州島ホテルで久々に再会したときは初めて意識した気がする…
一人の女性として


だから、父親に指摘されたとき少なからず焦ってしまった。
誰にも気づかれていないと持っていたのだから…

“もっと大切な存在”のために、この気持ちは何があっても封印しなければならないのだ。


「ロン!!何呆けてるんだよ!!今夜中に完成させないと」

「ずいぶんだな!!ガキのくせに!!このオレに指図するとは」
ハルカに急かされながらも、ロンはどこか楽しげだった。



一方そんな彼らの行動で、残りの二人はといえば…

逃げ場を失ったミニョは、怯えたような表情でシヌを見上げる。

「あの…聞きたいことって…んっ」
だが、それ以上言葉を繋ぐことが出来ない。
ミニョの唇に、シヌのそれが強く押し当てられているのだから…

あまりの激しさに困惑して、胸を押し戻そうとしても力の差は歴然だ。
そしてそんなミニョの行為が、いまのシヌの不安をさらに煽ってしまう。

ようやく解放できたときたのは、肩で息をするミニョに気づいたとき。

「はぁ…もうシヌヒョンたら、苦しくて息が止りそうです」
未だに鼻呼吸がうまく出来ないミニョからの可愛い抗議。
自分がどうしてこんな目にあうの、ちっとも気づいていないのだ。



「ねぇ…シャルマンて何のことだ?」

思い切ってミニョに尋ねてみると、ミニョは一瞬の沈黙の後あっと声を上げる。

シヌが寝込んでいた日、テギョンがお土産に買ってきてくれたスイーツ店の名前。


「何度か並んだんですが、いつも売り切れで…すごく嬉しくてジェルミと一緒にはしゃいでしまいました。」

テギョンは甘いものは食べないので、ミニョとジェルミそしてミナムの3人のものになったという。


「そうか…ミニョがそんなに好きなスイーツの店なんて始めて聞いたな」
「あっごめんなさい…シヌヒョンも甘いものが苦手だし…それで」
シヌがポツリと呟くと、ミニョは慌ててフォローをし始める。
ミニョなりに気を使ったということは頭で分かっていても、複雑なのである。


「シヌヒョンが熱で苦しんでいるときに…私ったらごめんなさいっ!!」
浮かないシヌの表情を見て、ミニョは別の考えに至ったようだ。


「いや…気にしなくて良いよ…」
テギョンが知っていたことに対する複雑な気持ちなんで、カッコ悪くていえないからここは余裕を見せようと思う。


するとミニョは安心したのか、さらにいろいろ話してくれた。
シャルマンという店は、ハルカの実家のTOJOの傘下にあると聞かされたことを。

「すごい人気なんですけど、食べたいときはハルカさんに頼めばよいと言ってくれてすごく嬉しかったです」
さっきのミニョのキラキラした笑顔は、スイーツのため。

そしてもうひとつ知りたかったジェルミとの食べあっこも、一種類しかないスイーツをお互い食べたかったからだとミニョ自ら話してくれた。
ミニョは純粋にスイーツが目的だが、ジェルミには下心も半分あったに違いない。

全く油断も隙もない。


“軽くシめておかないと”

冗談とも本気ともつかないシヌのつぶやきは、幸いにもミニョには聞こえてなかった。



次にもうひとつのことを聞こうとしたが…
ミニョのおなかの虫の音を聞いてしまう。


「おなか空いちゃいました」
恥ずかしそうに俯くミニョを見て、シヌはふっと笑みを漏らす。

こんな状況でもやっぱりミニョなのだと。
KANATA氏から、ここのものを自由に使って良いといわれたことを思い出して
冷蔵庫を開けると、食材は一通りそろっている。


「ミニョ…少し待ってろ」
オール電化のシステムキッチンを完備して、使いやすそうだ。
そうして風邪を引いて以来、久々にキッチンへと立つのだった。


やがて…出来上がった料理を目の前にして、ミニョは興奮気味だ。

「美味しそうです…まるでお店にいるみたい」
やっぱり素直な反応を前にすると、作り甲斐がある。
相当おなかが空いていたのか、その食べるスピードに苦笑してしまうが…

何をしていてもミニョは可愛い。


食後は、二人でゆっくりとティータイム。
抹茶と書かれた小さな缶を開けてみると、粉末が入っていたのでミルクと混ぜてラテを作る。シヌは勿論ストレートだが。


おなかが満たされると、ミニョは自然にシヌへと凭れかかってくる。

「ここのおうち…はじめてきたけどすごく落ち着きます」
「ああ…ハルカに感謝だな」
スイーツといい、この家といいミニョのツボを押さえているのが気に食わないが。


そして…いよいよ本題に入った。
移動中のこと…ハルカがいたから二人きりでないはずだが…どうしても聞いておきたかったことだ。

だが…ミニョの答えはシヌの予想を上回るものだったのである。


「ロンさん…わざわざ迎えに来てくれて…助かりました」
方向音痴のミニョだから、これは当然の気遣いだと思う。

「ロンさんの会社の専用機に乗りましたたけど、思ったより早くてびっくりです。
乗客は私とロンさんだけなんて、贅沢ですよね」

キーファーグループの専用ジェットに乗るのは初めてではないが、あの時は気を失っていたからシヌもミニョも記憶がないのだ。

そんなことより…

「え?ロンとふたりだけ?ハルカは?」
「ハルカさんは、空港に迎えに来てくれて」
シヌが利用した空港とは別の空港で、ここから1時間弱のところらしい。

移動中の飛行機の中での様子を楽しそうに語るミニョ。
少しも疚しいこと(ミニョに限ってあるはずもない)からこそ屈託のない表情で話せるのだと分かっている。

だが…時折ロンに見せる表情が、自分に向けられるそれと変わらないと思うときがあるのだ。
ロンは大恩人でもあるし、ミニョが慕うのは当然のことなのに・・・

だから…ミニョが自分のものだということを確かめたくて
早々にベッドルームへと連れて行ってしまった。


だが・・・いざとなったら・・・避妊具を用意していないことに気づいた。
ここは山の中・・・来る途中店らしい店は見当たらなかった。

ミニョに覆いかぶさりながら、途中でやめるというのは生殺しに近いが
こういうことはきちんとしたいから・・・手を止めると・・・

眼下のミニョが何か言いたげに、シヌを見上げる。


「あっあの…私のバッグの中に・・・・その…」

「どうした…バッグの中?」
ミニョの言葉に、旅行かばんを開けると。

きちんと包装された厚みの薄い箱が入っている。
それがなんであるかは、一目瞭然だ。


「ミニョ・・・これどうしたの?」

「ちっちがいます・・・ロンさんがシヌヒョンが喜ぶものだって知らないうちに・・・入れたんです」
必死で言い訳をするミニョは、恥ずかしさから泣きそうだ。


「大丈夫だ・・・泣くな?」
そう・・・これからいやになるほど啼くのだから・・・まだ早い
そして…さっきまで漠然と浮かんでいた不安は一気に小さくなった。

(ロン・・・お前の好意は、有り難くいただくよ)

====================================

対談にまで至らずに、すみません。
今回のロン、これまでと少し違った思いでいます。
ただLA編本編でも、惹かれていたところはあったのですが…

勿論あくまでもシヌ>ミニョちゃんだから、シヌの愛するミニョちゃんに邪な思いを抱くことはありえませんが。

シヌはシヌで、ロンに対して無防備なミニョちゃんが心配でした。
狼に変身したシヌが、残念!!寸止め斬り!になりかけたところを
ロンの機転で無事?に切り抜けましたね


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Little Wing 3



人間というのは、あまりの予想外のことになると身体が硬直するらしい。

外に飛び出したのに、一歩が踏み出せないままで居た…


「よおっそっちが先に着いてたのか?」
その言葉でようやく我にかえる。

「ロン・・おい!!ロンなんでお前がいるんだよ!!…それに」
ロンがエスコートしている(ようにシヌには見えた)最愛の恋人に視線を移し、言葉を繋げる。


「それに!!ミニョ一緒なのも説明しろよ!!」
普段のシヌからは考えられないような大声。


「あっ…あの私」
ミニョはその声に驚いて言葉を失ってしまう。


「おいおい…いつもの優しいシヌヒョォーンはどうしたんだ?ミニョちゃんびっくりしてるだろう。余裕なさすぎっだっつーの」
ロンは、大げさにため息をつきながらシヌを見ている。

「ごめんなさい…やっぱり私…来てしまって迷惑だったんですよね…かえり」
いつになってもミニョの涙には弱いシヌは、少し冷静さを取り戻した
宥めるようにミニョの頭を撫で始めると
出来るだけ優しく、ロンとこの場所に来たことを問いかける


