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ROULETTE 20



逃げるように去っていた看護士。


 


フィアンセという言葉―決して聞き間違いなどではない。


にわかに信じがたい話だが、改めて考えると思い当たることは多い。


 


手術後、病院で目覚めたときのシヌの反応。


あれほど忙しいシヌが、殆ど欠かさず会いに来ること


ましてや今回は、地方ロケが終わった足でだった。


 


そして意味深な兄ミナムの言葉・・・


ミニョ自身、シヌが傍にいると不思議と安心できたこと


 


さっきシヌに聞きたかった質問の答えが、ここにあったのだ。


この病院で目覚めてからのことが、次々と蘇ってきた


 


“ミニョ俺のことがわからないのか!!”


(シヌオッパ…)


 


“君のお兄さんの仕事仲間だよ”


(シヌオッパ…)


 


“カン・シヌ覚えてくれる?”


(シヌオッパ…)


 


“見られたくなければ、俺が隠してやるから”


(シヌオッパ…)


 


“変わってないな…ミニョ”


(シヌオッパ…!!)


 


記憶をなくした自分をどんな思いで見てたのだろう?


もし自分がシヌの立場だったら、耐えられなかったに違いないのだ。


時折見せる翳りのある表情の理由もこれでわかった。


 


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・シヌオッパ・・・」


あんなに優しいシヌを忘れてしまったこと


ひたすら謝罪の言葉を繰り返すミニョ。


シーツを握り締めた手の甲に、ポタポタと落ちる涙の滴。


泣いたって仕方がないとわかっている。


もし涙が枯れるくらい泣いて思い出せるならどんなにか良いだろう?


 


その時、ノックもそこそこに病室に入ってきたのはいつもの看護士。


その表情はかなり焦っていた。


 


そしてミニョのベッドの傍まで来ると、いきなり信じられない行動をとった。


「申し訳ありません!!ついさっき聞きました。うちのものが軽率な発言をしてしまったことを」


そういって土下座をしているのだ。


 


「あっあの・・・頭を上げてください・・・貴女は何も悪くないじゃないですか!!」


慌ててその行為を止めるミニョだが、看護士は指導係である自分の責任だといって聞かない。


 


「聞いたときは、びっくりしました。今でも信じられません。だけど少し感謝してるんです。私の疑問が解けたのだ」


「え?どういうことですか?」


ミニョの言葉を受けてゆっくりと頭を上げる看護士は、意外そうな表情をしている。


 


そしてミニョは、うまく伝わらないと思いながらもいまの自分の気持ちを看護士へと伝えた。


「……ということなんです。彼が何故あんなに私に優しいのか不思議で仕方なかったので」


その言葉で看護士の表情は少しは和らいだように見えたため、改めて看護士が知っていることを教えてくれるようミニョは頼んだ。


 


尤も当の看護士にしても、詳しいことは知らないようだ。


この病棟に時間外でも自由にでいる出来るのは、家族あるいはそれに殉ずる者だと言う事。


担当医から、シヌがミニョの婚約者だと聞かされたこと。


 


ミニョを思うあまりシヌが強引な行為に走ることを懸念して、なるべく気にかけていたこと。ただその心配は全く杞憂であるとすぐに気付いたという。


そして記憶をなくしているのに、シヌに打ち解けてゆくミニョの姿をみて安心してたこと。


 


「でも…私思い出せなくて…申し訳ないんです」


「無理に思いなすんじゃなくて…ねえ?前世の恋人と生まれ変わって再会したと思えば良いでしょう?彼に前世の記憶があってあなたにはなかった。だけど彼にひかれた。同じ相手を2度好きになるなんて、なんだか得した気持ちにならないかしら?」


ミニョの葛藤に対し看護士は考え方を少し変えてみるのだという。


だがそれよりも、ミニョは看護士の言葉で目をまん丸に見開いてしまった。


 


「好きって…私が?シヌオッパを好きなんですか?」


「え?疑問系?ってまさか、気付いていなかったの?これまでずっと恥ずかしがっているからって思ってたのに。そうよ。きっとあなた以外の世界中の人が気付くと思うわ」


断言しようとした看護士は、すぐ前言撤回する。


 


「あっもう一人…肝心の彼もあなたの気持ちに気付いてないみたいね。まあ彼の場合は慎重になっているからある意味仕方がないけど…今朝だって二人のやり取りは恋人にしかみえないわ…だから言い訳になるけど…」


さっきの看護士の勇み足のような発言に繋がったのだと。


 


「好き…好き…」


呪文のようにその言葉を唱えだすミニョ。


混乱する頭で、必死に自分の気持ちを整理しようとする。


そんなミニョに向かって、看護士の言葉は続く。


深く考えずに、今ミニョが傍にいて欲しい人を思い浮かべるのだと。


 


答えは、すぐに出た。


異国で兄のミナムにも会えない日々の中、こうして心穏やかにすごせていたのは


シヌが傍にいてくれたから。


だからリタの存在に心を痛めてしまった…所謂嫉妬という感情だったことも。


 


気持ちを自覚できたら、一気に心が軽くなった。


昔のことはわからないが、今のミニョは確かにシヌを好きなのだと


 


ミニョのその様子を見て、看護士もまた安心したようだ。


この後戻ってきたシヌに、すぐにでも気持ちを伝えるように進められる。


 


だが…


泣いたばかりのこの顔で言いたくないのだ。


 


できれば…


きちんとお洒落をしてメイクもして…


今より少しでも可愛くなった自分で…この溢れる思いを伝えたいって思うのは


当然のことだったのかもしれない。


 


シヌ本人が全く知らない“フィアンセ”という言葉は、こうして完全に一人歩きを初めてしまったのだった。


===============================


ミナムが仕事へ行って寂しがるだろうミニョちゃんを気遣うシヌです。


ミニョちゃんの寂しさはもちろんですが、隣のシヌにドキドキです。


(自覚したら、恥ずかしいですから)


シヌのフィアンセという事実は、衝撃的でしたがこれまでのシヌの言動から


疑うことなく受け入れたミニョちゃん。


もしすぐにシヌに告白していたら、どうなっていたのでしょうね。 


 

拍手[37回]

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ROULETTE 19



部屋に戻った途端、カイルはこらえていた笑いが一気にこみ上げてきた。

「ククク…アハハ」
ジェルミがMCを担当しているバラエティは、本当に面白い。
(言葉がわからないという振りも、こういうときは厄介だな)


其れでも、無表情を決め込むには限界があった。

映像でだけ笑っていたということにしたが、シヌに何か感づかれたのではと冷や汗ものだ。
(こういうところは、やっぱり鋭いし)

