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ROULETTE 9
今日はシヌが出演するドラマのOAがある日だ。
カイルから聞いたミニョは、カレンダーに印をつけている。
深夜の放映だがどうしてもリアルタイムで観たい。
夜更かしが得意じゃないミニョは、夕食後に服用する薬のうち眠くなる成分の入っているものは飲んでいない。
(ドラマが終わったらすぐに…飲みます…お許しください)
心の中で唱えながら十字を切る。
そうしてドラマがOA開始の10分前。
ミニョの病室の担当の看護師がやってきたのだ。私服だから勤務は終えたのだろうか?
「あら…こんな時間よ…どうしたの眠れないの?」
「違います…どうしてもみたいドラマがあって」
こっちの様子を心配そうに窺う看護士に、事情を話すミニョ。
TVをみたいからなんて子供みたいな発言を咎められるかもしれないと覚悟した。
だが、看護士の反応は違った。
「ああ…“彼”が出ているんだったわね。良いわね私もリアタイで観たかったわ」
嬉しそうに語るので聞いてみると、主演俳優のファンだという。
帰宅後に録画したドラマを見るのが楽しみと語る彼女は、普通の女の子に見えた。
「あの良かったら、一緒にここで観ませんか?」
失礼かもしれないと思いつつ思い切って声を掛けたミニョに、看護士は大喜びである。
「いいの?こんな大きな画面で見られるなんてラッキーだわ♪」
そういって視聴の準備を始めた。
もちろん真っ先に行うのは、ミニョのベッドのヘッド側の高さの調節。
できるだけ疲れないようにとの気遣いである。
「今夜のことは…先生にナイショね」
「わかりました…二人の秘密ですね」
看護士が茶目っ気たっぷりに人差し指を口に当てると、ミニョも同じしぐさをしたのだった。
そしていよいよドラマが始る
タイトルバッグのセンターは看護士イチオシの主演俳優
「ほらぁ?カッコ良いでしょーアレク?」
そういって映像に釘付けだ。
「はぁ…そうですね」
頷くミニョだが、その視線はもちろん別のところにある。
「もう…何よ気のない反応は?あーわかった!!彼しか目に入ってないんでしょう?」
勤務を離れた看護士は、更にフレンドリーにミニョに話しかけてくるのだ。
「彼って…シっシヌさんは別に…」
慌てて否定しようとするミニョだが、顔を真っ赤にしている状況では説得力は皆無である・
「照れなくても良いわよ…アレクとは違い東洋の静かな美って感じでなかなか素敵だと思うわ」
さらに天真爛漫なキャラのカイルと、ツンデレ美女のリタと事前に仕入れた
登場人物の分析を生き生きと語り始めたのだ。
CMを挟んでいよいよドラマ本編になると、静かに鑑賞が始まる。
日常会話なら相手がわかりやすい言葉を選んでくれるもの手伝って少しは理解できるようになったミニョだが、ドラマの台詞となるとやはり全て聞き取るのは難しい。
(録画して貰ってよかった…)
後でまた観たくなるだろうと、看護士が気を利かせてくれていたのだ。
機械オンチのミニョには、ありがたかった。
OA後、ご満悦の表情の看護士が部屋を出て行ってしばらくして…
早速再生ボタンを押す。
シヌの出演シーンで、一時停止。
スロー再生で、台詞を聞き取る。
それでもすぐに理解できない言葉もあって思った以上に時間がかかってしまい…
結局殆ど一睡もせずに朝を迎えることになったのだ。
翌日の病室を訪れたシヌは、撮影中ということで白衣姿である。
「シヌさん…疲れているのにすみません」
「気にしないで…俺が来たくて来るんだ…ところでどうしたの顔色が良くないな?大丈夫かい?」
ミニョの顔を見るなり、心配そうに声を掛けて来た。
「いえ…その…寝不足」
「え!?眠れないのか?先生には話した?薬を処方してもらったほうがいいかな」
消え入るようなミニョの呟きに、すぐに反応するシヌ。
「違います…その…シヌさんのドラマを見て…」
勘違いをさせたままでは申し訳ないと思い、わけを話すことにした。
すると…なぜがシヌの表情は少し曇る。
「ミニョは…病人なんだよ…夜更かしは感心しないな」
「すみません…」
語りは優しいが少し怒っているのか、ミニョは俯きながらシヌの話を聞く。
「ごめん…本当はすごく嬉しいんだ…遅い時間なのに起きて見てもらえてね。
