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ROULETTE 37


「どうぞ、入ってください」


「はい…あっ」


部屋の入り口でテギョンに促されたマリアンヌは、飛び込んできた光景に


言葉を失いそうになる。


それくらいにハイグレードな部屋なのだ。


 


こんな場所に自分が踏み入れてよいものかと、最初の一歩が出せない彼女の手を


テギョンがそっと手をとって、中へと誘導する


 


そうして部屋の真ん中のソフォに到着すると、手を繋いだままそこに腰を下した。


 


「あの…手を」


「これは申し訳ない…」


俯きがちにつぶやくマリアンヌに反応したテギョンは静かにその手を放すのだった。


その時マリアンヌの目に浮かんだ落胆の表情をテギョンは見逃さなかったが、


何も気づかぬふりで席を立つ。


 


しばらくして、トレイにグラスを二つ乗せて戻ってきた。


「綺麗なオレンジ色。いただきます」


「おいっ待て。」


喉が相当渇いていたのかマリアンヌは、一気に飲み干してしまう。


テギョンの呼びかけは間に合わなかったようだ。


 


「なんだか、身体がふわふわするようです…」


そう言って、ソファに沈んだマリアンヌ。


 


「マリアンヌさん、起きてください」


テギョンが強く身体を緩るが、効果はない。


 


まさか一気飲みをするとは思いもよらなかったのだ。


テギョンに焦りが芽生える。


とはいえ、このままソファーにというのも良くないと考えたテギョンは


マリアンヌをそっと抱き上げると、ベッドへと寝かせるのだった。


 


アルコールの所以のせいか、ほんのりと赤い顔。


そして子供のような無防備な寝顔に、どこか重ねてしまう。


 


「君はしっかりしているようだが、アルコールに関してはあいつと同じ事故多発地帯なんだな」


こんな苦労して部屋まで連れてきたが、無駄足になる可能性が高い。


 


隣の部屋に戻り、もう一つのグラスを手に取った。


グラスが空っぽになったとき、テギョンの心も同様に虚しさを覚える。


 


(何やってるんだ…オレは)


アルコールで懐柔し、ことと次第によっては一線を越えても良いとさえ思っていたのだ。


ミニョの情報を得るためには、手段を選ばずにここまで来たテギョン


だが、それは人として決して褒められたやり方ではない。


ましてや、テギョンのケアをしてくれたマリアンヌに対して。


 


その時、テーブルに置かれている雑誌に目が止まった。


入院した日にマリアンヌが購入してくれたもの。


今になって、ようやくパラパラとページを捲る。


 


すると、その中に良く知った男の姿を見付けた。


 


「むかつくほど、白衣が似合うやつだな」


ついつい出てしまう憎まれ口。


シヌの演技は評判が良く、当初よりも出演シーンが大幅に増えているという。


医療系は専門用語が多いことに加えて、異国のドラマ。


英語が堪能なシヌでも、苦労はかなりあったのだろう。


 


“シヌヒョンの演技すごいんだよ。それに内容も面白くて!!次が待ちきれないよ”


ジェルミが熱く語っていたが、そんなものかと聞き流す日々。


 


リモコンを掴み、スイッチを入れてドラマチャンネルを選択すると


ちょうどシヌのドラマが放映中のようだ。


せっかくだからと軽い気持ちで見てみようと考えたテギョン。


 


だが、いつの間にかその内容に引き込まれている自分に気づく。


内容ももちろんだが、使われている音楽もテギョンが興味を持つには十分だった。


夢中で見ていたら、あっという間に時間が過ぎたようだ。


時間を確認すると3時間は過ぎている…


 


「こんなに面白かったなんてな…もったいないことをしていたぞ」


自嘲気味につぶやくテギョンの背後で、バタバタと足音が聞こえた。


 


「あっあの私すみません!!うっかりその眠ってしまったようで」


目が覚めたマリアンヌが慌てて起きてきたのだろう。


床に座り込むと、深く謝罪押するのだ。


 


「頭を上げてください」


「はい…」


テギョンの穏やかな声に安堵の表情を見せたマリアンヌは、すぐに思いがけない瞬間を迎えた。


 


「バカ!!!」


「へ?」


テギョン怒鳴り声に、マリアンヌは驚きのあまり一瞬固まる。


 


「のこのこ男の部屋まで付いてきて、出されたものを確かめずに飲むとは危機感が欠落してる。オレが犯罪者だったらどうするんだ!!」


「ごめんなさ…でも…あっ私…ごめんなさい」


強引に誘ったというのに随分な言い分だが、マリアンヌはこれまでに見たことのないだろうテギョンの姿に動揺し、今にも泣きそうなのだ。


 


「と言いつつ…オレが言えたことじゃないな。ほら飲め!」


テーブルの上にやや乱暴にグラスを置くと、テギョン愛用の海洋深層水を


注ぐ。


 


「はいっいただきます」


マリアンヌは反射的に、グラスを掴むと緊張しながら口に含んでいる。


 


「少しはすっきりしたか?」


「はいっ…いろいろと驚いて醒めたかもしれません」


未だ床に座ったままのマリアンヌを立たせると、隣に座るように促した。


 


少しの間流れる沈黙。


「どうした?オレの顔に何かついてるか?」


マリアンヌの視線を感じ取ったテギョン。


 


「いいえ…Mr.ファンが別人のようで…あっいえ…失礼しました…ごめんなさい」


マリアンヌは失言とばかりに慌てて口元を抑える。


これまでのテギョンとのギャップで驚くのは、無理もないかもしれない。


 


「悪いが…これがオレの地でね?穏やかな男を振る舞うのは疲れたんだよな。」


「そういうことでしたか…あっこのお水美味しいです。お代わり!!ううんボトルごとちょうだい!!」


海洋深層水ボトルを、半ば強引に奪い取るとごくごくと派手な音を立てて飲み干した。


 


「ああ…すっきりした。」


ソファに身体を投げ出すように座るマリアンヌ。


これまでの彼女のイメージとは違い、今度はテギョンが困惑した。



「猫かぶるって疲れるの!!もっと早く言ってくれればよかったのに」


「そう…か」


サプライズ返しとでもいうのだろうか?


お互いに真逆のキャラを演じていたようだ。


 


「この仕事をしていて、この名前でしょう?それにこの憂い顔で勝手にイメージ持たれちゃって。まあ得することも多かったけど。だけどオフまで続けるのはきついわぁ。どうせならレストランで教えてくれれば良かったのに。」


もっと料理を楽しめたとぼやいている。


 


「ハハ…とんだ偽マリア様だな。アルコールに弱いのが弱点か?」


「もうっそれは言わないでよ。本当はもっと強いの!!だけどここんとこ勤務がハードで回るのが早かったのよ。魔王様♪」


揶揄するテギョンにきまり悪そうに反論するが、しっかり攻撃も忘れないようだ。


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