「えっだって…シヌヒョンには伝えたって…」
ミニョから語られた今回のいきさつを聞きながら、シヌの表情はめまぐるしく変化していった。


「アッハハハ!!やっぱりその顔サイコー!!」
おなかを抱えて大笑いするロン。


「ロン…ったくお前って奴は…いい加減オレで遊ぶのやめろよ。それに対談て何の冗談だ!!意味わからないだろう」
怒りながら、シヌは脱力感でいっぱいになった。


「はっ?オレはいたって真剣だぞー名前を明かさなかったけど前途有望な美貌の若手実業家って言うのはあってるしー」
何を言っても、この男には通じないだろう。

恥ずかしげもなく美貌のと言い切るロン。
相変わらずの自信家である。

「テギョンからは、若手実業家としか聞いてないけどな!!」
「何だ!あいつ使えない奴だな!肝心なところを伝えてないとは!!」
シヌの皮肉にも、ロンは全く動じることはない。


「はぁ~…相変わらずだな…もういいよ」
「そんな顔するなって!!いつものシヌヒョンSMILE PLEASE!」
最早突っ込む気も起きないシヌを宥めるロンだが…不意にあっと声を上げてミニョを見た。


シヌを驚かすためとはいえ、ミニョも半分騙すことになってしまったことを
素直に謝るロン。
いつものおふざけではなく、真摯な態度にシヌは苦笑するしかない。


「もうっロンさんたら…またまた驚いちゃいましたよ」
そういって笑って許すミニョ。
自分以外に笑いかけるのを見るのは、相手が誰であろうと複雑な気持ちになる。


「ミニョ…喉かわいただろう?お茶入れてやるよ」
その言葉に、ミニョはすぐに反応してこちらを向いてくれる。
ロン相手に嫉妬してるなんで気づかれたら、カッコ悪すぎるから。


「あっ私も手伝います」
すぐに反応してこちらに来てくれるミニョ。
二人きりなら、思いっきりキスしたいくらいに可愛い。


「しぬひょぉぉん…オレにも美味しいお茶入れてね♪」
こちらを見ながらニヤニヤするロンの存在は一瞬忘れそうになっていたが。


お茶の後、改めてロンに尋ねてみた。
対談をするのは良いとして…日本にまで連れてきた真意を…
キーファーグループが提携しているホテルは、国内にいくらでもあるし
ロンが自由に使える済州島ホテルだってあるのだ。


「ああっオレも最初はそのつもりだったけど…場所を提供してくれるっていう親切な奴が居てさ…ああ良いぞ入って来ても」
ロンの言葉に続いて聞こえてきたドアが開く音。

思わず注目すると…

「もう…呼ぶの遅いよロン!忘れられたと思ったじゃないか」
不満そうな顔をしながら、入ってきたのは…


「ハルカ!!」
シヌの後任としてKEIFERのギタリストになったハルカが立っていたのだ。


「お久しぶりです…シヌさん!そしてミニョさんも」
済州島での初対面のときは敵意丸出しだったが、いまは全くその影はない。


「ああ…元気そうだな」
ロンに続いてハルカまで現れたため、頭の中で必死に整理しながら考えていると…
ロンがシヌの頭を軽く小突いた。


「痛いだろう!!何するんだよ?」
「聞きたいことがあるなら、悩まずに聞けよ。まったく何年たっても変わらないんだな」
相変わらずこの男には、自分の考えが筒抜けのようだ。


仕方がないから、ここは素直に言うことを聞くことにした。

シヌとの対談をロンが考えたとき、当初は済州島ホテルを使用する予定だったらしい。

「ロンてば、オレに気を使って許可を取ろうとするんだよね」
「余計なことは言うな…!!」
話の途中で口を挟んできたのはハルカとそれを諌めるロン

そのやり取りが至極自然で…二人の関係がうまく言っているのは良くわかった。

「二人の対談をイメージしたときにさ、ホテルの一室じゃなくて普通の家で談笑している構図が浮かんできたから…カナタニィに頼んでここを用意してもらったって言うわけ」

「カナタニィってもしかして…」
シヌを空港からここまで送ってきてくれた人物と同じ名前である。


「うん…オレの従兄だよ…けっこう似てるって言われるんだけどね」
ハルカの言葉を受けてカナタの顔を思い浮かべると、なるほど初対面なのに
既視感があったのは、そのためだったと納得した。

昔から自分のわがままをよく聞いてくれた従兄だから、二つ返事でOKしてくれたのだと。
仕事人間で、音楽関係のことには疎いらしい。
KEIFERはもとより、A.N.JELLの名前も全く知らないという。

だからこそ、シヌの迎えも躊躇なく行ってくれたようだ。

「だけど…こっちの到着が遅れちゃってさー」
なぜかちらりとロンに視線を移すハルカ。


「何だよ!!オレのせいか?」
「だって…途中道間違えただろう?あれがなければオレ達が先立ったじゃないか?」
「仕方ないだろう?こっちで走るのは初めてなんだから」
ハルカの言葉を受けて反論するロンだが、いつもの勢いはない。
LAのハイウェイを疾走していたロンには、田舎の狭い道加えて左側通行ということで
かなり運転しづらかったと、後になって教えてくれた。

いろいろと驚かされたが、ロン過去の行動を思えば今回はまだおとなしい方だったのかもしれない。

 やがてハルカはミニョの前に進み出ると、自分たちに見せるそれとは少し違った表情をしながら話しかけた


「えっシャルマンて…そうだったんですか?」
目を輝かせてハルカと話すミニョをみて、シヌの頭の中は疑問符でいっぱいになる。


(シャルマンて何だ?)

そしてうっかりミニョが口をすべらせた“ジェルミと食べあっこ”
自分が寝込んでいる間に、何が起きたのか・・・


とにかくさっさと対談を済ませて、ミニョに問いただしたい思いで一杯になってしまった。


「ロン対談するんだろう?何を話すんだよ」

「あっそれは明日で良いよ…シヌ病み上がりなのに振り回して悪かった。今日は“しっかり”身体を休めてくれよ」
しっかりと部分とわざと強調したロンは、ミニョにも何か耳打ちする。


「なっな…ロ…ロンさんたら!!」
ミニョはこれ以上無いって言うくらいに真っ赤な顔で、何か言いかけるがすぐに口を押さえて俯いている。
たったそれだけのことなのに、気になってしまう。

ロンとハルカが出て行った後、いつまでのドアのほうを見つめているミニョ。
思わずその手を強く掴むと、くるりと反転させた。


「いたっ・・」
「ミニョ・・・いろいろと聞きたいことがある」


そうして・・・そのまま壁に追い詰めていた
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ロンの前では、ペースを乱されっぱなしのシヌです。

何よりミニョちゃんがロンと現れたことで、ちょっと複雑な思いを抱いています。


加えてハルカ君まで・・・年下とはいえポテンシャルがかなり高いハルカ君。

ミニョちゃんには、スイーツ王子に思えるでしょうね。


 

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Little Wing 2




何年かぶりにひいた風邪は、翌日には熱はほとんど下がったようだ。


 


「大丈夫ですか?」
ゆっくりと目を開けると、心配そうに覗き込むミニョ。


「うん…ずいぶん楽になった…ミニョのおかけだな」


「それは良かったです…じゃあ朝ごはん…キャ」
ベッドから離れようとするミニョだったが、シヌの強い力に引かれて倒れこんでしまった。


「おはようのKISSを忘れているよ」
シヌは静かに目を閉じる。


「はっはい」
少しあせった声のミニョ…
きっと真っ赤になりならがら、キスをくれるに違いない。


唇が重なった瞬間そのままミニョの後頭部をしっかりと捕まえて、
昨日できなかったキスを思う存分堪能する。
はじめは緊張していたミニョも、次第にそのまま身体を預けてくれた。


このままずっとこうしていても…と思うが
宿舎では、みんなの目もあるから自粛することにした。


その代わりに…ミニョにはまだおねだり
引き出しから着替え一式を用意してもらう。


そして
「病み上がりで力が入らないんだ…脱がせて?」


「えっ?…でっでも」


「ほら…汗かいているし…このままだとぶり返すかもな」
その言葉を聞いてミニョは、ようやくシャツを脱がせにかかった。
必死になるミニョを見ていたくて、わざと身体に力を入れる。


