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ドア1枚隔てて聞こえてきた、信じられない話。
だがテギョンは、それを確かめずにその場から離れてしまった。
一旦車に戻ると、少しの間時間をつぶすことを考える。
「全く…なんでこのオレがこそこそしなければならないんだ?」
苦笑しつつ呟くと、いつもの海洋深層水を口に含む。
『ミニョに会う』
嬉しそうにジェルミは、話していた。
聞き間違いなんかでは、決してない。
そのために海外ロケのスケジュールも合わせると言っていた。
今どこにいるのか?
何故、ここに帰ってこないのか?
聞きたくても今のテギョンには、それが出来ないのである。
ミナムの前で、たった一人の妹を愚弄するような言葉を発してしまったからだ。
あの日…帰国予定の便に乗ってこなかったミニョ。
やっと会えると思って楽しみにしていたテギョンの落胆は大きかった。
落胆は怒りへ変わり、やがてミニョがわざと自分を避けたと思い込んでしまったのだ。
もちろんそう思うのは、数日前のミニョとの口論が原因だ。
かつてミナムの身代わりをしていたミニョを、事故多発地帯と揶揄していたのは
ほかならぬテギョン。
何かトラブルに巻き込まれた可能性を考えられる気持ちの余裕ができたのは、それから1週間近く経った頃だった。
だが…時はすでに遅かったのか?
改めてミニョから連絡が無いかと尋ねても、冷めた視線をテギョンに寄越す。
『どうぞご心配なく。それからミニョは当分戻ってこないから』
『あの時は悪かった…ついカッとして』
テギョンなりに誠意を持って謝罪しても、ミナムの態度は軟化しない。
『言葉ってさ重いよね…テギョンヒョンはさ…そうやって何度もミニョを傷つけてきたんじゃない?ミニョのことより自分の気持ちを優先したんでょ?』
図星を指されて、返す言葉もなかった。
自分の母親と双子達の過去を知ったときも、激情に任せてしまったことを思い出す。
あの時、一度はミニョを失いかけたのだ。
『オレさ、テギョンヒョンのこと音楽家としては尊敬してるよ…だけどさ…頼むからミニョのことはそうっとしておいて欲しいんだ』
搾り出すようなミナムの声。
ミニョと同じ顔から出るその言葉は、そのままミニョに責められているようで辛かった。
それからは、以前のように仕事に打ち込む日々。
あんなことがあっても、ミナムはプロだからグループ内に私情を決して持ち込んではいない。
それでも、余所余所しい空気はやっぱり伝わるもので。
二人の関係を必死でフォローしていたのが、ジェルミだった。
(そう言えば…まだミナムが加入する前もこんな感じだったな)
ふとテギョンは、過去に思いを馳せた。
シヌとテギョン…性格や育った環境も全く違う
互いに相容れない仲、ジェルミの明るさに救われていたのである。
(ジェルミ…)
誰にたいしても公平な態度は、年下なのに尊敬に値する。
そう思ったとき、テギョンの車を走らせ
AN企画へと向かったのだった。
再び宿舎に戻ったのは、翌日のこと。
「お帰りヒョン!!ひさしぶりぃ」
「ああ…ただいま…そうだこれ」
屈託の無い笑顔で迎えたジェルミに、紙袋を渡す。
「わぁ!お土産?開けていい?」
口では許可を取っているのに、手は既に包みを開けている。
「ミナムの分も入ってるからな」
「うん…わかっているよぅ」
テギョンの言葉に、ジェルミは渋々と9個入りのショコラを5:4で分けていたのだった。
「ジェルミは、昔から変わらないな?」
「え?少しは成長してるよ!」
心外とばかりに、ジェルミは口を尖らす。
「いや…いい意味で言ってるんだ。お前がいなければ…メンバー内の関係も良くないものになっていたと思う」
「オレはみんなが好きなんだよ。テギョンヒョンも、シヌヒョンも、ミナムも…それにミニョも…あっ」
テギョンの言葉が嬉しかったのか、ジェルミの表情はぱっと明るくなる。
だが、ミニョの名前を出した瞬間口を噤んでしまった。
「気にするな…お前はミニョと仲が良かったな。あいつのこと好きだったんだろう?」
わかりやすく態度に示していた頃を思い出す。
自分もこんな風に素直だったら…今の状況を招くことは無かっただろう。
「それに引き換えオレときたら…ミニョもこんなオレに嫌気がさして帰ってこないんだろうな。」そんなことないよ!!」
自嘲気味に呟いたテギョンに、ジェルミは激しく反応する。
だが、構わずテギョンは続ける。
「気を使わなくてもいい…あれっきりオレのところには連絡すらないんだからな」
「違うよ!!しないんじゃないできないんだよミニョは…」
絶えられないとばかりにジェルミは声を荒げるが、驚きの表情のテギョンを前に目をあわせようとしない。
「ジェルミ?何か知ってるのか?ミニョはどこにいるんだ?いや…居場所をいいたくないなら、それでもいい。だけど元気なのか?せめてそれだけでも知りたいんだ」
テギョンはジェルミの肩をぐっと掴むと、切羽詰った様子で迫る。
そんなテギョンを前にして、ジェルミはこれ以上は無理だと悟ったようだ。
そしてジェルミからミニョの状況を語られることになる。
向こうで事故に巻き込まれて重症を負ったこと。
「それで怪我はどうなんだ?後遺症とか?それよりどこの病院にいるんだ」
「大丈夫術後の経過は順調で、今はリハビリに励んでいるって。ごめん場所は言えないよ。ミナムと約束したから。」
辛そうに顔を歪めるジェルミ。
これ以上追求すると、自分とミナムの間で板ばさみになってしまう。
ミニョの話が聞けただけで、収穫はあったというものだ。
ふとテギョンにある思いがよぎる。
入院中のケアは、どうなっているのだろう?
たった一人のミナムがここにいるという事は、頼れるものはいないはずなのだ。
「あっそれはさ…ミナムの知り合いが偶然向こうにいて…ミニョのこと頼んでいるんだって…」
「知り合いって…どういう関係なんだ」
テギョンの疑問に答えたジェルミだが、知り合いというのが引っかかる。
だが、それ以上問いただすことは叶わなかった。
ミナムが、帰宅したからである。
二人の間で、交わされた短い挨拶。
「え?ヒョン帰って来た…どこか行くの?」
入れ替わりに部屋を出て行くテギョンを見て、ジェルミは心配そうに声を掛ける。
「ああ…社長のところへ…ちょっと用があるからな」
ミナムと入れ違うように、宿舎を出たのであった。
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テギョンさんのメインの話になりました。
いやあ安定の存在感でございます。
しかも、思った以上にキーが進む進む。(汗)
抑え気味にするのが、難しいくらいです。
ミナムとは蟠りがあるテギョンさんのターゲットはジェルミでした。
ジェルミは二人のヒョンのことを大切に思ってますからね…
でも、その発言によって大きく動くことになります。