「それにしてもあいつ、本当にからかいがいのあるやつ」
こっちの挑発に、あまりにもストレートすぎる反応をするジェルミ。


ミニョの病室へよった帰り道、反対側からやって来た二人組みと擦れ違った。

(あれ?あいつらシヌの…)
名前は忘れたがドラム担当の金髪、隣にいるのはなるほど良く似てるーミニョの双子の兄貴だ。


“ねぇミニョの病院ってこの辺なんだろう”
“そのはずだけど…変だな道間違えたのかな”
二人に会話が耳に入った。

間違ってはいない…少しわかりにくいだけ。

しばらくすると、どうやら、金髪のほうが小走りでこっちへやって来た
訊いた方がと早い考えたのだろう…予想通り大学病院への道筋。

ここからなら、ゆっくり歩いても15分ほどで付く距離だ。

だが…カイルにはある考えが浮かんでしまう。
あの後おそミニョらくは、シヌに連絡をするだろう。

(このタイミングは、いくら兄貴でもオジャマ虫だよな)
少しだけ遠回りをさせたつもりだった。

こんなに時間がかかったのは、袋小路にぶつかったのかもしれない。
(それは・・・オレのせいじゃないし)
一応自分自身を擁護する。

シヌにくっついてきたジェルミを目にしたとき、屈託なく甘えるその姿が羨ましく・・また嫉妬すら感じてしまった。

シヌがこっちへいるのは撮影中のあいだだけ…
帰国したら自分の存在など、すぐに忘却の彼方へと飛んでしまうに違いない。

「一人で寝るベッドは、やっぱりひろいな…」
そう呟いていたのであった。


翌朝、ミニョの病室ジェルミと一緒に向かったシヌ。
ジェルミはこの後番組収録の打ち合わせのため、ミナムを迎えに来たのだ。
尤もミナムは、後での入りでも良かったのだが・・・ジェルミが一人はいやだといったらしい。

病室の前に来ると、ミニョの可愛い声が聞こえてきた。
“っもう…オッパたらぁ…そんなこと言っていじわるだぁ”

こんなに素直に甘えた声は、やっぱり初めて聞く
やはりミナム相手だからなのだろう。

シヌに心を許してくれているとはいっても、肉親のそれには到底適わない。

(フッ…ミナムに張り合うなんて…これじゃあジェルミと変わらない)

シヌは思わずく苦笑してしまった。

ノックに続いて入っていくと、ミニョはすぐにこちらへ気付いてくれた。

「シ・・シヌオッパ…ジェルミさんお早うございます」
「おは「おはようーミニョ…あれっシヌオッパって?」
シヌが返事をする前に、意外な呼び方に対してジェルミが即座に反応した。


「あの…それは」
「そんなの良いだろ…行くぞ」
ジェルミの話を遮り、腕をつかむミナム。

「もうちょっと位ミニョと話をさせてくれても…」
「昨日散々話ただろう…それに今回オレ達は仕事で来てるんだ」
ぼやくジェルミに、ぴしゃりと言い放つミナム。
だが、そこはやっぱり素直なジェルミ。すぐにミナムの意見に同意した。

「じゃぁシヌヒョン悪いけど、後よろしくお願いします。ミニョ我がまま言ってシヌヒョンに迷惑をかけるなよ!!」
兄らしい言葉を残して、ミナムは病室を後にしたのだった。


それからしばらくして・・・
歩きながら…ミナムは昨夜のミニョとの会話を思い出していた。

“シヌオッパって…私のフィアンセなんでしょ”
人はあまりにも衝撃的な話を聞くと、思考回路が停止するというが
ミナムはまさにそうだった。

何か言いたいのに、全く言葉が出ないのである。

“シヌオッパが優しくしてくれるのって、オッパの妹だけの理由じゃないって言った
あの言葉の意味わかったんだ”


あの時ミナムはそんなつもりで言ったんじゃなく、単にシヌの気持ちを確かめればという
思惑だった。


それにしても、誰が何のためにフィアンセなどと吹聴したのだろう。
看護士の失言によって知ったというが、少なくともシヌは違う。
ミニョに対しては誠実すぎるほどのシヌが、ありえない。


“それで?ミニョはその話を聞いてどう思った?”
“うん…凄くびっくりした。だけどなんでかな…シヌオッパって凄く優しくて
傍にいてくれるだけで心が温かくなるの。
それにね忙しいのに、毎日のように会いに来てくれて

疲れた顔なんて見せないんだ。いつも私の心配ばっかりで…
シヌオッパを覚えてない私をどんな気持ちで見てたのかなって思ったら…
涙がとまらなくなっちゃった”

シヌと再会してからの日々を思い出していたという。

その後やって来たシヌには、看護士がとっさに機転を利かせてくれたらしい。

ミニョの話を静かに聞きながら、何故はっきりとその話を否定しないのだとミナムが自問自答していた。

《違うよ!シヌヒョンはフィアンセなんかじゃない。お前の恋人はファン・テギョンだ》
そうはっきり告げるチャンスはいくらでもあるというのに…

だがこんなことになる前からずっと思ってたことがミナムにはあった。
大切な妹を任せられる相手として二人を天秤にかけたら、少しの迷いもない
間違いなくシヌに託したいと思っている。

それにここにいるミニョは病人には違いないが、自分が知っている中で一番女の子の表情をしている。
いま確かにミニョは恋をしているのだ。

シヌの気持ちはわかりきっている。
だからミナムは、このまま黙認をすることを決めた。

他の人にはこの話が耳に入らないようにと、ミニョに口止めをする。
“わかってる…シヌオッパにしれたら気をつかうもの。オッパと二人の秘密だね”
そういって指切りをした。

こうして時間を稼げるうちに稼いで…二人の関係を揺ぎ無いものにしておけばいい。

「ミナム…さっきからどうしたんだよ?難しい顔して?」
ジェルミが心配そうに声を掛けてきた。
(そう言えば…こいつもミニョのこと…)
ジェルミだって人間的には凄くいい奴だ。だからこそミニョにとっていつまでも変わらない友達ていて欲しいと思ってしまう

「ああ…ごめん…武者震いかもな…緊張してるみたいだ…オレうまくできるかな」
「大丈夫だよ!!俺に任せておけば」
自信満々のジェルミ笑顔が、やけに眩しかったのだった。


======================================================


キリが良いので、一旦ここで終わります


カイルくんは、足止めが目的で遠回りさせたようです。


まだ謎な部分が多くてすみません。


 


一方ミナムは、ミニョちゃんから重大な話を聞かされました。


混乱する頭の中…ハッキリしているのはミニョちゃんの幸せ。 


そうしたら、相手はもちろん一人しかいませんよね。 


拍手[32回]

ROULETTE 18



記憶障害になったミニョとの再会で、初めこそぎこちない様子のジェルミだったが


徐々に持ち前の明るさでをフルに発揮してミニョに接する。


ANJELLの動画を見ていると知ったので、特にジェルミがカッコ良く映っている


(あくまでも本人の申告だが)ものをプレイリストにいれている様だ。


 


「ほらぁ!これオレのスーパーテクだよ。凄いでしょう?」


「はい!!どうやってるんですか?マジックみたいで尊敬します」


ジェルミのペースにすっかり載せられているミニョ。


思い起こせば、ミナム時代のミニョはこうしてよくジェルミと盛り上がっていた。


 


「おい!!自分ばかりプッシュかよ?ミニョ!オッパのほうがもっとカッコイイのあるからな!!」


ジェルミに対抗するミナム。


今回ばかりは、シヌは完全に蚊帳の外の扱いらしい。


3人の楽しげな様子を、見守っていた。


 


やがて時間はあっという間に過ぎてしまう。


時折ミニョが目に手をやるしぐさに気付いたシヌは、今日は早めに引き上げることを提案した。


 


「えー!!もう?まだ良いだろう?」


真っ先に漏れるジェルミの不満の声。


 


「だめだ!!ミニョが疲れてしまうだろう!!行くぞ」


半ば強引にジェルミの方を掴むシヌ。


だが、続いて立ち上がりかけたミナムに対してはそのままでいるように促す。


 


「隣にベッドがある。今日は付いていてやってくれ。ミニョも久しぶりだからミナムがいたほうがうれしいよな?」


「えー良いなぁミナムは」


この期に及んで実の兄のミナムと対等に張り合うジェルミに、ある意味尊敬の念を抱くシヌ。


あげく一人でホテルに戻りたくないといいだしたので、妥協案として提案したのは…


シヌの部屋を来ること。


途端にジェルミは、上機嫌になった。


 