「シヌヒョン…あの手を上げてください」
シャツを捲り上げながら、控えめなミニョ。


半裸が晒されると、もう幾度と無く目にしているのに真っ赤な顔をしている。
だからその初心な反応をもっと楽しみたくて・・・


「ねぇ?したは?」
ちょっとだけ聞いてみた。


ミニョは、目をしっかり瞑ってブンブンと頭を振っている。
まあこっちとしても、朝からしっかり反応している自身を見られるのは恥ずかしい…


「良いよ・・・もう終わったから」
そういうと、ゆっくり目を開けるミニョ。
露骨に安堵の表情を浮かべている。


ふと、昨日までなかった折りたたみベッドが目に付いた。


「あっあの…テギョンさんが使うようにって…その」
わざわざ持ってくれたらしい…
同じベッドで寝るのをそうまでして阻止したいのかなんて思ったけど…昨日の場合は仕方ないか。


手を繋いでキッチンへと向かう。


「シヌヒョンは、座っていてくださいね」
手伝おうと思ったけど、断られてしまった。
でも…こうして自分のために朝ごはんを用意してくれるミニョを見るのもいい。


早く…これがあたりまえになることを願う。


病み上がりだというので、ミニョが作ってくれたのはリゾット。
柚子の皮と絞り汁が入っていて、さっぱりとした味だ。


思わずお代わりを伝えると、すごく嬉しそうなミニョ。
心もおなかも満たされて幸せな時間。


後片付けも一人でやるというミニョだったが、半ば強引に手伝うことにした。


「だって…その方が早く終わって…一緒に居られるだろう?」
ミニョの耳元で囁きながら、耳朶をペロリとなめてあげる。


「キャッ」
ショックを持つミニョの手が滑ってしまった。
幸いセラミック素材だから、割れては居ないがちょっと恨めしそうな目で見られて反省。


その後は真面目に手伝居、早々に片づけを終わらせた。


朝食とはいえ、起床が遅かったので気がつけばもうお昼に近い。


「ミニョ…あと半日あるけど…どこかに出かける?」
とはいっても、近場のスポットは人が多い


ミニョとのことは、隠していないからシヌは構わないが
他の男達に易々と見せたくは無い。
「いえ…できれば今日は宿舎で二人で過ごしたいです」
ちょっとだけ顔を赤らめて話すミニョの、本当にささやかな願い。


結局…二人の思いは同じということ。


「じゃあ…ダラダラしよっか?」


「はい!!」
ミニョは今日一番大きな声をだした。


映画のDVDを見たり、ゲームをしたり


L.A.時代に、覚えたカードマジックを披露したらミニョは大興奮していた。
手先が器用なのは、本当に役立つらしい。


楽しい時間は、あっという間に終わりを告げる。


ミニョをアパートまで送り届けて、戻ってきたのは日付が変わるほんの少し前。


「ずいぶん元気そうだな…」
キッチンでハーブティ用意していると、やってきたテギョンはいつものように冷蔵庫から海洋深層水を取り出して一気飲み。
皮肉めいた物言いは変わっていないが、その表情は以前とは違う。


「ああ…おかげさまで…ああミニョにベッド貸してくれてありがとう」
一応お礼を伝えると、テギョンはにやりと笑った。


「気にするな…ミニョは寝相が悪いから病気のシヌのベッドで寝たら良くないといってやったんだ。あいかわらず素直だよ」


「やっぱり…そういうことか?性格の悪い奴だ」
予想通りのテギョンの答えに、シヌは分かりやすい舌打ち。
冗談と本気のハーフ&ハーフといったところだろう。


そしてお互い大笑いした後、テギョンが話題を変えてきた。
対談の依頼が来ているというのだ。


「対談て?誰?」


「ああ…相手の名前は知らないが…若手実業家だと…」
ビジネスと音楽の関係について語りたいらしい。


「リーダーのお前のほうが良いんじゃないか?」
素直に疑問を向けると…テギョンは困った顔をよこして来た。


「オレが相手だと緊張して話せなくなるからって…見た目が穏やかなお前を指名してきたようだ。本性を知らないって怖いなあ」
やけに面白そうな表情を浮かべているのは気のせいか。


明朝早くに、先方の使いの者が迎えに来るという。
(やけに根回しがいいな…)


ただ…病み上がりのため、いつもより思考回路が鈍っていたのだろう
明日に備えて、早めに就寝することにしたのだった。


「おはようございます…カン・シヌ様お迎えにあがりました」
上等のスーツを纏った男性が差し出した名刺には、TOJOコーポレーションと記載されている。


(日本企業なのか?)
日本語はそれなりに話せるが、ビジネス用語になると通訳が必要かもしれない。


車の中で翻訳アプリを探し始めていた。


しばらく走った車が向かった先は、空港。
「えっもしかして飛行機ですか?」
意外な展開にシヌが尋ねるが、運転手の男性はただ頷くだけだ。


「あの…パスポートが無いのですが…取りに戻らないと」
準備万端なシヌも、ここまでは用意していなかったのだ。


「大丈夫です…ファン・テギョン様からお預かりしておりますので」
顔色一つ変えずに、差し出したのはたしかにシヌのパスポート。


(どうして…あいつ昨日は何も言ってなかったのに)
すぐにテギョンに電話をするが、コール音のみ…


今日は新曲を作るといっていたから、電話には気づかないのか…


多少の不安を抱えながら空港に到着すると、渡されたチケット。


予想通り行き先は、日本。
グループとしていったことのあるのは、沖縄。


だが今回は、それとは真逆の北らしい。


「あちらの空港で、お迎えがありますので」
運転手の男性は、一言だけ言い残すと足早にその場から去っていってしまった。


(いったい何なんだ…大丈夫なのか)
状況が今ひとつ把握できないまま、向かうことになるとは…


そして…ミニョに連絡できてないことも、シヌには心残りだった。


新○歳空港には、約3時間ほどで着くらしい。
病み上がりで疲れていたシヌは、移動時間を睡眠に当てたのだ。


空港に着き、スーツ姿の若い男性が声を掛けてきた。


名刺に書かれていた名前は、“KANATA・TOJO”
どうやらシヌの迎えらしい。


「お疲れのところ、申し訳ありませんが現地まで2時間半ほどかかります」
流暢な韓国語で説明をする。


わけも分からず来てしまったシヌだが、とりあえずは腹をくくることにして
その青年から少しでも相手のことを聞きだそうと考え始めていた。


日本語で話しかけると、青年は少しびっくりながらも感心した様子だ。


「日本語お上手ですね…忙しいのによく勉強されて」


「いえいえ…まだまだです…TOJOさんこそ僕と同じくらいなのに立派ですね」
お互いに褒め称えた後本題に入ると、彼は少し苦笑しながら教えてくれた。


「実は…僕も相手のことは良くわからないんです。従弟に頼まれて場所を提供するようにと…」
仕事の関係で海外に居るのだが、一昨日突然の電話があったというのだ。
詳細も知らされぬまま、手配を任されたといって苦笑いを浮かべる。


初対面だが波長があったのか、車中で話が弾む。
車は中心部を抜け、山道へと進む。


(ずいぶんな田舎だな…どこまで行くんだ?)
少しばかり不安になってきたところに…世の前に町並みが広がってきた。


「ここは?」
目の前に広がるのは、ちょっと違った雰囲気の町並み。
尋ねてみると、北欧を意識したとのこと。
建物も当然それらを意識して情緒溢れるものとなっているのだ。


やがて車は、それらの建物の中でも一際大きな戸建ての前に止る。


「まだ…先方は着いてないようですね。申し訳ないのですが私はこの後商談があるので
このままお待ち下さい。」


「え…それはあの…」
初めての場所で、一人取り残されるというのは不安が募るのだ。


「建物の中には、本屋CDがありますし、自由に使って下さって構いませんので」
結局そのままシヌを一人残して、走り去ってしまったのである。


(ああ…何なんだ?いったい?)
こんなことなら、相手の素性をきちんと確認すべきだったと後悔する。


携帯を取り出すが、何度もでる圏外の表示…
連絡手段は…これでは無い。
何よりミニョに伝えずにここまで来てしまったことが、悔やまれる。
心配しているに違いないから…


