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ROULETTE 16



談話室の長いすに腰掛けながら、院内のコンビニで購入したコーヒーをゆっくりと口へ運ぶシヌ。


 


「ハァ・・・参ったな」


今日のミニョには驚かされっぱなしだ。


 


何か言いたげだったミニョの口から出た言葉は、単なるお礼。


拍子抜けしたけど、大真面目な態度はミナムの頃と変わってなくて懐かしさを覚える。


うっかり漏らした言葉で過去の話をすることになったとき、本当は少し躊躇したのだ。


 


カイルにまで嫉妬するなんて大人気ないって思ったが、やっぱり本音を言ってしまった。


お帰りなさいもそうだったけど、本当に不意打ち過ぎる。


 


以前ミニョを事故多発地帯と読んだテギョン。


あながち間違いではない。


本当に予測不可能な行動をするのだから


 


「シヌオッパか…」


ミニョからのこの呼び方は、2度目だ。


一度目は、偽の馴れ初め話をした公園。


あの時はシヌの考えたシナリオに沿っていたわけで、、ミニョに深い意味などなかったに違いない。


 


だけど、今回はミニョが自ら進んで呼んでくれたのだ。


皮肉なことに記憶を失ってからのミニョは、シヌにとって以前よりずっと近くに感じるのだ。今のミニョなら、自分を好きになってくれるんじゃないのか?


 


もしそうなら…自分のことを全く見てくれなかった過去の記憶なんて必要ない…


 


だがすぐにシヌは大きく頭をふった。


(何を考えてるんだ…!!俺は!!)


 


ミニョの気持ちを無視したのエゴイズム…


 


それでも可能性0だった思いが届くかもしれないと思うと、欲が出てしまう。


 


「そろそろ…戻るか」


ゆっくりと椅子から立ち上がり飲み終えたカップを捨てると、再び病室へと向かう。


 


そのときだった…


向こうから、近づいてくる二人組が目に入る。


 


何気なく眺めていると、逆光の中、一人がブンブンと手を振りながら駆けて来たのだ。


 


“シヌひょぉぉぉーーーん!!”


 


「え?」


シヌは一瞬耳を疑う。


今-この街で自分をそう呼ぶのは誰もいない。


 


更に次の瞬間…胸に軽い衝撃が走った。


 


「しぬひょおおおーーーん…やっと会えたよ」


「え?ジェルミ…か?」


戸惑うシヌに、続いて振ってきた声。


 


「こら!いきなり走るなよ。病棟内は静かにしないとダメなんだからな!!」


「ごめーん。シヌヒョンの姿が見えたら我慢できなくってさ」


相変わらず諌めるのはミナムである。


 


いきなり現れたマンネ二人に、シヌは戸惑いを隠せない。


 


「お前たち…どうしてここに?…この間の電話じゃ何もいってなかったじゃないか」


ミニョの様子を報告するために、ミナムとは時折話をしていたシヌ。


 


「うん…ごめん実は「オレから説明するよ」」


ミナムの言葉を遮ったジェルミは、バラエティ企画のことを話し出した。


 


「…ということなんだ。ナイスアイディアだっただろう?」


得意気なジェルミ。


屈託のない笑顔は相変わらずで、こっちまで笑みが零れそうになる。


 


「そうか…驚いたけど、会えて嬉しいよ。ところでこの場所すぐにわかったのか?」


「それがさ。ここに来る途中通りすがりの奴に聞いたんだ。オレと同じくらいだと思う。親切に教えてくれたって思ったら、ずっごい遠回りさせられたんだよ。今度会ったら一発なぐってやるんだから!!」


ファイティングポーズを決めるジェルミ。。


 


「あんまりカッカするな。そいつに悪気があったと決まったわけじゃないだろう?」


「いいや!!絶対わざとだよ!!」


もしかしたら、地理に疎かったのかもしれないのだが、ジェルミは即否定した。


 


相当腹に据えかねているジェルミの機嫌を治すには、すぐにミニョの病室へつれて行くのが得策だとシヌは考える。


当然大喜びのジェルミだが、ミニョの部屋の前で固まってしまった。


 


「オレ…やっぱり遠慮するよ外で待ってる…ミナムとシヌヒョンだけ入って」


「「ジェルミ!!」」


再び来た道を戻る。


やっぱり走っているのだ。


 


「シヌヒョン…ジェルミさーミニョに知らない人って思われるのが怖いんだよ。でも!!ちゃんと紹介したいから、連れ戻してくるね」


そういってジェルミの後を追うミナム。


 


「おいっだからお前達走るなって!!」


ミナムにもシヌの声は届いていないようだ。


 


(やれやれ…)


苦笑しながらも、いいコンビだと思う。


 


 


そしてノックをして、病室に入ると…


 


「シシシヌオッパ…」


まだまだぎこちないが、しっかり呼んでくれるミニョ。


 


「検査は、どうだった…ってどうしたミニョ?何かあったのか」


視線を微妙にそらしたミニョの目には、明らかに涙の痕が見える。


 


「あのこれは…「ほらね?やっぱり心配されちゃったでしょう。フフ大丈夫ですよ。


今日の注射いつもより針が太くて、痛かったのよね」


ミニョの言葉を遮った看護士は、ごゆっくりとシヌに意味ありげな視線を寄越して


出て行った。


 


「大丈夫ミニョ?そんなに痛かったのか?」


「へへ…大人なのに注射でなくなんて恥ずかしい顔見られちゃいました」


ミニョの傍によって顔を覗き込もうとするが、やっぱり視線を合わせてくれない。


そんなミニョがいじらしくて、そっと抱き寄せてしまう。


 


「シヌ…オッパ?」


「大丈夫だ…ミニョが恥ずかしいなら見ないから。だけど痛いものは痛いから我慢しなくていいんだからね」


悟るように言い聞かせると、コクリと頷くミニョ。


 


だけど…このときのシヌはミニョが泣いていた“本当の理由”を知らなかったのだ。


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