「やったー!!シヌヒョンのところに泊まれるんだ。それならいいよ!!」


気分のUPDOWNが激しいジェルミを、ミニョは呆気にとられてみていた。


今後はこれが日常茶飯事になるということに、今のところ気付いていないだろうが…


 


病院からの道すがら、シヌはジェルミに話しかける。


「ミニョに会って、良かっただろう?」


「うん…ほんというとさ、すっごく怖かったんだ。ミニョの記憶の中にオレがいないってことが。だけどミナムに言われた。シヌヒョンがここでミニョと再会した時は記憶障害のことなんて予想できなくて、もっと辛い思いをしたんだって。それと比べたら恵まれているだろうって」


しんみりと語るジェルミ。


さっき追いかけたミナムがそんなことを…確かにそれは合っている。


 


「ミナムの言うとおりだ。ミニョが目覚めたときの“誰”は、今だから言うが


かなりのダメージだったよ。それに引き換えジェルミは、存在を認識されていてちょっと羨ましかったな」


 


「へ…へぇそうなんだ。でもさ!それってシヌヒョンが傍にいてくれたからなんだよね。


ミナムとも話したけど、シヌヒョンがいなかったらミニョはどうなっていたんだろうって想像するだけで怖いよね」


そう語るジェルミの表情は、少しだけ大人びて見えた。


少し会わないうちに成長していたのだと、頼もしくもありだけど…少しだけ寂しく思う。


 


そうして話しながら家の前に着いた時だった。


 


「シヌ!お帰りー♪」


隣の部屋から顔を出したのは、カイルである。


 


だがシヌが返事をする前に、声をあげたものがいる。


 


「あー!!お前ー!!さっきのうそつき男だー!!」


「誰?」


指を突き刺すジェルミに対してカイルは怪訝な表情である。


 


「とぼけんなよ?変な道教えやがって!!」


「え?ああ…何だ…ねぇこいつシヌの知り合い?」


興奮するジェルミに構わず、シヌへ尋ねてきた。


「知り合いっていうか。同じバンドのドラマーだ。動画で見て知ってたんじゃないのか?」


以前ミニョがリピートしていた映像に付き合わされたという話があった。


当然ジェルミだって目にしている筈なのだ。


 


「ああ~!!ごめんねー。覚えてなかった。やたらと目力ハンパないボーカルと、ミニョの双子の兄さん?は覚えていたけど、ドラムって印象薄かったのかな」


「何だって!!失礼な奴だな…大体さっきからやけにシヌヒョンに馴れ馴れしいけど誰だよ?」


揶揄するカイルに、ジェルミの怒りは再燃したようだ。


だが…どうやらジェルミもカイルが何者かというのは気付いてなかった。


 


「やめろ!!近所迷惑になるだろう、ジェルミとにかく入れ…ああカイルもだ」


二人を促すシヌ。まさかこんなことになるとは思いもよらなかったのだ。


 


部屋へ入るのは初めてのジェルミは、キョロキョロとあたりを見渡し少し落ち着かない。


対するカイルといえば勝手知ったるなんとやら、真っ先に椅子に座ってしまう。


そしてジェルミは間を大きく開けて反対側へ腰掛けた。


 


(やれやれ…)


当然シヌの場所は二人の間となる。


初めにジェルミのほうを向き、カイルを紹介する。


ドラマの共演者だと伝えると、はっとした後に決まり悪そうな表情だ。


 


「ほら?そっちだってシヌのドラマ観たんだろう?オレのこと気づかなかったくせに」


「だっだって…ドラマではこーんな眼鏡かけてたし、印象違ったんだ。そっそれに


主演とあのキレイな女優さんしか目に入らなかったんだよーだ」


指で大きな輪っかをつくり、先刻のカイルの言葉をそのままそっくり返すジェルミ。


 


「「フン!!」」


二人同時に、プイと顔を横にそらず。


まるで似たもの同士の二人だ。この状況がいつまでも続くのはシヌとしてはやりにくい。


何となく気まずい雰囲気が続く中、言葉を発したのはカイルである。


 


「ねぇねぇ…シヌお腹すいた…ご飯たべたい」


「おいっお前!!シヌヒョンに作らせるのか!!生意気だぞ」


遠慮のない言葉に、ジェルミが大きく反応した。


 


「えー?だっていつものことだもん・・ねぇシヌ?シヌって本当に料理上手だよね」


何故がわからないが、やけにジェルミを挑発するカイル。


だが…シヌが料理上手ということはジェルミにも当然知っていることだ。


 


「そんなのとっくに知ってるよ。俺はずっとシヌヒョンと同じ宿舎でくらしていたんだからね」


付き合いの長さで言えば、ジェルミのほうが上だ。


 



「だっだけど…こっちに来てからは、殆どシヌが作ってくれるんだから!!」



「じゃあ…全部で何回だった?絶対オレのほうが多いに決まってるよーだ」



ワーワーギャーギャーと再び言い争いの始まった二人を無視して、シヌはキッチンへ向かった。


 


 


そして30分後…


「わぁい…シヌヒョンの料理やっぱり美味しいな」


口の周りソースだらけにして、頬がるジェルミ。


まるで子供のようだが、こんなことが嫌味なくできるのはジェルミならではだ。


 


対するカイルは…ジェルミの食べっぷりを呆然と見ていたが


負けずに、大口を開けている。


 


そして二人同時の『お代わり!!』


二人の勢いに、シヌは呆気にとられるしかなかった。


 


食事の後は、ジェルミがDVD鑑賞をしようと言い出す。


 


「オレがメインなんだよ!!シヌヒョン見たことないよね?」


「ああ…まぁな…だけど」


シヌはちらりとカイルを見る。


韓国のバラエティ番組だから、言葉がわからないと楽しめないと危惧したのだ。


 


「オレの事は気にしないでいいよ」


「ほら!!あいつもそういってるし…早く見よう!!」


やられっぱなしだったカイルに対して、形勢逆転となったジェルミは


水を得た魚のように生き生きとし始め、番組をみて更に解説付きという


ファンから見れば、かなり贅沢な状況であった。


一方のカイルは、時折笑って見ている。


言葉は理解できなくても、バラエティでの笑いのつぼは同じなのかもしれない。


 


それから数時間…


急にジェルミが静かになったと思ったら、シヌの肩に寄りかかっている。


 


「しぬひょん…オレ…ひとりでちゃんと回してがんばってるんだよ…」


どうやら寝言らしい…


 


「そうだな…オレには出来そうもない…えらいぞジェルミ」


「うん…」


シヌが素直に褒めると、ジェルミの口元は満足そうに緩む。


だが…このままでは、肩が辛い。


 


「シヌ…ベッドに運んだら?用意してきたよ」


「ああ…ありがとう悪いな」


タイミングが良いと思いつつ、ジェルミを寝室へ連れて行った。


 


「あ~あ…世話焼けるよね?」


「お前がそれをいうか」


日頃同じようなことをしているカイルの発言を聞いて思わずシヌは苦笑する。


それから間もなくして部屋に戻ると言い出したカイルは、帰り際意外な言葉を残した。


 


「あいつが起きたら、ちょっとやりすぎてごめんね伝えておいてよ。あとドラム叩きながら歌ってる映像ってカッコ良かったてさ…じゃお休み♪」


 


「あっおいカイル」


シヌが何か言う前に、パタンと閉まったドア。


カイルのほうはジェルミの存在に気付いていたのに、何故?


