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ROULETTE 8


シヌが現場へ行くと、プロデューサーが申し訳なさそうな表情だ。


 


「悪いな・・・あの子の事務所は大手だから・・・こらえてくれ」


「大丈夫です・・・俺なら」


こういう世界では、良くあることだろう。


何より無名のシヌが、不満をもらすようなことは出来ない。


 


結局撮り終えたのは、日付が変わった頃。


 


こんな時間だからもうミニョは眠っているだろうと思いながらも、


足は再び病室へと向かう。


 


そしてできるだけ静かに扉を開けると・・・


「あっシヌ・・・お疲れ・・・残念ついさっき眠ったばかりだよ。


くるりと振り返るカイル。


 


「そうか・・・いや良いんだ」


こんな時間間で起きていたら、ミニョの身体によくないと思いつつも


やっぱり少しだけがっかりした。


だけど、カイルから聞かされた言葉で顔が綻ぶ。


 


「何度も欠伸をしたり目を擦りながら起きてたんだけどねー


なかなか寝なかったのはシヌが戻ってくるのを待ちたかったんじゃない?」


カイルが寝るように促しても、眠たくないと言い張ったらしい。


ミニョにはこういう頑固なところがあるんだ。


夜更かしさせてしまった申し訳ないと思いつつ、自分を待っていてくれた事実で


胸がじんわりと温かくなる気がする。


 


「ありがとう…ミニョ…明日また来るから」


頬をそっと撫でて、病室を後にした。


 


 


それから自分の部屋に戻ったシヌだが、しっかりカイルがついて来ている。


「全く…自分の部屋に行けよ」


「だってオレの部屋狭いんだもん」


最近は週の半分以上シヌの部屋で寝ているカイルなのである。


 


「狭いって…同じ間取りだろう…それに少しは片付けろよ」


「えー!最近忙しいしーそれにシヌに話があるんだ。とぉっても良いことだよ」


忙しいといいつつここには来るのかと、突っ込んでも『リフレッシュ』だと言い出す始末。


 


「わかった…少しだけだからな…でなんだ話って」


「わーいシヌ良い人♪。あっやっぱり話気になるでしょう?うーんどうしようかな」


もったいぶるカイルはかなり面倒なやつ。


だが適当にあしらっていたシヌの態度は、カイルからでた“ミニョ”のワードにより一瞬で変わった。


 


「ミニョね、シヌのこと心配してた。毎日会いに来てくれて嬉しいけど身体はだいじょうぶなのかってね。撮影こと知らなかったんだね。ごめん話の流れで言っちゃったよ」


「いや…いいんだ」


ドラマ撮影のことを隠してたわけじゃない。


白衣のまま会いに行ったときに話そうとしたが、あの時はとてもそんな雰囲気じゃなく。


結局そのまま言わずじまいだったのだ。


帰って気を使わせてしまったら、申し訳ない。


 


「あっでも、ちゃあんと話しておいたよ。シヌは笑っちゃうほど頑丈な身体を持ってるってね」


「なんだ?それって褒め言葉か?」


かなり失礼なカイルの言葉だが、身体が丈夫というのはあながち間違いじゃない。


 


「それからさー何時間もANJELLの動画に付き合わされたんだよ。」


「え?そうなのか?」


ほらぁと言いながら、タブレットを開くカイル。


グループの活動から遠ざかっているシヌにとっては、少しだけ懐かしさを覚える


 


ミナムが目当てだろうが…やっぱりメインボーカルのテギョンの存在が過ぎる。


もしかして何か気付いたのかもしれない。


 


「初めは観ながらミニョの兄さんのことを話してたんだけど、途中からシヌばかりでさ。


シヌってすげーギター上手くてびっくりした。オレさーアイドル系だと思ってたら、まともに聞いたことなくって。」


「別に気にしてないから」


こっちではデビューもしてないことを考えれば当然のことかもしれない。


 


「いやいや…楽器全然ダメなオレには、尊敬ものだよーあーもっと早くにきいておけばよかった。オレのバカバカ」


「わかったわかった…褒めすぎだぞ。今日のスイーツの埋め合わせはも兼ねて奢ってやるから」


頭をぽかぽか叩くカイルを見ながら、シヌは苦笑する。


 


「う・・ん、スイーツはもちろんだけど…それよりシヌのギターを聴かせて欲しいんだけどな。ねっねっちょっとだけ」


「わかった…今日だけだぞ」


あまりに食い下がるカイルに、壁際に立てかけてあったアコースティックギターを掴むシヌ。


ワンフレーズだけのつもりが、結局1曲丸々弾き語りになってしまった。


 


 


「すごい!!オレ超ラッキーだ!!そうだ今度ミニョにも聞かせてあげたら…すごく喜ぶよ」


「いや…この曲は止めておく」


かつてミニョの前で歌った苦い思い出の曲。


何故今カイルの前で披露してしまったのか…シヌ自身わからない。


 


「えー絶対喜ぶのにぃ…シヌさん素敵ですってさー♪」


「おい!!全然似てないぞ」


一応ミニョの声真似のつもりだろうが、生憎の出来だった。


シヌノ反応に不平をもらすカイルは、不意に神妙な面持ちで語り始める


 


 


「シヌってずっとミニョのこと好きだったんだろう?ミニョだってシヌにずいぶん心許してるように見えるけど」


甲斐甲斐しくミニョの世話を焼くシヌの行動と、それを受け入れているミニョの様子のことを指摘してきたのだ。


 


「それは…ミナムが傍にいなくて心細いからだと思う」


そうミニョにとってシヌの存在は、あくまでも兄と同じグループの一員に過ぎない。


 


「えーそうかな?その割にはミニョってば、ライブ映像でのシヌのアップやソロのところすっかり頭に入ってるみたいだよ。もう何十回も観てるからじゃない?。」


「それ…本当か?」


まさかミニョがそんなにリピートしていたなんて・・・・


 


「うん…そのうち歌いだしたんだけど…そうそうミニョって歌上手なんだね。少なくてもあの棒演技のアイドルの何十倍も上だよ」


シヌのシーンの取り直しの元凶となった新人のことを、言ってるのだろう。


 


(当然だ…なんてったって天使の声の持ち主だからな)


ミナムとして初めて聞いたときの歌声…鳥肌が立つ思いだった。


 


あいまいに相槌を打つくシヌを気にせず、更にカイルの話は続く


「だけどさーシヌのラップ?あれは上手に出来ないって嘆いたよ。教えてあげればぁ?」


 


「そうだな…考えておくよ…」


そうシヌが答えたが、カイルからの反応は無い。


 


ふと気付くと、寝息が聞こえてきたのだ。


 


(全く…)


呆れつつも、カイルを担いで部屋へと運ぶシヌ。


相変わらずベッドの上以外は、足の踏み間が無い有様だ。


 


「今日はありがとな…お休み」


すっかり夢の中のカイルに声を掛けてシヌは部屋へと戻る。


 


そっとドア閉まるドア。


だがその音に反応するように、ゆっくりと身体を起こすカイル。


 


「シヌ…折角のチャンスだって言うのに…何でだよ」


ミニョへの気持ちが溢れているのに、その行動は一歩後退しているように見える。


 


「ボーカルの奴に遠慮してるのか?だけどミニョは完璧スルーだったんだよ」


 


 


 


 

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