そのまま建物の前に立っていては、不審に思われるかもしれないので
中に入ることにした。


外観もそうだが、内装も気の温もりを生かしたものが多くて
初めてだというのに、どこか懐かしさを覚えてしまう不思議な感覚だ。


そしてリビングの椅子に座って待っていると…


【バタン】
車のドアの閉まる音が聞こえた。


(やっと…相手が着いたか?)
どんな人物か…窓から覗き込むと…驚きのあまり言葉を失ってしまった。


自分が良く知っている男女の姿が見えたのだから…


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長くなって、すみません。


良くわからぬまま、日本の片田舎にやってきてしまったシヌです。


この建物一帯は、ハルカ君の実家の藤城建設のものという設定にしておりますので
融通が利きます。


そして・・・シヌを迎えに来たのはハルカ君の従兄です。


藤城彼方といいます。
山の彼方の空遠くにちなんでつけたという、由来があります。

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Little Wing 1


キーファーグループの社内報で、時期後継者に決まったロンの特集が組まれることになった。

はっきり言って当初は乗り気ではなかったロン。

バンドを離れてまで、必要以上に目立つことは避けたいと思っていたのだ。




「あ~面倒だよな~」

キングサイズのベッドで寝転びならが、つい漏れてしまう本音。




「まぁそういうな…お前は広告塔も兼ねているんだぞ」

ロンを宥めるジョーは、こっちの世界でもやはり頼りになる。
それでも尚不平を漏らすロンに、ジョーからある提案が持ちかけられた。




「やりたい企画とかあれば、言ってみれば良いんじゃないか…たとえば誰かさんと対談するとかさ」

その言葉で、ロンははっと気づいた。


今対談したい相手と言えば、一人しかいない。



ただ…そいつはメンバーに気を使って受けてくれないかもしれないのだ。





そんなときだった…

1週間ほど日本に行っていたハルカが帰ってきたのである




「ジョーさん、お土産です」

やたらと大きな荷物の中身を見ると、チョコやマカロンにクッキーと見ているだけで胸焼けしそうな甘いものばかりが並ぶ。




「おおっこんなに…悪いな‥ハルカ」

ロンと違って甘党のジョーは、上機嫌だ。




「気にしなで下さい…正規で販売できない商品なんだ…遠慮なく食べ…」

ハルカが言い終わらないうちに、その中のいくつかはすでにジョーの口の中へと入っている。
そして二人のスイーツ談義が始まったので、興味のないロンは部屋を出て行こうとしたのだが
ハルカからでた、あるワードで足を止めた。




「日本にいるときに、A.N.JELLのテギョンさんからいきなり電話が来て、焦ったよ。

しかも理由がスイーツのことで…あの険しい顔からは似合わないー」
ハルカは思い出し笑いをしながら、話している。



プライドの高い男が、どんな顔でハルカに頼んだと思うと大いに笑えるが

それは…今も尚大切に思っている女の子のため。




だがロンにとっては、いい口実ができたのだ。

まずは…ハルカに話をする。


KEIFFRのギターはハルカだと言い聞かせた上で、今回の企画のことを。

シヌのことに過敏に反応していたことを思い出し、心配になったのだ。




「そんなこと気にしないでよ…もう子供じゃないんだしさ!!」

日本で言うところの成人を迎えたせいか、やたらと大人を強調するハルカ。
ロンから見れば、まだまだ子供なのだが…





「あっそうだ対談だけじゃなくてさ…」

ハルカは、ある提案を持ちかけたのだった。


そうして今に至る。



「ハルカの奴…テギョンからの電話にかなりビビッてたって言ってたよ。可哀そーにな」

口からでまかせなのだが…テギョンは反論してこない。
実際あの威圧感は、かなりなものだから無理もないが。





『で?そっちの要求だけどな?わざわざオレを通さなくても良いんじゃないか?』

ロンが話すまでもなく…テギョンは気づいたようだ。





「いやいや・・・リーダーの許可を取るのが筋だろう?」

そう答えると、電話の向こうから笑い声が聞こえた。


出会った頃に比べたら、かなり謙虚だと。

言われてみれば…どうにかしてメンバーにしようと画策していた頃を思い出す。




『一日で終わらない日程なら…オレのほかに許可を取っておく奴がいるだろう?ちょっと待ってろ』



テギョンに変わって電話口に出たのは…




『あっあの…ロンさんですか?』

いつ聴いても可愛い声のミニョである。
だが…今日は確か…あいつの誕生日のはず。
電話とはいえ…そんな大事な日に…他の男となんて…


ミニョが絡むと、異常な独占欲のシヌを思うと軽く身震いするのだ。



だが…渦中のシヌは風邪で寝込んでいるらしい…

LAにいた2年間は、あの過酷なツアー中でさえ一度も体調など崩したことはなかった男が…





『食欲も出てきたので…今日と明日ゆっくり身体を休めれば大丈夫です』

なるほど…ミニョがこんなに甲斐甲斐しく世話をしてくれるなら
引かない風邪も引きたくなるかもしれないと思う。

それなら尚のこと…将を射んと欲すれば先ず馬を射よ…だな



「うん…実は…ちょっと頼みがあるんだ…」
今回の対談の話を持ちかける。





『わぁ…素敵ですね!』

ミニョは思ったとおりの反応をしてくれるが、すぐに声に元気がなくなる。
怪訝に思って尋ねてみると、社内報だから読めないと思ったらしいのだ。

全く…済州島ホテルのイメージキャラクターであることを忘れているのか?




『あっそうですか…それなら関係者ということで私にも頂けるのですね』

さっきとはうって変わって声が弾んでいる。
イメージキャラクターじゃなくても、ミニョにならまわしてあげられると言うのに
こういうまじめなところ、本当に可愛いのだ。





そしていよいよ・・・本題だ。

ミニョにも同行を頼むことにする




『え?私がいたら邪魔になるんじゃ…』

電話の向こうのミニョは、困惑した声である。
邪魔どころか…シヌのモチベーションをキープするために、ミニョは絶対的存在なのだ。


今は宿舎を出て一人暮らしらしいが…徒歩で10分ほどのところと聞く。
会おうと思えばすぐ似合える距離なのだ。
(勿論心配性の兄と、彼氏の意向が大きいのだが…ああ怖い元カレも忘れてはいけないだろう)




「とにかく!!ねっこの通り!!助けると思って」

自分でも笑ってしまうくらいに必死に頼んでしまった。

少しの沈黙の後‥・ミニョからの答えが返って来た。





『分かりました…邪魔にならないように気をつけますから』

ようやくYESの返事をもらえたのだ。

その後は、再びテギョンに電話を代わってもらうことにする。

シヌには対談の相手を伏せて置くことを頼むためだ。




『ったく…好きにしろ』

半ば呆れた様子で、電話を切られた。





「だって…あいつの驚く顔がみたいからな」

子供のように、わくわくした



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ロンとシヌの対談をすることになりました。
普通の雑誌ではなく、なぜか社内報の中で・・・

一般には手に入らないでしょうから・・・かえってプレミアがつくかもしれませんね。

今更ですが、シヌの後任となったハルカの日本名は、藤城遥です。

藤城(柊さんの苗字ですが…読みは音読みにしました)

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NEW YEARS DAY おまけ 


 


済州島ホテルのパーティのあと、ロンが父を伴って宿舎を訪ねてきた。


生まれながらの御曹司のロンと違って、キーファー氏は宿舎での共同生活に自身の若い頃を思い出すと感慨深げだ。


「今日伺ったのは、こちらのコ・ミニョさんをホテルのイメージキャラクターとして契約させていただきたいと思いまして」
畏まった口調で話すのは、ロン。
バンドのリーダーの時とは全く違う。


ミニョはもちろんだが、誰よりも驚いたのはシヌだ。


「ロン・・・!!」
いつものように呼びかけて、はっとする。


目の前にいるのは、実業家としてのロン・キーファだ。


「ロンさん、どうして突然そんな話しになるんですか?」
ミナムが兄として率直な疑問をぶつけてきた。


「はい・・・実は」
ホテルの買収が決まってから、本国でもイメージにあう女性を探していたことが語られる。


だが・・・少女の可憐さと時折垣間見ることのできる妖艶さを併せ持つ女性というのは
ロンの中ではミニョしか考えられなかった。


ロンの言葉に半信半疑だったキーファー氏も、パーティーでのドレスアップしたミニョの美しさに目を止めたが
なにより翌日スイーツを幸せそうに食べる笑顔が気に入ったようだ。


皆を幸せにする天使の笑顔の女性に、ホテルの顔になって欲しいということなのだ。


「どうか引き受けてくれませんか?」
ミニョを前にして更に深く頭を下げるロン。


「ロ・・ロンさん」
これに焦るのはミニョだ。
他ならぬロンの頼み・・・目立たず平穏に過ごして行きたいミニョにとって大いに悩む話なのである。


ちらりとシヌを伺うが、固く目を瞑ったままわからない。


ジェルミは、オロオロしている。


そんな中、その静寂を破ったのはテギョンだった。


「いいんじゃないか?」
その口から出た言葉は、意外なもの。


 