シヌは怪訝に思うが、からかいが過ぎたくらいでそれほど深く考えることはなかった。



=========================================


ミニョちゃんの特別室に、ミナムがお泊りになりました。



(シヌもOKなのですが、今のところとまった事はありません(汗))
積もる話もあるでしょうし…(ミナムだけにしかいえないことも…)

そしてジェルミに遠回りさせた犯人は、予想通りのカイルくんでした。
シヌを廻って張り合う二人。
やっぱりどこでも人気のヒョンです。
帰り際にカミングアウトしたカイルくん。
彼の真意はどこにあったのでしょうね



 

拍手[29回]

ROULETTE 17


 

しばらくして落ち着いてきたミニョに、サプライズがあると教えてあげる。


ドアに注目するようにと…


 


「え?何があるんですか…好奇心いっぱいで入り口を見つめていたミニョだが、ノックの後に入ってきた人物を見て、これ以上なってくらい目を見開く」


 


「オッパ…オッパだぁ」


「ミニョ…ミニョ…会いたかったよ」


ミナムがベッドに駆け寄り、ぎゅうっとミニョを抱きしめると、折角泣き止んだその瞳から、大粒の涙が再び溢れる。


当然だ…ミナムにはもう2年近く会ってない。


シヌの前で吐露することはなかったが、きっと寂しかったのだろう。


 


「オッパ…もう来るなら来るって教えてよ」


泣きながらぷぅっと口を尖らせるミニョ。


泣いているのか怒っているのか、忙しい。


「ごめん…驚かせたかったんだ。もちろんシヌヒョンにも知らせてなくてさ。滅多に見られないびっくり顔はレアだったよ」


ちょっと拗ねるミニョを必死で宥めるミナム。


双子だが、やっぱりミナムはミニョの兄貴だと再認識した瞬間だった。


 


しばらくして…


「ミニョ…実はもう一人いるんだ…会って貰いたいやつ?良いかな」


「うん…大丈夫だよ」


いいにくそうなミナムに対し、がんばって笑顔を見せるミニョ。


 


するとゆっくりあいたドアから、入ってきたのは


こんなに緊張したこいつを見たのは初めてだとシヌが思うほど、コチコチに緊張している。


 


「あの…こんにちは…オレはその…」


ミニョと目を合わせるのが怖いのか、俯きがちでいるのだ。


 


「あっジェルミさんですよね?」


「ええっミニョ!!オレ…オレの事わかるの」


ミニョの呼びかけに、はっと顔を上げたジェルミ。


だが、ミニョはゆっくりと首を横に振る


「いいえ…ジェルミさんのことは動画サイトで見ました。オッパと同じグループですよね?すごく楽しそうにドラムを叩いていらして、私までHAPPYな気持ちになりました。」


 


ミニョにとっては初対面のジェルミだが、彼女なりに思うことがあったのだろう。


対してジェルミは何も話そうとしない。


やっぱり…忘れられたのはショックなのだろうか?


 


だが…ジェルミの反応は違った。


よく見ると肩を震わせている。


「グス…ミニョ…ありがとう。オレの名前覚えてくれて」


まるで子供のようにぐちゃぐちゃの顔で泣き出すのだ。


 


「オイ…なんでお前がそんなに泣くんだよ。オレが泣けなくなったじゃないか?」


呆れながらも、ジェルミにティッシュを押し付けるミナム。


 


「ごめん…だって…だって嬉しいんだもん…ミニョあのさ…突然こんなこと言われて困るかもしれないけど…オレと友達になってくれる?」


誰とでも仲良くなれる特技のジェルミが、自信なさげな表情で必死に訴える。


 


「はい…私でよければ…兄ともどもよろしくお願いします」


にっこりと笑うミニョ。


 


「ミニョ…あっありがとう…ありがとう」


更に涙腺が決壊したジェルミ。

(良かったな…)
シヌはそんなジェルミを、穏やかな表情で見つめていたのだった。

=================================================================

ミニョちゃんと心の距離が近くなったと感じれば感じるほど、複雑なシヌ。
折角チャンスなのに…付け入るようなことが出来ないのですね。

そして・・・やってきましたミナムとジェルミです。
いつもの勢いはすっかり鳴りを潜めたジェルミは、ミニョちゃんに会うのを怖がります。

だけど…他でもないミニョちゃんによって元気を取り戻しました。

実はミニョちゃんサイドで前回の続きをかいていましたがあぼーん(涙)
仕切りなおしで、こういう展開になりました。



 

拍手[38回]

ROULETTE 16



談話室の長いすに腰掛けながら、院内のコンビニで購入したコーヒーをゆっくりと口へ運ぶシヌ。


 


「ハァ・・・参ったな」


今日のミニョには驚かされっぱなしだ。


 


何か言いたげだったミニョの口から出た言葉は、単なるお礼。


拍子抜けしたけど、大真面目な態度はミナムの頃と変わってなくて懐かしさを覚える。


うっかり漏らした言葉で過去の話をすることになったとき、本当は少し躊躇したのだ。


 


カイルにまで嫉妬するなんて大人気ないって思ったが、やっぱり本音を言ってしまった。


お帰りなさいもそうだったけど、本当に不意打ち過ぎる。


 


以前ミニョを事故多発地帯と読んだテギョン。


あながち間違いではない。


本当に予測不可能な行動をするのだから


 


「シヌオッパか…」


ミニョからのこの呼び方は、2度目だ。


一度目は、偽の馴れ初め話をした公園。


あの時はシヌの考えたシナリオに沿っていたわけで、、ミニョに深い意味などなかったに違いない。


 


だけど、今回はミニョが自ら進んで呼んでくれたのだ。


皮肉なことに記憶を失ってからのミニョは、シヌにとって以前よりずっと近くに感じるのだ。今のミニョなら、自分を好きになってくれるんじゃないのか?


 


もしそうなら…自分のことを全く見てくれなかった過去の記憶なんて必要ない…


 


だがすぐにシヌは大きく頭をふった。


(何を考えてるんだ…!!俺は!!)


 


ミニョの気持ちを無視したのエゴイズム…


 


それでも可能性0だった思いが届くかもしれないと思うと、欲が出てしまう。


 


「そろそろ…戻るか」


ゆっくりと椅子から立ち上がり飲み終えたカップを捨てると、再び病室へと向かう。


 


そのときだった…


向こうから、近づいてくる二人組が目に入る。


 


何気なく眺めていると、逆光の中、一人がブンブンと手を振りながら駆けて来たのだ。


 


“シヌひょぉぉぉーーーん!!”


