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ROULETTE  31



このまま永遠に閉じ込めて、隠してしまいたい。


そう思ったら、更に腕に力が入る。


 


「あの…シヌオッパ?少しだけ苦しいです」


「ごっごめん…加減できなくて」


小さく漏らしたミニョの言葉にはっとしたシヌは、慌ててパッと手を放した。


気持ちが舞い上がってミニョがあくまでも病人ことを忘れていたことを反省する。


すると、今度はミニョが落胆の表情を見せた。


 


「違います…あの…」


控えめにおろされたシヌのシャツの袖口を、そっと掴む。


 


「じゃあこっちなら、いいかな?」


「はいっ」


シヌがミニョの指先に触れると、少し恥ずかしそうだけど嬉しそうに微笑んでくれる。


 


「あ~あ…いつまで二人の世界に浸ってるんだろうね?」


「いいじゃないの?そっとしときなさいよ」


「まぁ、彼女なしには目の毒だよな」


カイル、リタそしてアレクの間で交わされた会話のことなど、二人には全く届いてなかった。


 


それからミニョに合わせてゆっくりと歩くと、再び車椅子へと誘導した。


「シヌオッパ、私まだ平気です」


「わかってるけど…少しづつね」


 


頑張り屋とミニョだから、このまま自力歩行で過ごしたい思いは理解できたが無理は禁物である。優しく諭すと、渋々だが納得したようだった。


何より、ミニョのこの姿を見せたい人物が他にもいのだから。


 


「シヌ、交代よ!」


ミニョの車椅子は、再びリタの手に渡ってしまった。


困惑するシヌに、料理の準備ができるまで庭を案内するのだと言う。


 


「自慢じゃないけどその辺の花屋さんに負けないくらいなのよ?ミニョお花は好き?」


「はいっ!!大好きです」


リタの言葉に、目をキラキラ輝かせるミニョ。


 


「良かった。じゃあ行きましょうミニョ?」


ひらひらと手を振ると、車椅子のハンドルを回すミニョと並んでフラワーアーチへと向かったのだった。


 


そんな二人の後姿をしばらく見つめるいると、ごつんと背中に当たる感触。


思わず振り向くと、カイルとアレクがニヤニヤしながら立っているのだ。


 


「そんな顔して、すぐ戻ってくるよ。もしかして嫉妬?」


「えー?そうなのか?相手はリタ相手だぞ!!その心配は無用だからな?」


面白がって勝手に盛り上がる二人に対し、シヌは苦笑しながらもゆっくりと首を横に振った。


 


「そんなんじゃない…改めて女の子だなって思っただけだから」


シヌの記憶の中のミニョは、ミナム時代の姿が色濃く残っている。


女の子としての記憶は、わずかしかない。それも苦い思い出だ。


 


「おかしな奴だな?どこからどう見てもあの子は女の子だろう?」


「それは…そうだけど…」


男として過ごしていた日々のことなど、アレクに説明できるはずもない。


 


「そんだけ可愛いってことだよね?はいはいそれ以上は本人にいいなよ?ごちそう前に胸やけしちゃうだろう?」


「ああ、そういうことか?」


カイルがややオーバーに口元を覆うと、アレクは不思議に納得したようである。


 


しばらくすると、膝の上にいっぱいの花を乗せたミニョがリタとともに戻ってきた。


 


「シヌオッパ!こんなにきれいな花をたくさんいただきました!!」


「良かったね。」


満面の笑みを浮かべるミニョを見ると、こっちまで嬉しくなってしまう。


 


(花よりもミニョのほうがずっと綺麗だよ)


本当はそう言葉をかけたかったけど、みんなの手前ぐっとこらえる。


不意にミニョの手からこぼれた一輪を咄嗟にキャッチしたシヌ。


見ると棘の少ない品種の薔薇のようで、手早く抜き取るとミニョの髪にそっと差し入れた。


 