だけど…寝不足して体調崩したら心配だよ。それに今の俺がドラマの俺に負けたって気持ちにもなるし」
最後の言葉を言った後のシヌは、苦笑いを浮かべていた。
「負けるって・・・どっちもシヌさんじゃないですか」
「ドラマの俺は、リアルよりも何十倍もカッコよく映してもらってるからさ」
ミニョが思わず指摘をすると、シヌは他人事のように答える。
そんなやり取りが続く中、検温のため看護士がやって来た。
シヌに気付くと軽い挨拶の後、ミニョに軽く耳打ち
“白衣姿なら、アレクといい勝負だわ”
その言葉に無言で頷くミニョ。
本職ですらそう思うのなら、やっぱりシヌは素敵だと改めて思う。
(ドラマがんばって見なきゃ)
まだシヌの出演シーンが半分以上あるのだ。
「そうそう・・・先生からそろそろリハビリを始めましょうかって?」
「リハビリ・・・ですか?」
ずっとベッドで過ごしたミニョにとっては吉報なのだが、どこは複雑な心境だ。
「大丈夫よ・・・最初は不安かもしれないけど・・・すぐに成果が現れて楽しみになるわ。
早く退院できるようにがんばりましょうね…」
そういって看護師は病室を出て行った。
「良かったね。ミニョ?俺も嬉しいよ」
この病院に運ばれてから殆ど付きっ切りだったシヌだから、当然の重いだろう。
だがミニョの心中は複雑だった。
もしミニョの怪我が完治したら、今までのようにシヌは会いに来てくれるのか。
いや・・・それより・・・退院後の身の振り方も考えなければならないのだ。
「どうしたの?何か悩み事かい?」
素直に喜ばないミニョの態度にシヌは気付いたのかもしれない。
多忙の身体でこうして時間を割いて会いにきてくれるシヌに、余計な心配をかけたくなくてとっさにごまかした。
「ずっとベッドの上でまともに身体も動かしてなかったから・・・ちゃんと歩けるかなって
ちょっと不安です。変ですよね。」
エヘヘといいながらコツンと頭を小突くミニョ。
「そうか・・・俺も昔ちょっとやんちゃして入院してね…松葉杖でうまく動けなくて…同室の小学生にからかわれたな。だからやりたいこととか目標をきめてかんばったんだ」
今のシヌから想像もできないが、学生時代は学校の頭と呼ばれる人だったらしい。
「私の目標は・・・あっこの間お土産にいただいたスイーツの店に行きたいです。」
「うん・・・もちろん連れて行ってあげるけど…他にいきたい所とかは?」
ミニョの言葉にすぐ反応してくれるシヌ。
「あっでもシヌさん甘いものは食べないって?」
ミニョのために苦手な場所につき合わせるのは、申し訳ない。
「ああ・・・あの店には美味しい紅茶が揃っているから大丈夫。それに甘いものは全くダメなわけじゃないんだよ」
シヌがお茶好きなのは、先日美味しいお茶を入れてもらったことで容易に想像付くが
甘いものは・・・やっぱりミニョへの気遣いだろう。
「すみませ・・いたっ」
ミニョの謝罪の言葉は、シヌが頬を思い切って引っ張ったことでいえなくなってしまう。
「すみませんとかごめんの言葉はいらないからね。じゃあスイーツの店に行く代わりといってはなんだけど俺も行きたい場所があるんだ。ミニョ付き合ってくれるかな?」
「はい・・・私でよければ」
少なくとも2回はシヌと出かけられるのだ。
ミニョは即答する。
(あ・・・でもシヌさんの行きたい場所ってどこだろう)
思い切って尋ねたが、ナイショと言われてしまった。
その表情が何故か切なそうに見えたのは、気のせいなのだろうか。
いつだって優しく見守ってくれるシヌが時折見せる翳りのある顔。
それが気になって仕方がなかった。
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シヌのドラマなので、ミニョちゃんはリアタイで見たかったのだと思います。
看護士さんにも許し(思い切り協力してもらえましたが)をいただきましたが、
言葉の壁は大きかったです。
ドラマは台詞も多いですし、聞き取るのも難しかったようです。
高性能のミニョちゃんレーダーを持っているシヌは、翌日すぐに異変に気付きます。
自分のためにって知って嬉しいでしょうが、やっぱりミニョちゃんの身体が第一でした。
そんな中でのミニョちゃんのリハビリの話題。
完治した後のシヌとのつながりを不安視するミニョちゃんでしたが、全くの杞憂のようでした