 


「え?」


シヌは一瞬耳を疑う。


今-この街で自分をそう呼ぶのは誰もいない。


 


更に次の瞬間…胸に軽い衝撃が走った。


 


「しぬひょおおおーーーん…やっと会えたよ」


「え?ジェルミ…か?」


戸惑うシヌに、続いて振ってきた声。


 


「こら!いきなり走るなよ。病棟内は静かにしないとダメなんだからな!!」


「ごめーん。シヌヒョンの姿が見えたら我慢できなくってさ」


相変わらず諌めるのはミナムである。


 


いきなり現れたマンネ二人に、シヌは戸惑いを隠せない。


 


「お前たち…どうしてここに?…この間の電話じゃ何もいってなかったじゃないか」


ミニョの様子を報告するために、ミナムとは時折話をしていたシヌ。


 


「うん…ごめん実は「オレから説明するよ」」


ミナムの言葉を遮ったジェルミは、バラエティ企画のことを話し出した。


 


「…ということなんだ。ナイスアイディアだっただろう?」


得意気なジェルミ。


屈託のない笑顔は相変わらずで、こっちまで笑みが零れそうになる。


 


「そうか…驚いたけど、会えて嬉しいよ。ところでこの場所すぐにわかったのか?」


「それがさ。ここに来る途中通りすがりの奴に聞いたんだ。オレと同じくらいだと思う。親切に教えてくれたって思ったら、ずっごい遠回りさせられたんだよ。今度会ったら一発なぐってやるんだから!!」


ファイティングポーズを決めるジェルミ。。


 


「あんまりカッカするな。そいつに悪気があったと決まったわけじゃないだろう?」


「いいや!!絶対わざとだよ!!」


もしかしたら、地理に疎かったのかもしれないのだが、ジェルミは即否定した。


 


相当腹に据えかねているジェルミの機嫌を治すには、すぐにミニョの病室へつれて行くのが得策だとシヌは考える。


当然大喜びのジェルミだが、ミニョの部屋の前で固まってしまった。


 


「オレ…やっぱり遠慮するよ外で待ってる…ミナムとシヌヒョンだけ入って」


「「ジェルミ!!」」


再び来た道を戻る。


やっぱり走っているのだ。


 


「シヌヒョン…ジェルミさーミニョに知らない人って思われるのが怖いんだよ。でも!!ちゃんと紹介したいから、連れ戻してくるね」


そういってジェルミの後を追うミナム。


 


「おいっだからお前達走るなって!!」


ミナムにもシヌの声は届いていないようだ。


 


(やれやれ…)


苦笑しながらも、いいコンビだと思う。


 


 


そしてノックをして、病室に入ると…


 


「シシシヌオッパ…」


まだまだぎこちないが、しっかり呼んでくれるミニョ。


 


「検査は、どうだった…ってどうしたミニョ?何かあったのか」


視線を微妙にそらしたミニョの目には、明らかに涙の痕が見える。


 


「あのこれは…「ほらね?やっぱり心配されちゃったでしょう。フフ大丈夫ですよ。


今日の注射いつもより針が太くて、痛かったのよね」


ミニョの言葉を遮った看護士は、ごゆっくりとシヌに意味ありげな視線を寄越して


出て行った。


 


「大丈夫ミニョ?そんなに痛かったのか?」


「へへ…大人なのに注射でなくなんて恥ずかしい顔見られちゃいました」


ミニョの傍によって顔を覗き込もうとするが、やっぱり視線を合わせてくれない。


そんなミニョがいじらしくて、そっと抱き寄せてしまう。


 


「シヌ…オッパ?」


「大丈夫だ…ミニョが恥ずかしいなら見ないから。だけど痛いものは痛いから我慢しなくていいんだからね」


悟るように言い聞かせると、コクリと頷くミニョ。


 


だけど…このときのシヌはミニョが泣いていた“本当の理由”を知らなかったのだ。


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ROULETTE 15


「シヌさん・・・もしもし・・」
会話の途中でシヌの声が途切れて驚くミニョだが、程なくシヌは息を切らしてやってきた。
自分の言動でシヌを振り回してしまったのかもしれない。


撮影後の疲れた身体で会いにきてくれたのに…ミニョのとった態度は決して褒められたものじゃなかったのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
コッコッ


「ミニョおひさー・・」
ノックに続いて入ってきたのはカイル。


やたらと欠伸をしているが、寝不足だろうか?
二人のやり取りの内容は全部は聞き取れないが、兄弟のように仲がいい。


(いいなぁ・・・オッパに会いたくなっちゃった)
穏やかな気持ちを二人を見ていたミニョだが、次に病室に入ってきた女性をみて表情は曇った。


(きれいな人・・・誰だろう・・・どこかで見たことが・・・あっ)
ミニョが思い出したと同時にシヌが“リタ”と呼ぶ。


ドラマの共演者だ。
だけど、何故ここにいるんだろう。


「シヌさん・・・あの」
「あっごめんね・・・・突然来て驚いているよね?覚えているかな?前に電話で話しただろうミニョに会いたいっていう」
思い切ってミニョが尋ねると、優しく教えてくれるシヌ。
そういつだってシヌはミニョに優しい。


だが・・・
なんだろう・・・


リタという女性には、少し声を荒げているのだ。
不機嫌そうな顔で話したり、ミニョの前ではあまり見ないシヌの顔。


こうして感情をさらけ出すというのは、心を許しているからではないだろうか?
それにカッコイイシヌと美人のリタは、よくお似合いだ。
二人ともTVの向こうの人で、自分とはすむ世界が違う。


これ以上二人の姿を見ていたくなかったミニョは、一つのうそをついてしまった。


リハビリで疲れたからとそっけない言葉。
だがシヌは疑いもせず、眠るように促してくれる。


自分の身体が疲れていたというのは本当のことだったらしく、目を閉じたミニョはいつのまにか深い眠りについてしまった。
やがて目を覚ましたミニョは、ベッドからゆっくり起き上がる。


「リタさんて本当に綺麗だったな。私なんか比べ物にならないくらい。あっ比べるなんて図々しいかな?」
手鏡に映った自分に話しかけたあと、はぁっと溜息を漏らしてしまう。


「そう?あんなの分厚いメイクで化けてるんだよー」
「え?」
自分のほかには誰もいない筈なのに、何故かカイルがいる。
更にミニョには驚くべきことがあった


「スッピンなら、絶対ミニョのほうが上だよ・・・肌もこんなにきれいだしね♪」
ニカっと笑ってミニョを見るカイル。


「カイルさん・・・あの話せるんですか?」
そう・・・さっきからカイルは流暢な韓国語を話しているのだ。


「うん・・実はそうなんだ・・・だけどナイショだよ・・・シヌだって知らない」
生まれてすぐに韓国に来て、小学校の低学年まで暮らしていたらしい。
伏せているのは何か事情があるのかもしれない。


「何か忘れ物したんですか?」
「うん、これ渡すの忘れてたんだ」
そういって渡された紙袋の中には入っていたのはDVDのトールケース。
中身を見ると、シヌたちが出ているドラマのディスクなのである。


「字幕入れてるよ…もちろんOFFにも出来るけど」
「え・・・あっあのありがとうございます・・」
ドラマの台詞は難しいニュアンスも多く、まだまだ把握できないミニョにとってはカイルの好意は本当に嬉しかった。
だがカイルだって撮影は大変だったはずそのことを伝えると、シヌと違って出演シーンは多くないと笑っている。


「あとね、ミニョに教えてあげたい面白い話あるんだよー」
それは撮影中のシヌのこと。


「本番中は集中してるけど、それ以外は心ここにあらず状態でさ・・・だけど1本の電話でだ~い変身だったんだよ。撮影再開で呼びにいったら、露骨に嫌な顔されだ。ひどいでしょう?」
カイルの話を聞いて、ミニョは勇気を出して掛けた電話の事を思い出していた。


「口には出さないけど、シヌは帰りたくて仕方なかったと思うよ。だからオレだっても今日は遠慮したのに・・リタがさー全く彼氏とケンカしたからってこっちに当たらないでほしいよなー」
爆睡していたのに、無理やりたたき起こされたとぼやくカイル。