「テギョン!!」
シヌは思わず声を荒げる。


「キーファーグループなら、SPもつくだろうし安心だろう・・・それにミニョがフリーだと社長が本気で狙うぞ」
思い出したように笑うテギョン。


シヌの恋人であり、ミナムの妹のミニョ。
こんなうってつけのブランドはないと、機会があれば口説いている状況だ。


「それもそうだね・・・」
納得したようにミナムも続く。
そしてロンから、ミニョのために英語と日本語の講師もつけると聞き更に乗り気になったようだ。
加えてレディーとしての立ち振る舞いも期待できる


「あの・・・私」
テギョンはともかくミナムまで賛成したとなれば、ミニョが迷いだした。


肝心のシヌからの言葉がないまま、どうしたらよいのだろう。


ずっと俯いていたミニョだが、ふわりと頭を撫でられてぱっと顔を上げた。


「やってごらん?」
目の前のシヌは、いつもの優しい笑顔のシヌ。


「いいんですか?」


「うん・・・語学もしっかり学べるならプラスになるからね」


ミニョにとっては、シヌの考えが一番大事なので進めてくれたのは嬉しかった。
そしてこの話しを受けることにする。


「ありがとうございます。では詳しいことは明日ホテルでということで」
ロンはシヌを一瞥すると、宿舎をあとにした。


 帰りの車の中・・・


「本気で狙わないのか・・・お前なら」
隣の父が、ロンに尋ねて来た。
少なくとも、こんなに息子が一人の女の子に入れ込むのは初めてなこと。


「そうするには少し遅すぎたんですよ・・・彼女よりももっと大切な奴がいますからね」
どこか遠くを見ながら答えるロン。


一方・・・宿舎では


「ねぇねぇ・・・ミニョが英語をマスターしたらオレの実家のパーティに来ても大丈夫だよね?」
頭の中は、お城で自分と踊る姿を妄想するジェルミ。


「ああ・・・そうだな・・・新婚旅行は世界一周なんていいねミニョ?」
ミニョの代わりに答えるのは、シヌ。


「えっミニョだけじゃないの?」
「全く・・・いいかげんに諦めろって」
分かりきっていても聞かずにはいられないジェルミを、揶揄するミナム。

その後はしばらくいつものような小競り合いが続いた。


 


ふと気づくと、シヌとミニョの姿が見えない。
こっそり出かけたようだ。


 


「器の大きさを示したが・・・シヌがあれで済むわけないだろう?」
呆れたように呟くテギョン。


ロンの存在をどこかで意識しつつも、たくさんの悪い虫を寄せ付けないということではこれ以上強力な奴はいない。


「ふぅ・・ん、そういうことか」
ミナムは瞬時に理解してニヤニヤ笑っている。


我が妹ながら、皆をひきつけて止まないミニョ。
そしてそんなミニョを愛してしまったシヌが、そろそろ公的に自分のものにしたいと思っているはず。


だけど・・・もう少しだけ、お預けになりそうだ。

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NEW YEARS DAY 最終話


そして迎えたアンコール。


「Hey!!シヌ」
突然ステージからロンが叫ぶと、辺りはざわめきだした。
シヌが参加していたKEIFFRのライブは、早くも伝説になりつつあるのだから。


ステージに上がったシヌとがっちりと握手を交わすロン。


「今夜は、新年のお祝いだから特別にシヌにも参加してもらう!」


曲は“NEW YEARS DAY ”
ロンの父が若い頃良く聞いていた曲で、ロンも物心ついたときから耳に馴染んでいたものだった。


シヌとハルカのドラマティックな、ツインギターで始まり。
ロンが歌いだすと、オリジナルとはまた違ったパワフルなボーカルに招待客たちは、圧倒されている。


この存在感は、選ばれたものでしか出せないものだ。
若き後継者として、誰もが認めた瞬間だった。


そして・・・歌い終わったロンがマイクを掴むと


「ハルカ・・・」
手招きをして、隣に立たせる。


「紹介します。NEW GITARISTのハルカ・T・ローゼンフィールドです!!」
重大発表に、場内のだれよりも驚いていたのはハルカ本人である


「え!!ウソだろう!?」
とても信じられなくて、本音がでてしまった。


「バカ!!エイプリールじゃあるまいし、こんなうそ言わないぞ」
ハルカの反応に呆れるロン


「ほんとうに・・・ほんとうなの・・・か」
感極まって上手く言葉にならない。
そして更にハルカにはサプライズが待っていた。


ステージ上に上がってきたA.N.JELLのメンバー達が、いきなり歌いだしたのだ。
「HAPPY BIRTH DAY」を・・・


そう1月1日は、ハルカの誕生日。
感激しすぎて、そのときの記憶はハルカには曖昧だった。


そして全てのステージが終わったあと、放心状態のハルカの背中が思い切り叩かれる。


「おい・・・いつまでぼうっとしている。さっさと片付けろ」

「はっはい・・・ロンさん」
慌てて返事をするハルカ。
だが、何故かロンは少し険しい表情をしている。


「もう・・ロンでいいぞ・・・仲間だからな」
照れくさそうにつぶやくロン。


「う・・・うん・・分かった・・ロン!!」
溢れる涙を拭おうともせずに、率先して片づけを始めるハルカ。


「良かったですねハルカさん・・・」
そう言って安堵の表情をみせるのは、ミニョ。


そんなミニョを見つめながら、シヌはロンとの会話を思い出していた。


『あいつがそんなに風に思ってたなんて、知らなかったよ』
本当はもっと早くから正式メンバーにしようと思っていたらしい。
だが・・・その前にハルカのプレイをシヌに見せたかったのだ。


その上で向こうでの新メンバーの発表の予定だったこと。
『まぁ・・誕生日のサプライズでもいいか・・・』
そう言っていたずらを仕掛ける子供のような表情をしていたのだ。


「やっと・・・悪い虫たちから奪取できた」
ふぅっと大きく息を吐くと、後ろから抱きしめるシヌ。


「悪い虫って・・シヌヒョンたら」
シヌの拘束から逃れようとするミニョだが、余計に力を込められてしまう。


「うん・・この甘い匂いに誘われてやってくるんだよな・・・」
はらりとショールを落すと、剥き出しの項に口づけた。


そしてミニョを軽々と抱き上げると、VIP用のエレベーターへと進んだ。


「あ・・の・・オッパは?それに皆さんは?」
シヌの腕の中でじたばたしながら、訊いてくるミニョ。


「ミニョ・・・オレ以外の男の話しはダメ!!ああ・・ミナムたちはロンに誘われてハルカの誕生日を祝うんだって。ようやく公的にアルコールが許可されたからきっと朝まで飲んでるだろうな」
酒に強い奴らに囲まれてつぶれないかと、ちょっと心配になる。


だが・・すぐに慣れるだろう。


「じゃ・・私たちも・・・」
この期に及んでまだそんな事を言うミニョ。
だから、煩い口をふさいでしまった。


最初は形ばかりの抵抗を見せるミニョだが、すぐにうっとりとした表情になる。


そしてついた部屋は、最上階のスィート。


『完全防音だから、思う存分啼かせて良いからな』
ステージが終わったあと、ロンに耳打ちをされた。


(全く有難た過ぎる好意だ。受け取っておくよ、ロン)


結局・・・一晩中シヌのために啼かされたミニョ。
翌日風邪をひいて声が出ないという話は、誰一人として信用してなかったに違いない。


マスクをしてソファに座っているミニョのところにロンがやってきた。


「ミニョちゃん・・・ごめんね?オレが煽ったみたいでさ」
口では謝っているが、ロンの様子に反省などかけらも見えない。


「もう・・酷いですぅロンさんたら!」
マスク越しに抗議の言葉を訴えるミニョを見て、さすがにばつが悪い表情を浮かべるロン。


「でも・・・あいつがあんなふうになるのはミニョちゃんだけだよ・・・」
「はい・・・分かってます」
気持ちを通じ合ってから随分たつのに、溺愛ぶりは過熱する一方だ。


「ほら・・・噂をすれば」
心配そうな顔でやってきたのはシヌ。
部屋を出てからなかなか戻ってこないので、様子を見に来たのだ。


「お姫様の機嫌が治ると良いな。」
シヌの肩に手を置いて、通り過ぎてしまう。


「ミニョ・・・」
「知りません・・・」
隣に座ったシヌと思い切り距離をとり、プイッと横を向くミニョ。


「ごめん・・・機嫌直して」
「治りません・・・」
一度怒るとけっこう頑固なミニョ。


結局機嫌を直す方法はただ一つしかないのかと、額に手を充てる。


「本当にごめん・・・その代わりこれ」
そう言ってミニョの前に差し出したのは、このホテルのスイーツビュッフェのパスポートチケット。


途端にミニョの目が輝きだした。


「わぁ!!美味しそう・・・ですね」
「うん・・ロンからだって・・・こればあれば優先的に食べられるらしいよ」
流石にスイーツの威力は絶大だ。さっきまでの頑なな態度は懐柔されている。


