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ROULETTE 14
少し時間は遡る
シヌが目を覚ましたとき、当たりはすっかり明るくなっていた。
「悪い・・・あれから完全に寝ていたんだな」
「良いよーシヌも人間だったんだなーって実感できたから」
起抜けで声はいつもより掠れているシヌに対して少々引っかかるカイルの言葉。
それでも、今回は素直に感謝をすることにした。
「そういえばさー途中で電話あったんじゃないの?」
「え?あっ!!」
慌てたシヌがポケットから携帯を取り出すと、カイルの言うとおりミニョから着信があった。
即座に掛けなおそうとシヌを、カイルが呆れ顔で制したのだ。
「流石に早すぎるでしょう?きっとまだ眠っているよ。どっちみちもうすぐ会えるんだからさー」
「そうだな・・・時間のこと忘れていたよ。ありがとう」
リハビリで疲れているミニョを寝不足にさせるわけにはいかないのだ。
ミニョが絡むと前後の見境がないというカイルの指摘にも、反論は出来なかった。
それからまもなくアパートの前に着いた二人。
「じゃ、オレ今から寝るねーミニョによろしくー」
「ああ・・・ありがとうな」
大欠伸をしながら部屋へ入ってゆくカイル。
結局あれからずっとハンドルを握っていてくれたのだ。
“若いから大丈夫だよ♪”なんて言ってたけど、同じように疲れていたはず。
その背中越しに、感謝の気持ちを伝えた
すっかり目が覚めたシヌは、久々にスーパーに買出しへ。
そこで新鮮なフルーツをいくつか手に取ると、すぐに愛しいミニョの顔が浮かぶ。
帰宅して早速スムージを作り、ミニョの朝食の時間が終わる頃を見計らって病室へと向かった。
ミニョは、元気だろうか?
すると病室から看護士が難しい顔をして出てきた。
「おはようございます・・・あのすみません・・・ミニョに何かあったんですか?」
体調不良なのかと尋ねたら食欲不振らしい。
だがシヌの顔を見た看護師の反応が、とりたてて気に止めていない様に見える。
久しぶりに会うミニョなのに・・・笑顔が見えない。
やっぱり・・・電話のことか・・・
こっちから掛けてほしいと頼んでいたというのに・・・なんてざまだ。
とにかくひたすら謝ると、ようやくミニョに許してもらえたようだ。
そして不意打ちの“おかえりなさい”には一瞬驚いて声が出なかった。
あんなかわいい声で言われたら、反則だろう?
ロケの疲れなんて、一気に飛んだ気がする。
スムージを美味しそうに飲むミニョ。
ミニョが望むならいつでも作ってあげるから。器用貧乏なんていわれたことがあったけどミニョのために役立てなら本望だ
看護士の好意で、ミニョのリハビリに同行することができた。
メニューは思った以上にハードだが、頑張り屋のミニョは弱音をはかない。
だが・・・あのトレーナーは、ミニョにくっつきすぎじゃないだろうか?
他の患者のときより、それは顕著だ。
だから気がついたら牽制してしまったのかもしれない。
リハビリの後、何故かこっちをちらちら見るミニョ。
もちろん見られるのは大歓迎だけど、少し浮かない顔が気になる。
負担にならないようにさりげなく聞いてみたんだ。
ミニョが言いかけたと同時に、ノックの音。
入ってきたのは、まだ少し目が赤いカイル。
「なんだ・・・もう少し眠っていればよかっただろう」
「もう・・・そんな露骨に、邪魔だって言う目でみないでよーオレだって今日は遠慮するつもりだったんだからーだけどコワーイおねいさんにたたき起こされてさ」
シヌの態度に、必死のカイルの弁明。
「ちょっと・・・それまさか私のことじゃないでしょうね。カイル?」
少し不機嫌な声で、カイルにつづいて入ってきたのは
「リタ!!どうして?」
「あら?何よその顔・・・私が来たら悪いわけ」
動揺するシヌに対し、リタは少々機嫌が悪い。
「・・・シヌさん・・・」
「あっごめんね・・・彼女はドラマに一緒に出ているリタ・・・ほら?覚えているかな?前に電話で話しただろうミニョに会いたいっていう話」
突然のリタの訪問に困惑顔のミニョにだが、説明するとコクコクと頷く。
それにしても前触れもなくは、困る。
人見知りのミニョは、かなり緊張してるじゃないか。
するとカイルも、それに気付いたようだ。
「ほらぁ・・・だからオレは今日はやめようって言ったんだよ・・それにわざわざ気を利かせたって言うのにどうして一人で戻ってきたんだよ。アレクは?」
そうだ・・・カイルの計画では二人でゆっくりデートさせてあげるつもりだったはず。
「知らない!!あんな浮気もの…」
そういって口ごもるリタ。大方アレクとのケンカだろう。
「浮気ってアレクは女友達多いんだから、仕方ないじゃないか?リタとだって友達からの付き合いだろう」
「それはそうだけど・・・恋人になったら違うのよ。やっぱり彼女に一途な人が良いわ・・シヌみたいにね」
フォローするカイルの言葉をあいまいに返したリタは、ふざけてシヌの腕に絡みついた。