(彼氏って・・・じゃシヌさんとは?)
さっきの二人のやり取りで近しい関係だと思い込んだミニョにとって、カイルの言葉は少し意外だった。


「まっ、さっきその彼から電話来たからすぐに仲直りできると思う。全く人騒がせなお嬢様だよーごめんねー色々邪魔しちゃってさー♪」
終始明るい口調のカイルに、ミニョの気持ちは和んできた。


「ありがとうございます・・・カイルさん」
「えー!!お礼言われることしてないよー!!ところで“さん”付けって何か余所余所しいなー」
何故か呼び方に付いて指摘されてしまうが、他になんと呼べば良いというのか。


「じゃぁ・・・カイルくん!!これで決まりね!!」
「カイルくんですか?・・・そんなの」
いきなり言われて困惑するミニョ。


「うん・・・だって同い年だし・・呼んでくれたら良いもの見せてあげる♪シヌの秘蔵映像だよ」
「シヌさんの!?」
自分のスマホをミニョの目のまでチラチラさせるカイル。


「うん・・・これね?クラブでシヌが歌っているのをムービーで撮ったんだ。その場にいた皆聞き惚れちゃったんだよー♪」
シヌの歌に見せられた音楽プロデューサーが急遽ドラマの中で歌うシーンを入れるまで発展したエピソードも教えてくれた。
動画サイトでもシヌの歌は聴いた事がないミニョにとって、是非見たいし聞きたい映像だった。


「あのカイルさん・・・」
ミニョの呼びかけに、カイルは無言で頭を振る。


「カイルくん!!・・・見せてください!!」
「うんまだ言い方が硬いけど、そのうち慣れるからいいかぁ。」
ミニョから携帯を受け取ると、なにやら作業をしている。


「はぃ・・・これでいつでも見れるよ・・じゃオレは帰るからねーこんどこそ爆睡するぞー」
ヒラヒラと後ろ手を振りながらカイルは病室を出てゆくのだった。


早速シヌの動画再生を始めたミニョ。
(シヌさん・・・すごい)
歌が上手なのはもちろんだが、胸の奥がきゅぅっとするのだ。
この動画にも、カイルが訳をつけてくれたことでより歌の世界に入ってゆけたミニョ。
シヌとは違うが、その好意に心から感謝したのだった。


リタの存在が単たる共演者と知って心が軽くなったミニョ。
あんなふうに追い返した形になったシヌの声をやっぱり直接聞きたくなり、気が付いたら携帯に手を伸ばしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


シヌは思ったより早く病室にやって来たが、息が上がっている。
走ってきたのかもしれない。


来るなりシヌの口から出たのは、さっきミニョが言いかけたことだった。
かなり気にしていると見える。


だがタイミングを逸したミニョにとっては、この質問はハードルが高い。
そこで当たり障りのない話をすることにしたのだ


「あの・・・いつも親切にしていただいいるお礼を言いたかったんです」
「良かった・・・何を言われるのかって実は緊張してたんだけど・・・そんな改まって言うことないよ。こっちが勝手にやってることだからね。ミニョこそ俺がいつも会いに来るのって、負担じゃないかい?」
安堵のダメ息を漏らした後シヌの口から出た言葉に、間違いなく自分に原因があるとミニョは気付いた。
だから必死で自分の気持ちをシヌに訴える。


シヌが会いにきてくれることを、どれだけ楽しみにしているか。
ハードなリハビリもロケから戻ってきたシヌに褒めてほしいと思ってがんばっていたことを。
ミニョらしからぬ大声に圧倒されていたシヌだが、すぐにいつもの優しい表情になる。


「それならこれからもしつこくここに通うからね。覚悟して!!」
ミニョにとって歓迎すべき言葉を言ってくれた。


「私のほうこそ来てくださるのをしつこく待ちますから!!」
そういった後すぐに恥ずかしくなって、手で顔を覆う。


「やっぱり変わってないよな・・・そういうとこ」
「シヌさんの知っている私ってどんな子でしたか?」
初対面として接してくれるシヌだが、ミナムの話によると2年前の出会いらしい。
今のシヌの気持ちを聞くのはちょっと怖いが、過去の話ならと考えたのだ。


「ミニョはね・・・ドジで鈍くて、方向音痴で・・・酒乱だったかなぁ」
「それって・・・良いとこなしです・・・」
シヌから語られる自分の話に落ち込みを隠せないミニョ。
ただ気になることは、これまでお酒に縁はなかったのにいつの間にか飲んでいたのだということだ。


「だけどね・・・いつだって一生懸命で、大変な頼みごともがんばって引き受けていたんだ。
それにミナム同様本当に歌が上手でね。ミニョが歌った賛美歌は感動したな」

「えっオッパは歌手を目指していたから上手でしたけど、私なんて全然ですよ。シヌさんの歌こそ
素敵です!!直接聞いていた皆さんがうらやましい」
思わず言った言葉に、シヌは少々驚いている。


「え?俺の歌?いつ?映像に流れたのあったのかな?」

「あっその・・・ごめんなさい・・・カッカイル君がこっこれを」
ミニョからスマホを受け取ると、動画を見て苦笑するシヌ。
本人はこの動画が気に入らなかったのだろうか・・・


「ごめんなさい・・・どうしてもシヌさんの歌が聞きたくて・・・」
「怒っていないよ・・それより俺は気になっていることがあるんだけど・・カイルくんて何?いつのまにかずいぶん親しそうだね?」


「あの同い年だから呼んで欲しいって言われて」
怒ってないといいつ声のトーンがどこか冷たく聞こえたミニョは、必死で弁明をする。
しまいには動画を見せてもらう交換条件であったことも白状したのだ。


すると深い溜息をついたシヌは、天を仰ぐ。
「そうかミニョが俺に打ち解けてくれるまで時間かかったのに…カイルとはすぐに仲良くなってちょっと妬けた。それに俺のことはずっとシヌさんだろう?カイルに負けたってちょっと落ち込むな」


「ごめんなさい・・だけどカイルくんと約束したので・・怒ってますか?」
そのカイルくん呼びにシヌが反応しているというのに彼女自身気付いていないが、シヌの表情が変わらないことで、怒らせていると感じてしまう。
(シヌさんって呼ぶのが・・・だめなの?じゃあ何て・・・)


「あの・・・シヌさんが迷惑じゃなければ・・・私シヌさんのこと・・これからシシシシシヌオッパって呼んでもいいですか!!!」
言い切った後はぁはぁと息が上がるミニョ。
シヌからは・・・反応がない・・・やっぱりオッパ呼ばわりなんて図々しいのかと思って俯いていたら頭上から声が降ってきた。


「ミニョ・・・目を開けないで顔を上げて?」
「え?・・・あっシヌさん?その顔・・・キャ」だから見るな!!」
一瞬ミニョの目の映ったシヌの顔は、見間違い?赤かったのだ。


だがそれを確かめるための視界は、シヌの手に依って遮られてしまう。
「しばらくの間そのままだからね・・・俺を動揺させたから・・・」


ようやく手が離されたミニョの目の前には、いつものシヌの顔。


「ミニョ・・・もう一度呼んで?」
「?はい、シヌオッパ」
自然に呼べるようにと、何度も言わされてしまう。
それは、検診のため医師と看護士が入ってくるまで続いていた。