「あ・・でも・・わたし・・ダイエットが」
シヌの言いつけどおり、昨日のパーティでもスイーツは殆ど口にしなかったミニョ。
素直なミニョは、余計に愛しいのだ。


「パーティが無事に済んだから、ダイエットはお終い。よく頑張ったね」
ふわりと頭を撫でると、ミニョは嬉しそうにシヌを見る。


「ありがとうございます。じゃあジェルミに言わなくちゃ!!」
「えっ何でジェルミ?」
二人きりで一緒に行く気満々だったシヌは、 出端を挫かれてしまう。


「だって・・この間せっかく誘ってくれたのに行けなかったから」
電話越しのジェルミのハイテンションな声が響く。


5分後・・・何故かハルカをつれてやってきたジェルミ。


「ハルカも甘党なんだって!!良いよねシヌヒョン?オレと二人よりは」
ジェルミにまで見透かされたシヌは、何もいう事が出来ない。


じゃれあう3人を見ながら、自分の最大のライバルはスイーツなのかもしれないと思う。
そして今夜は、更に甘い匂いのミニョを抱くことになるだろう。


「しっかりカロリーを消費すれば、いくらでも食べていいからね」
そう呟くシヌの目の奥が、すこしだけ妖しく光っていた。
                            
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NEW YEARS DAY 5


 


朝になるとシヌは、気持ち良さそうに眠るミニョの枕元にメモを置いてからリハーサル室に向かった。


「何だ・・・早いな?もう少しゆっくり来ると思ったのに」
ニヤリと笑うロン。


「ああ・・十分休んだから大丈夫だ・・・オレは若いしな」
さらりと交わすシヌは、かなりの余裕を見せていた。


「ふっ言う様になったな・・・可愛くない」
「其れはどうも・・・でも可愛い奴ならちゃんといるだろうハルカが」
ハルカの名が出た途端・・ロンは苦笑する。


教会から戻った後、これまでとは別人のように素直になってリハーサルに励んでいたこと。
ジョーとリックも自分たちの話のせいでハルカが思いつめたと言って、謝罪した。


「ま・・・なんかいろいろ心配掛けたけど・・・大丈夫だ!」
はっきりと言い切るロンを前にして、シヌはようやく安堵する


「なあ・・ロン?ハルカのことは・・・・」
「・・・・分かってる・・・オレは・・・・」
いつまでも宙ぶらりんなハルカの事を思うシヌに、ロンなりの考えを話してくれた


それから数分後、ハルカがやって来る。


「ロンさん、シヌさん、おはようございます!!今日はよろしくお願いします」
ペコリと頭をさげる。初対面の時と別人のようだ。
続いて、ジョーとリックも部屋に入ってくる。


やけに気合の入れた服装のジョーは、部屋の中をキョロキョロ見渡しているようだ。


「ジョー、ミニョちゃんは来てないからな」
ロンに言われると、あからさまに落胆したので全員が爆笑していた。


和やかな雰囲気の中、リハーサルを終えいよいよ今夜ライブを迎えるのだ。
もちろんそれは、今夜のパーティのメーンイベントとなる。


シヌが部屋に戻ると、ミニョはまだ眠っていた。
その寝顔はあどけなくて、昔を思い起こさせる。


「いつまでたっても、寝顔は天使だな」
頬を撫でながら、軽くキスを落す。


すると・・ミニョの瞼がうっすらと開いた。


「お目覚めですか?ミニョ姫?」
身体を起こしたミニョの前には、そんな台詞が似合いすぎるシヌが立っている。


<span style="font-size:x-small;">「ははい・・・シヌ王子様・・・」</span>消え入りそうな声で、呟くミニョ。


シヌは一瞬目を丸くした後、ミニョを抱き寄せる。


(全く・・天然姫には敵わないな)


その後、ゆっくり目のシャワーを追えたミニョの前にルームサービスの食事が用意されていた。
ちょうどおなかが空いていたミニョには、ナイスタイミングである。


「シヌヒョンは、エスパーですね。私のことが何でも分かるんですから」
真顔でそんな事を言うミニョ。
シャワーの前に自分で空腹を訴えていたのを忘れているのだろうか。
だが・・ここは話しを合わせておくことにする。


「そうだな・・・でもこの特殊能力はミニョ限定だから」
そう言って囁いてあげると、嬉しそうに笑ってくれた。


その後はドレスが置いてあるミニョの部屋に戻る。


程なくモディがヘアメイクと一緒に、やってきた。


「・・・ちょっと随分と痩せたじゃない?」
「うん・・・オンニ」
久しぶりに会うモディは、ミニョを観て興奮しているようだ。
そしてシヌから今夜のパーティのドレスの現物を見せられると、さらに驚く。


仕事柄ハイグレードの商品を見ているモディをもってしても、
目の前のドレスを見て、一瞬言葉を失う。


だが、すぐに奮起したようだ。


「シヌ、私の腕の見せ所ね!!」
「はいヌナ、楽しみにしていますよ」
モディに全面的に任せたシヌは、嬉しそうにその場を後にした。


「さて・・・初めるわよ」
モディの目がキラキラと光った。


その後・・・再び部屋を訪れたシヌ。


「さぁ・・・しっかり見なさいよ」
自信満々のモディがミニョの手を引いてきた


「ミニョ・・・?」
「あっあの・・・どうですか?」
上目遣いに不安げに見つめるミニョ。


「うん」いやあ・・・ミニョちゃん想像以上だよ!!」
いつの間についてきたのか、ロンが感嘆の声を上げる。
そしてすばやくとなりに並ぶと、パチリ。


「ロン、何やってるんだよ」
「何って、見れば分かるだろう写真だよ♪」


「そんなの見れば分かる!!どうしてオレより先に!」
「ミニョちゃんに見とれて呆けていたお前が悪いんだろ?アハハ」
シヌの抗議などお構いなしのロン。


そんな二人を見ながら、ミニョは静かに微笑んでいた。
だが、すぐに大事な事を思い出す。


「ロンさん、このドレスってすごく高価なものなんですよね?」
モディ曰く、軽く車が買えるほどのようだ。


「あっそんなの気にしなくていいよ。」
「でも・・・こんなことまでしていただいて」
こともなげなロンに、ミニョは申し訳なさでいっぱいになるのだ。
そうかと言って、ミニョが買い取る事の出来る金額では到底ない。


「う・・・ん、じゃあさ?今夜のパーティで1曲オレと踊ってくれる?」
「えっ?」
ロンの申し出に驚くミニョ。


「なぁ・・・?シヌ?ダメか?」
ダンスを踊ることくらいで、シヌが止める権利などないのだがあえて聞いてくるのだ。


束縛の強い奴だと思われたくなくて――十分に知られているだろうが――
ミニョに踊るように進めると、コクリと頷いた。


そうして交渉が成立した頃
バタバタと部屋に駆け込んできたのは、ジェルミとミナム。


「ミニョー超絶可愛いーーー」
久しぶりに抱きつこうとしたジェルミだが、その行動を呼んでいたシヌによってまたもや妨げられてしまう。


「懲りないな・・お前」
ミナムは気の毒そうに見つめているが、兄のミナムから見ても
ドレスアップされたミニョの姿に驚きつつも、其処は平静を装う。


「いやあ・・・馬子にも衣装だよな・・・後はヌナ達のテクのおかげか?」
「ひっどーい!!オッパったら意地悪!!」
揶揄するミナムに、頬を膨らませるミニョ。


「ホレホレ・・・そんな顔したらドレスが泣くぞ」
ムキになるミニョの更にからかうミナム。


「ミナム君・・そんな意地悪いわないで褒めてあげなよ?ミニョちゃんのこの姿をジョーが見たら鼻血ものだからさ」
「オーバーだな・・・いくらジョーでもそれはないだろう?」


果たして・・ロンの予想は見事に的中することになるだが・・・


その後ようやく邪魔者?を追い払い、ミニョの二人きりになったシヌ。


「お迎えに参りました」
跪いてミニョの手を取るシヌは、ミニョが子供の頃に読んだ絵本の中の王子様そのもの。
そして・・・ミニョも今夜だけは本当のお姫様になれる気がしてきた。