「え?シヌオッパ…これ?」


「だめだよ!よく似合ってるのに触ったら崩れちゃうだろう……」


髪に手をやるミニョを制しながら、思わず出た言葉。


あの日のミニョも、本当にきれいだったことを思い出す。


二人きりの幸せなひと時…だがそれは一瞬で終わりを迎えたことも。


 


「シヌのいう通りだけど、それだけなら動いただけで落ちちゃうわ。行きましょうミニョ」


リタが何か思い立ったように、屋敷の中へミニョを連れていった。


ほどなくして戻ってきたミニョの髪には、傍から見てもさっきよりしっかり薔薇の花が留まっている。リタがしっかりと装着してくれたのだろう?


 


「あれ?リタも?」


少し遅れて出てきた姿にいち早く反応したのはアレクである。


 


「べっべつに…ミニョがお揃いにしたいっていうから…すぐに取るわよ!!」


きまり悪そうなリタに、アレクが近づくと耳元で何かをささやいている。


内容ははっきりとわからないが、顔を赤らめたリタの反応を見るとほめ言葉に違いない。


 


あっちの二人が良い雰囲気なので、ようやくミニョのそばにいられると思っていたら


使用人がリタのもとへと小走りでやってきたのだ。


 


「ああ…彼らなら大丈夫…お通しして?あそれからいすを2つ追加してね」


「かしこまりました…すぐにお連れいたします」


恭しく頭を下げた使用人は、しばらくして再び現れる。


良く知った人物を案内しながら…


 


「みんな!!今日のスペシャルゲストの到着よ!!」


リタが声を上げると同時に、ミニョがくるりと車いすの向きを変えた。


 


そしてその人物をとらえた瞬間…驚いて固まってしまう。


次に瞳からあふれそうな涙。


 


「オッパ?本物?」


「うん…だまっててごめんな…ちょっとしたサプライズだよ」


笑いながら、ミニョのもとへと近づいてくるミナム。


 


「もうっオッパったらいつも突然なんだから!!」


泣き笑いのミニョを見て、シヌは一計を講じる。


 


「あんなこと言ってるから?リベンジしようか?」


その言葉に告りとうなずいたミニョは、シヌから差し出されて手をしっかりと掴むと


車いすからゆっくりと立ち上がった。


 


そしてミナムのところへ、静かに歩みを進める。


「ミニョ…お前?」


驚くミナムの口からやっと出たのは、その一言。目には涙があふれている


 


「うん…少しだけど」


「そう…そうっかあ…良かったな」


言葉は少ないが、双子ならではの不思議な空気をその場にいたもの全員が感じただろう。この時の二人の間には、シヌすらも這い込めないと思ったほどだ。


 


だが…そんな感傷的な思いはすぐに一変する。


 


「あーミニョが立ったー!!歩いてるよーどうしよう!!オレ…オレすっごく嬉しい」


泣き笑いのジェルミが、ゴシゴシと手で涙をぬぐいながらミニョを見つめているのだ。


 


「バカ…そのネタ古いんだよ…それに泣きすぎだって…兄貴の俺よりも…」


「良いんだよ…嬉しいときは…悲しいときよりもたくさん涙が出るんだからね」


目の前のミニョが呆気にとられるほど、子供のように泣きじゃくるジェルミ。


そしていつしかミナムも負けないくらいに、涙を流していたのであった。


 


======================================



思いが通じ合った後の、幸せなひと時です。


(うっかりミニョちゃん窒息しかけましたが)


どんな綺麗な花も、ミニョちゃんには敵いません。


だけど…ふとした瞬間に脳裏に浮かぶ過去に痛みです。


今回はミナムに歩行サプライズがありました。


なかなか会えない分嬉しかったでしょうね。


でも、それに負けないくらい喜んでいるのはジェルミ。


その気持ちを誰よりも理解しているシヌでした。


 


 


 


 


 


 


 


 

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