医師たちの前では何事もなかったようにスマートに振舞うシヌ
ミニョのことを頼んで、シヌは談話室かどこかで時間を潰しているといって病室を離れた。


だが・・・もし・・・
このときシヌがそのまま留まっていたら・・・
ミニョはその話を聞くことはなかったのだろう・・・


検診後担当医が退室してから、看護士としばし談笑をするミニョ。
何時もの看護士は仮眠中だと聞かされた。


「何か思い出したんですか?ずいぶんよい雰囲気でしたもの・・・やっぱりフィアンセのことは
心のどこかで覚えているものなのですね」
「え?フィアンセって・・・誰が」
看護士の何気ない一言は、ミニョに衝撃を与えた。


「あっ違います・・・今のは言葉のあやで…お願い聞かなかったことにして下さい」
慌てて病室を出てゆく看護士。


「待ってください・・・お願い!!そのお話をちゃんと教えてください」
ミニョの必死な呼びかけ手も、決して振り向くことはなかったのである」


===============================================================


ミニョちゃんがリタのことを気にしてると気付いたカイルくんは、早速行動します。


自分の秘密をミニョちゃんに漏らしてしまいました。
シヌとは英語で話しているので・・・


シヌに言いかけた話も、やっぱり聞かなかったミニョちゃん。
だけど昔の話を聞くことが出来ました。
シヌはどんな気持ちだったのでしょうね。


カイルくんへのヤキモチからまさかのシヌオッパへとまず1つ目の大砲です。


そして・・・ラストに・・・衝撃の事実が出てきました。
なぜこんなことになったのでしょうか?


実は・・・この話は黒シヌも想定にあったので、ここの設定は早い段階で考えておりました。
白で行くことにしたので、時間がかかりましたが。

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ROULETTE 14


少し時間は遡る


シヌが目を覚ましたとき、当たりはすっかり明るくなっていた。


「悪い・・・あれから完全に寝ていたんだな」
「良いよーシヌも人間だったんだなーって実感できたから」
起抜けで声はいつもより掠れているシヌに対して少々引っかかるカイルの言葉。
それでも、今回は素直に感謝をすることにした。


「そういえばさー途中で電話あったんじゃないの?」
「え?あっ!!」
慌てたシヌがポケットから携帯を取り出すと、カイルの言うとおりミニョから着信があった。


即座に掛けなおそうとシヌを、カイルが呆れ顔で制したのだ。
「流石に早すぎるでしょう?きっとまだ眠っているよ。どっちみちもうすぐ会えるんだからさー」
「そうだな・・・時間のこと忘れていたよ。ありがとう」
リハビリで疲れているミニョを寝不足にさせるわけにはいかないのだ。
ミニョが絡むと前後の見境がないというカイルの指摘にも、反論は出来なかった。


それからまもなくアパートの前に着いた二人。


「じゃ、オレ今から寝るねーミニョによろしくー」
「ああ・・・ありがとうな」
大欠伸をしながら部屋へ入ってゆくカイル。
結局あれからずっとハンドルを握っていてくれたのだ。
“若いから大丈夫だよ♪”なんて言ってたけど、同じように疲れていたはず。
その背中越しに、感謝の気持ちを伝えた


すっかり目が覚めたシヌは、久々にスーパーに買出しへ。
そこで新鮮なフルーツをいくつか手に取ると、すぐに愛しいミニョの顔が浮かぶ。


帰宅して早速スムージを作り、ミニョの朝食の時間が終わる頃を見計らって病室へと向かった。
ミニョは、元気だろうか?
すると病室から看護士が難しい顔をして出てきた。


「おはようございます・・・あのすみません・・・ミニョに何かあったんですか?」
体調不良なのかと尋ねたら食欲不振らしい。
だがシヌの顔を見た看護師の反応が、とりたてて気に止めていない様に見える。


久しぶりに会うミニョなのに・・・笑顔が見えない。
やっぱり・・・電話のことか・・・
こっちから掛けてほしいと頼んでいたというのに・・・なんてざまだ。


とにかくひたすら謝ると、ようやくミニョに許してもらえたようだ。
そして不意打ちの“おかえりなさい”には一瞬驚いて声が出なかった。


あんなかわいい声で言われたら、反則だろう?
ロケの疲れなんて、一気に飛んだ気がする。


スムージを美味しそうに飲むミニョ。
ミニョが望むならいつでも作ってあげるから。器用貧乏なんていわれたことがあったけどミニョのために役立てなら本望だ


看護士の好意で、ミニョのリハビリに同行することができた。


メニューは思った以上にハードだが、頑張り屋のミニョは弱音をはかない。
だが・・・あのトレーナーは、ミニョにくっつきすぎじゃないだろうか?
他の患者のときより、それは顕著だ。


だから気がついたら牽制してしまったのかもしれない。


リハビリの後、何故かこっちをちらちら見るミニョ。
もちろん見られるのは大歓迎だけど、少し浮かない顔が気になる。
負担にならないようにさりげなく聞いてみたんだ。


ミニョが言いかけたと同時に、ノックの音。
入ってきたのは、まだ少し目が赤いカイル。


「なんだ・・・もう少し眠っていればよかっただろう」
「もう・・・そんな露骨に、邪魔だって言う目でみないでよーオレだって今日は遠慮するつもりだったんだからーだけどコワーイおねいさんにたたき起こされてさ」
シヌの態度に、必死のカイルの弁明。


「ちょっと・・・それまさか私のことじゃないでしょうね。カイル?」
少し不機嫌な声で、カイルにつづいて入ってきたのは


「リタ!!どうして?」
「あら?何よその顔・・・私が来たら悪いわけ」
動揺するシヌに対し、リタは少々機嫌が悪い。


「・・・シヌさん・・・」
「あっごめんね・・・彼女はドラマに一緒に出ているリタ・・・ほら?覚えているかな?前に電話で話しただろうミニョに会いたいっていう話」
突然のリタの訪問に困惑顔のミニョにだが、説明するとコクコクと頷く。


それにしても前触れもなくは、困る。
人見知りのミニョは、かなり緊張してるじゃないか。
するとカイルも、それに気付いたようだ。


「ほらぁ・・・だからオレは今日はやめようって言ったんだよ・・それにわざわざ気を利かせたって言うのにどうして一人で戻ってきたんだよ。アレクは?」
そうだ・・・カイルの計画では二人でゆっくりデートさせてあげるつもりだったはず。


「知らない!!あんな浮気もの…」
そういって口ごもるリタ。大方アレクとのケンカだろう。


「浮気ってアレクは女友達多いんだから、仕方ないじゃないか?リタとだって友達からの付き合いだろう」
「それはそうだけど・・・恋人になったら違うのよ。やっぱり彼女に一途な人が良いわ・・シヌみたいにね」
フォローするカイルの言葉をあいまいに返したリタは、ふざけてシヌの腕に絡みついた。


「おいっ!!何するんだよ」
いきなりのことで、声を荒げるシヌ。


「もうっそんな風に怖い言い方しないで?誰かさんだったら喜ぶくせに」
シヌから腕を放したリタが、意味ありげにミニョを見る。
全くミニョと一緒にしないで欲しい。それにミニョはこういうことはしない子だ。


先刻から騒々しくさせていたのでミニョの様子が気になったら、案の定リハビリで疲れているといわれてしまう。


「ああ・・・ごめん・・・わかった少し休むと良いよ」
久しぶりに会えたというのに仕方がない。ミニョの体調の優先させなければならないのだ。


病室から出てしばらくすると、リタの携帯がなる。
通話ボタンを押した途端、切羽詰ったアレクの声が響く。
“リタ!!繋がった!!どこにいるんだよ・・・いきなり車から降りて心配しただろう?頼むから電源切るな”