シヌにエスコートされ、会場に向かうミニョ。
傍から見たら本当にお似合いで、何人も割り込む隙間などもうほんの少しだって残ってはいない。


「ミニョ・・・・痩せたよね。聞いたよ、ヒョンも協力してくれたんでしょ」
二人の後姿を眺めるテギョンの隣で話すミナム。


「別に・・・ただ朝の散歩に付き合っただけだ・・・久々にあいつをしごいて楽しかったけどな」
「ミニョも喜んでいたよ・・・ありがとう」
テギョンの消えないミニョへ思慕には、あえて触れようと馳せずただ感謝の気持ちを告げた。


そしていよいよパーティーの始まりとなる。


「HAPPY NEW YEAR!! 今夜はキーファーグループ主催の宴にお集まりいただきましてありがとうございます。」
マイクを持って流暢な韓国語で挨拶をするのは、ロンの父のようだ。


その後は簡単に自社の説明をして、ロンをマイクの前に立たす。
「息子のロンです。まだ先の話ですが、ゆくゆくは私の後継者となります」
 
総帥の言葉に、シヌを初めANJELLの皆は驚きの表情を隠せない。
だが、ジョーとリックの反応はいたって冷静だ。


「まあ・・・あいつは御曹司だからな。遅かれ早かれこうなると分かっていた」
それでも今すぐというわけではないらしい。
音楽活動も続けることは後を継ぐ条件として父に突きつけたという、ロンらしい強引さ。


「それにな・・・このホテルってロンのものなんだぞ」
ジョーがこっそり耳打ちをする。


「そうすれば、シヌとも自由に会えるって考えたみたいでさ」
ジョーは笑うしかないようだ。
だが、実はジョーもロンの補佐として就くことも決まっている。


「あいつに任せっぱなしだと何かと暴走しそうだしな・・・」


やがて・・・渦中のロンがこっちへやってきた。


「ロン!!相変わらずサプライズが好きな奴だな」


「そうか?でもこれでも抑えたほうだぞ・・・LAじゃなくこっちにしたんだからな」
相変わらずの奴だとシヌは思うが、考えてみれば去年はいきなりミニョと二人で拉致されたりと、
ロンの行動には予測がつかない。


「じゃあ・・・さっきお願いしたように、ミニョちゃん借りるぞ」
「あ・・ああ・・・ミニョ」
シヌに促されると、うつむき気味に前に出るミニョ。


「ミニョちゃん・・・それじゃドレスに負けちゃうよ、顔上げて?」
「はっはい!!」
ロンに言われてきっと真正面を見据えるミニョは、後ろを振りかえると


「シヌヒョン…行ってきます」
「うん・・行っておいで」
ほんの僅かの時間でも、ミニョと一緒にいられないと思うと不安になってしまう。


(本当に病気かもな・・・)
何となく隣のジョーの反応が気になって見て見ると・・・フリーズしている。


「ミニョちゃんが・・・あんなドレスを着て・・・オ・・オレ・・ど・・どうしよう」
そして・・たらりと落ちる鼻血。
どうやら、ロンのいう事は正しかったようだ。


数分後曲が始まると、会場の注目はロンとミニョのダンスだ。


普段のロンからは想像できない優雅な動き、上手くミニョをリードしている。


「よかったな・・・あいつが恋敵にならなくて」
いつの間に隣に来たのだろう?テギョンが二人を眺めながら語る。


「全くだ・・・お前以上に手強いに違いないからな」
今さらながらに思うシヌ。
そういえばミニョもロンには打ち解けるのが早かった気がする。
もしも本気になっていたら・・・どうなっていたのだろう?


一方・・ミニョはといえば・・
慣れない場所での慣れないダンス。
それでも踊りやすいのは、ロンのおかげなのだろう。


正装したロンはミニョが持っているワイルドなイメージからは違って、なんだが不思議な気持ちになる。


「あっ」
「おっと」
突然躓きそうになったミニョを軽くロンが支える。


「気をつけてよ・・オレと踊っていて足を挫いたりなんかしたら、オレの命が危ない」
「そんな・・・ロンさんたら大げさですってば」
ミニョはくすくす笑っているが、ロンのいう事はかなり当たっているのだ。


「ロンさんて、やっぱりカッコよかったんですね?」
「残念・・・今頃気づかれたか?会ったころに言って欲しかったな」
アプローチしたのに気づかなかったでしょう?とおどけるロン。
もちろんミニョにはいつものジョークだと思ったのだが・・


「ロン・・・パートナーチェンジだ」
半ば強引に割り込んできたのは、意外にもテギョン。


「ずるーいヒョン!!じゃあ次はオレの番だからね」
傍にはしっかりとジェルミ。


テギョンはもちろんだが、ジェルミもさすがに貴族の血筋だけあって上手にミニョをリードしている。


「ミニョちゃんは、天使どころかみんなの女神だな」
「ああ・・・今だけな」
ロンが待ちぼうけのシヌを揶揄すると、平然と答えてきた。


「なっなあ・・・オレもミニョちゃんと踊りたい」
さっきから羨ましくて仕方がないのは、ジョーだ。


「おまえ、ちゃんと踊れないだろう?万一ミニョちゃんの足でも踏んで怪我でもさせたらどうする?」
「うっ・・・ぐ」
踊れないミニョは、相手のリードがないと不安定になるのだ。
ましてや体格のよいジョーの全体重がかかったらと想定すると・・・


結局・・・近いうちにダンスの先生を呼ぶことでようやく納得させたのだ。


「ああ・・・ミニョばかり人気者だよな」
可愛い双子の妹だが対抗心からか、その声には少しだけ妬みを含んでいるようだ。


「仕方ないよ・・・ロンとジョーにとっても本当に大切に思っている子なんだから」
ただ一人中立の立場のリックは、さりげなくフォローをする。


「ねっハルカはどう?」
「えっ何言ってるんですか?オレはあの歌声に興味があるって・・・だけで」
ミニョの方をずっと眺めていたハルカは、いきなり話しを振られて動揺している。
聞かれもしない事を話してくれるのだから。


「分かった・・まあそれだけに留めておくのが賢明だよ。」
ミナムの言葉に、一同頷く。
ミニョを護る騎士はたくさんいるが、愛し愛される事が出来るのはたった一人だと分かっているのだ。


そうして、いよいよ今回のパーティーのクライマックスのKEIFFRのライブ。


自分が抜けてから、こうしてKEIFFRのライブを目の前で見るのはシヌには初めてで感慨深い。


ハルカのプレイも、曲が進行するつれてどんどん良くなっている。


「これで・・安心だな・・・」
「ああ・・・全くだ・・・オレたちも負けちゃいられないな」
昔は考えられなかったくらいに、テギョンとも分かり合えることがシヌには嬉しかった。