「おいっ!!何するんだよ」
いきなりのことで、声を荒げるシヌ。
「もうっそんな風に怖い言い方しないで?誰かさんだったら喜ぶくせに」
シヌから腕を放したリタが、意味ありげにミニョを見る。
全くミニョと一緒にしないで欲しい。それにミニョはこういうことはしない子だ。
先刻から騒々しくさせていたのでミニョの様子が気になったら、案の定リハビリで疲れているといわれてしまう。
「ああ・・・ごめん・・・わかった少し休むと良いよ」
久しぶりに会えたというのに仕方がない。ミニョの体調の優先させなければならないのだ。
病室から出てしばらくすると、リタの携帯がなる。
通話ボタンを押した途端、切羽詰ったアレクの声が響く。
“リタ!!繋がった!!どこにいるんだよ・・・いきなり車から降りて心配しただろう?頼むから電源切るな”
「何よ・・・私を無視して・・・ずっと女の子と話してたくせに・・・知らない!!」
意地を張って通話を終えようとしたリタの電話をカイルが取り上げると、代わりに話し出したのだ。
「アレクのせいで、色々ととんだとばっちりなんだからね。」
そして大学病院にいるから、迎えに来るように伝えて再びその電話をリタへ渡した。
「もう・・・余計なことして・・・いいわよ30分以内に来たら許してあげる」
そういって通話を終えていたのだった。
「あ~あリタのほうは、1件落着だね」
「そうだな、リタの方って他に何かあるのか?」
自宅へと戻る道すがらのカイルの言葉が、シヌには少々疑問が沸く。
「ふぅん・・・シヌって・・・鋭いわりに鈍いよねー」
「どういう意味だ?」
益々わけのわからないことを言うカイル。
鈍いなんてこれまで言われたことなどないシヌにとっては、心外だ。
「わからないのが鈍いんだよーじゃね!!」
くすりと笑いながら、自分の部屋に戻るカイル。
どうやら、今日は珍しくシヌの部屋には来ないようだ。
静かで良いと思いつつも、あの賑やかさがないと物足りなさを感じるシヌ。
テギョンのように人を寄せ付けないタイプとは違うが、以前のシヌも他人に対して一定の距離を保っていた。
メンバーにすら完全に心を許していなかったかもしれない。
無条件に慕ってきたジェルミですらそうだ。
だが・・・そんなシヌもミニョとの出会いによって変わった。
あんなふうに自分の全てを曝け出して、思いを伝えたのは初めてだった。
「見事に玉砕だったけどな・・・」
自嘲気味に呟くシヌ。
あのときの心の痛みは、いつまでも忘れらないだろう。
明日からは再び大学での撮影が始まる。
当初より、シヌの台詞がかなり増えているのだが、台詞が思うように入ってこない。
こんなことは今までになく、時間だけが過ぎてゆく。
(はぁ・・こんなんじゃ・・・NGキングは俺になってしまうな)
パタンと本を閉じると、深い溜息をつく。
それからどれくらいの時間が過ぎたのか・・シヌの携帯が着信を告げる。
ディスプレイに表示さえているのはミニョだ。
(何かあったのか・・・)
あれから更に体調が悪くなったのかもしれない、不安に思いつつ通話ボタンを押した。
『あっあの・・ミニョです。さっきはすみませんでした。折角皆さんが来てくれたのに』
「いや・・・俺達こそ煩くして悪かったね。もう大丈夫かい?」
電話の向こうのミニョの元気そうな声を聞いて、シヌは一安心だ。
『はいっちょっと眠ったらすっかり良くなりました。へへ何だが小さい子供みたいですね』
恥ずかしそうに話すミニョだが、リハビリは傍で見ていてもかなりハードだったので
いつもこうして眠っていたのかもしれない。
自分が会いに行ったことで、無理をさせてやしないのか・・・これからは少し控えるべきと考えていたときだった。
『あの・・・シヌさんは何をされてたんですか』
「今は何もしてないよ・・・実はね。台詞がなかなか覚えられなくてぼうっとしてた」
遠慮がちに聞いてきたミニョに正直に答えたら、ミニョは信じられないという。
完璧人間だとどうやら誤解されていたようだ。
それからしばらく話を続けた後、会いに行きたいと思い切って切り出してみる。
『でも台詞を覚えないといけないんじゃ・・・』
「うん・・本当はね?さっきからミニョのことばかり考えて台詞が入ってこないんだ。だから…ね?迷惑かな・・・やっぱり?」
カッコつけずに素直な気持ちを伝える。
だって長いロケからようやく戻ってきたんだから。
『わかりました・・待ってま・・・』
ミニョが最後まで言い終わらないうちに、シヌは駆け出していた。
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久々のミニョちゃんとのひと時が、乱入者によって邪魔されたシヌ。
カイルくんも珍しく気を利かせてくれたのに・・・
後ろ髪を惹かれる思いで、部屋に戻ったシヌは台詞も頭に入ってきませんでした。
だけど・・・ミニョちゃんコールがパワーをくれるでしょうね。