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NEW YEARS DAY 4


こうして歌うとミニョが思い出すのは、A.N.JELLのみんなと初めて出会ったときのこと


テギョンにいきなり『歌え!』といわれ、わけも分からずに賛美歌を歌った。
小さい頃から、どんな曲よりも自分に馴染んでいたから


やがて、無表情でミニョの歌を聴いていたハルカに変化がでて来た。


「すげぇ・・・」
ぼぞっと呟くとその歌声に聞き入っている。
そしていつのまにか、その目に涙が浮かんできた。


「くっなんだよ・・ダセェーよ」
ゴシゴシ目を擦ろうとするハルカの頭に、不意に帽子がすっぽりと被らされていた。


「そんな風に擦ったら色男が台無しだぞ!!」
呆れた様子のジョー。


だが、そんなジョーの行動に驚いているもはリック
「おい?ジョーその帽子って・・・」


ハルカに被らせている帽子は、ミニョから昨年のクリスマスプレゼントとして貰った大事な帽子。


「ああ・・・ミニョちゃんの愛・・あっいや真心がいっぱい詰まった帽子だ!!」
本当は愛情と言いたかったが、隣のシヌの視線が痛くて慌てて訂正する。


「まあ・・・とにかく少しの間貸してやるからな!!」
そう言って、頭をポンと叩く。


「ってぇーな・・・まあどうしてもっていうなら少しの間借りてやるから!!」
素直になれないハルカを見て、ジョーを初め皆苦笑していた。


「本物の天使の歌声だな」
「ああ・・・全くだ」
テギョンの言葉に大きく頷くのは、シヌ。


「オレには少し負けるけどね」
二人の会話にいつのまにかは言ってきたミナムだが・・・


「「黙れ!!エセ天使」」
軽く一蹴されてしまうのだった。


そしてミニョの歌が終わり、ロンが手を止めると静かに立ち上がって
俯いているハルカの目の前に立つ。


「おい・・どうだ?よかっただろう」
「ああ・・・あれで素人なんて・・・・」
ロンの問いかけに、双子の秘密を知らないハルカは素直な反応だ。


そしてその天使は、いつのまにかシヌの腕の中にいる。
ちょっと顔を赤らめたミニョと、大切な宝物のように包み込んでいるシヌ。


「ああ・・全く見せ付けてるとしか思えないな・・・神聖な場所だ程ほどにしろよシヌ!!」
ロンがでてゆくと、皆も続いた。


「シヌ・・・15分だけだ・・・良いな!!」
最後に出てゆくテギョンが声を掛けると。シヌは後ろでに手を挙げていた。


「あっシヌヒョン・・私たちも行かないと」
シヌの腕の中で、もぞもぞと身体を動かすミニョ。


「気にするな・・・テギョンが珍しく気を利かせてくれたんだから」
ミニョの顎を持ち上げると、啄ばむような口づけをする。


一度離れた後、今度はミニョの頭を抱え込み唇を貪る。
やがて・・・その激しさに、ミニョの膝がガクンと崩れそうになると
そのまま抱きかかえられて、尚もキスは続いた。


ようやく解放されたミニョに、シヌ少しだけ切ない表情で語った。


「これで・・リベンジ終わりだね」
「あ・・・」
沖縄のチャペルでのことだと、どうやら気づいたミニョ


「まだ終わってません・・・」
ギュウっとシヌの首に手を回すと思い切り背伸びをしながら、唇を押し当ててくる。
思いもかけない大胆なミニョの行動にシヌが目を丸くすると、我に帰ったミニョがぱっと離れた。


「やだっ私・・・」
顔中真っ赤にしながら、しゃがみこむミニョ。


「ミニョ・・・神聖な場所でこれ以上はまずいから、続きはベッドでね」
耳元で囁かれるシヌの声が、やけにかすれて聞えてきた。


二人で手を繋いで、教会を出るとシヌの車の前に誰かが凭れている


「1分5秒のオーバーだOVERだ・・」


「やたらと正確だな・・・1分でいいだろう?」
こういうときでも神経質なテギョンに、シヌは呆れている。


「全く・・みんなと一緒に戻ればよかったのに・・・わざとか?」


「何のことだ?あの人数じゃ窮屈だから降りただけだぞ」
シヌの皮肉も気にも留めずに、しれっと答えるテギョン。


そしてシヌから鍵を取ると、そのまま後部座席へと乗り込む。


「少し寝る・・・ついたら起こせ・・・ああミニョ・・運転中シヌに変な気を起こされないように気をつけろよ」


「テギョン!!」「テギョンさん」
シヌとミニョの抗議の声を無視すると、テギョンはそのまま目を瞑っていた。


ホテルに着くと、真っ直ぐにリハーサル室に向かう3人。


「ハルカ!!入るのが遅い!!」
「はい!!すみません」
ドアを開けた途端に聞こえてきたロンの怒声と、ハルカの声。


その様子に、ミニョは一人オロオロしている。


「シヌヒョン・・・ハルカさん大丈夫でしょうか?」
つながれたシヌの手をしっかりと握り、会ったばかりのハルカを案じる優しいミニョ。


「ああ・・・ほら?よく見てごらん。ハルカの顔は嬉しそうだろう?」


いわれて見ると、怒られながらも楽しそうにプレイしている。


「手の掛かる奴ほど、可愛いってことだ・・・」
テギョンも同調する。


休憩タイムになったので、シヌがロンのところへと駆け寄る。
ハルカがいるなら、自分の出る幕はないだろうから・・・


「待って・・・!!」
意外な声がシヌを引きとめた


「えっハルカ・・・どうした?」
何故かシヌの手を強く掴むハルカ。


「お願いします・・ツインギターでシヌさんも参加してください」
神妙な面持ちで頭を下げるハルカに、シヌは戸惑う。


「だけど・・・この曲」
キターは一人で十分な筈だ。


「すみません・・ちょっと時間下さい」
ハルカは譜面を取り出すと、赤いペンの上書きを加えてゆく。


そして10分後・・・
「シヌさん・・・これでどうですか?」


ハルカから渡されたのは、ツインギター用にアレンジしたもの。
渡された譜面を見て、シヌは驚いた。


こんなに短時間で、アレンジを考えるのだから。


「どれどれ・・・ガキのくせに・・・やるなあ」
シヌから譜面を取り上げたロンも、感心しているようだ。


「せっかくガキが頑張ったんだから・・やっぱりシヌも入れ!!」


「え・・・おい・・・ロン!!」
結局シヌも、加わって5人でのスペシャルライブとなった。


その後・・テギョンが部屋を出てゆくと、ミナムとジェルミも後に続いた。
残されたのはミニョだけ。


「ミニョ・・・遅くなるから部屋に戻って休んでろ」
シヌが諭すようにいい聞かせると、何故かミニョは首を横に振る


「あの・・・邪魔をしないので・・観てていいですか?」


「でも・・・」
ミニョの気持ちは嬉しいが、疲れるのではないかとシヌは心配になる。


「シヌ・・・オレは構わないぞ・・・それにミニョちゃんが目の前で観てると・・・テンションの上がる奴がいるしな」
後ろのジョーに視線を移すと、上機嫌でスティックを回している。


「分かった・・・風邪ひかないようにしろよ」
傍にあったブランケットを掴むと、ふわりとミニョに掛けた。


こうして5人のプレイに見入っていたが、もともと早寝のミニョ。
いつのまにか、ウトウトし始めていた。


「よし・・・何とか行けそうだ!!後は明日もう一度会わせようぜ」
ロンが終了を告げた。


すぐにシヌはミニョの様子を伺う・・・


「ミニョ・・・ミニョ」


何度か身体を揺するが、起きる気配はない。
仕方がないので、そのままホテルの部屋まで運ぼうと思っていると・・・不意に、シヌの掌にカードキーが載せられた。


「この隣の部屋使っていいぞ」
「えっ・・・いや悪いよ・・・それにロンはどうするんだ?」
既にロンが用意してくれた部屋があると、シヌは固辞する。


「ああ・・大丈夫だ他に部屋はあるし、今夜はジョーの部屋に行くからいい・・・じゃあ明日頼むな!!」


「ロン・・待て!!」
シヌの呼ぶのも聞かずに、あっという間にロンはその場から立ち去ってしまった。


「ったく・・・好意はありがたく受け取ってゆくよ」
苦笑しつつも、ミニョを抱き上げると隣の部屋へと運んだ。


ベッドに横たえたミニョを眺めながら、衣服を少し緩めてやると無意識だろうがミニョから甘い声が漏れた。


「ミニョ・・・起きないと襲うぞ」
悪戯半分で服を脱がせ始めると、露になるミニョの肢体を目の当たりにしてシヌの雄の本能が芽生えてくる。


そして・・・そのままミニョを一糸纏わぬ姿にしてしまった。


 


「ん・・・」
やがて、ミニョは心地良い身体のゆれを感じながらうっすらと目を開けた。


「へっシヌヒョン?」
自分を見下ろすシヌがいたのだ。


「ミニョ・・やっと起きたのか」
シヌはあからさまに溜め息を漏らす。


「な・・なにしてるんですか?」


「ん?・・・何ってまだ何も・・・これからだな・・良かった年を越す前にミニョが起きてくれて」
悪戯っぽく笑うと、当たり前のようにシヌの舌と手がミニョの身体を這う。


「ダメですってば」


「ん?でもミニョのカラダはダメって言ってないよ」
ミニョの抵抗をものともしないシヌ。


ベッドサイドのデジタル時計を見ながら・・・
カウントを取り始めた。


「・・・・・・・30・・・・10・・・・・3・2・1・・・Happy New Year・・・ミニョ」
チュッと軽く口づけるシヌ。


「今年の初キスだな」


「も・・・もう・・・知りません」
恥かしさで軽くぶつマネをするミニョの手を簡単に捉えてしまう。


「じゃあ・・・次は初・・・」
「え?・・・やっもう」
シヌの言葉に抗うことなど出来ないミニョは、いつもより熱を帯びた其れを必死に受け止める。


時折苦しげに顔が歪むシヌ・・・


だが・・・そんなシヌを見ることが出来るのは自分だけだと思うと誇らしげな気持ちになる。


「シヌ・・・すき」
ミニョから出た言葉で、一瞬シヌの動きが止まる。
そして圧倒的質感が、ミニョの中に広がった。


「ミニョ・・・オレはもっとすき・・・」
その後いくつもの愛の言葉がシャワーのように降り注いできたが、いつのまにかミニョは意識を手放してしまった。

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