「何よ・・・私を無視して・・・ずっと女の子と話してたくせに・・・知らない!!」
意地を張って通話を終えようとしたリタの電話をカイルが取り上げると、代わりに話し出したのだ。


「アレクのせいで、色々ととんだとばっちりなんだからね。」
そして大学病院にいるから、迎えに来るように伝えて再びその電話をリタへ渡した。


「もう・・・余計なことして・・・いいわよ30分以内に来たら許してあげる」
そういって通話を終えていたのだった。


「あ~あリタのほうは、1件落着だね」
「そうだな、リタの方って他に何かあるのか?」
自宅へと戻る道すがらのカイルの言葉が、シヌには少々疑問が沸く。


「ふぅん・・・シヌって・・・鋭いわりに鈍いよねー」
「どういう意味だ?」
益々わけのわからないことを言うカイル。
鈍いなんてこれまで言われたことなどないシヌにとっては、心外だ。


「わからないのが鈍いんだよーじゃね!!」
くすりと笑いながら、自分の部屋に戻るカイル。
どうやら、今日は珍しくシヌの部屋には来ないようだ。


静かで良いと思いつつも、あの賑やかさがないと物足りなさを感じるシヌ。
テギョンのように人を寄せ付けないタイプとは違うが、以前のシヌも他人に対して一定の距離を保っていた。


メンバーにすら完全に心を許していなかったかもしれない。
無条件に慕ってきたジェルミですらそうだ。


だが・・・そんなシヌもミニョとの出会いによって変わった。
あんなふうに自分の全てを曝け出して、思いを伝えたのは初めてだった。
「見事に玉砕だったけどな・・・」
自嘲気味に呟くシヌ。
あのときの心の痛みは、いつまでも忘れらないだろう。


明日からは再び大学での撮影が始まる。
当初より、シヌの台詞がかなり増えているのだが、台詞が思うように入ってこない。
こんなことは今までになく、時間だけが過ぎてゆく。


(はぁ・・こんなんじゃ・・・NGキングは俺になってしまうな)
パタンと本を閉じると、深い溜息をつく。


それからどれくらいの時間が過ぎたのか・・シヌの携帯が着信を告げる。
ディスプレイに表示さえているのはミニョだ。
(何かあったのか・・・)
あれから更に体調が悪くなったのかもしれない、不安に思いつつ通話ボタンを押した。


『あっあの・・ミニョです。さっきはすみませんでした。折角皆さんが来てくれたのに』
「いや・・・俺達こそ煩くして悪かったね。もう大丈夫かい?」
電話の向こうのミニョの元気そうな声を聞いて、シヌは一安心だ。


『はいっちょっと眠ったらすっかり良くなりました。へへ何だが小さい子供みたいですね』
恥ずかしそうに話すミニョだが、リハビリは傍で見ていてもかなりハードだったので
いつもこうして眠っていたのかもしれない。
自分が会いに行ったことで、無理をさせてやしないのか・・・これからは少し控えるべきと考えていたときだった。


『あの・・・シヌさんは何をされてたんですか』
「今は何もしてないよ・・・実はね。台詞がなかなか覚えられなくてぼうっとしてた」
遠慮がちに聞いてきたミニョに正直に答えたら、ミニョは信じられないという。
完璧人間だとどうやら誤解されていたようだ。


それからしばらく話を続けた後、会いに行きたいと思い切って切り出してみる。
『でも台詞を覚えないといけないんじゃ・・・』
「うん・・本当はね?さっきからミニョのことばかり考えて台詞が入ってこないんだ。だから…ね?迷惑かな・・・やっぱり?」
カッコつけずに素直な気持ちを伝える。
だって長いロケからようやく戻ってきたんだから。


『わかりました・・待ってま・・・』
ミニョが最後まで言い終わらないうちに、シヌは駆け出していた。


==========================================================
久々のミニョちゃんとのひと時が、乱入者によって邪魔されたシヌ。
カイルくんも珍しく気を利かせてくれたのに・・・


後ろ髪を惹かれる思いで、部屋に戻ったシヌは台詞も頭に入ってきませんでした。
だけど・・・ミニョちゃんコールがパワーをくれるでしょうね。

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ROULETTE 13


いつもより早くに目が覚めたミニョは、手元のスマホを何度も確認しては小さく溜息を漏らしていた。


(電話・・・来てない)
これまで不在でも、早い時間に掛け返してくれたシヌ。
だが昨夜ミニョが掛けた電話に関してはそれがなかったのだ。


忙しいシヌだから仕方ないと思いつつも、ひょっとすると自分の電話が負担になっているのではという良くない思考が働く。


そのため、用意された朝食も殆ど手付かずの状態。


「あら・・・どうしたの?朝は1日の始まりよ。しっかり食べないと」
「すみません・・・なんだが食欲がなくて」
担当の看護師に声を掛けられると、ミニョはうつむきながら答える。


「大丈夫?熱はないけど・・・ゆっくりで良いから・・・半分くらいがんばって」
そういって一旦病室を出て行った看護士だが、しばらくして再び顔を見せた。


「フフ、食欲の源がやってきたみたいね」
「え?・・・」
意味ありげな看護士の言葉に、ミニョの視線はドアへと向く。
果たしてその先にいたのは・・・


「シヌさん・・・え?本物・・・どうして?お仕事だったんじゃ」
昨日からずっと考えていたから、幻覚じゃないかと思うほどだ。
そのため自分でも要領の得ない言葉を言ってしまう


「やっと向こうでのロケが終わって戻ってきたんだ。ごめん電話くれたんだろう?
帰りの車の中で寝てて電話に気付いたのは明け方なんだ。ミニョが寝てるって思ったからすぐに掛けなかったんだ・・・」
謝罪をするシヌの姿に戸惑いを隠せないミニョ。
アイドルグループのメンバーで、ドラマの人気も高いシヌが自分なんかのためにこんなに必死なのだ。


「怒ってる?そうだよな・・・必ず掛け返すなんて大口叩いていたのに・・・本当にごめん」
ミニョの反応がないことで、シヌは更に謝罪の言葉を続けている。


「怒ってないです!!昨日声が聞けなくて寂しいって思ったけど、声だけより・・・あの・・あっ会えたほうが嬉しいです」
ミニョはいまの自分の素直に気持ちを伝えた。


「本当に・・・良かった。許してもらえたんだね」
ふぅっと安堵のため息を漏らすシヌ。
たった1度の電話のことでこんなにも気にしているシヌに、ミニョは申し訳なさでいっぱいになったが、昨日から続いていたモヤモヤは一気に晴れてきた。


「あの・・・シ・・シヌさん・・・お・・おかえりなさいっ・・・」
思わず出てしまったミニョ言葉、シヌは一瞬はっと目を見開く。


(私ったら・・・いきなり何言ってるの?シヌさん変に思ったかな?)
シヌの反応が怖くてうつむいたままでいると・・・。


「うん。ただいま・・・ミニョ・・・やっと戻ってこれたよ」
耳元で囁かれたかすれ気味のシヌの声は、本当に心地良かった。


程なくしてシヌが、袋からマグボトルを取り出した。
中身はシヌが作ったスムージーだという。
帰宅後、スーパーに言ったら美味しそうなフルーツがあったのでついつい買い込んできたようだ


「ミニョ食欲がないんだってね?・・・これもだめかな?」
テーブルの上に置かれたボトルの蓋を開けると、柑橘系の爽やかな香り。


渡されたストローで、ゆっくりと一口飲んだ。


「美味しい!!・・・」
ついさっきまで食欲がないと塞いでいた自分は何処へ?あっという間に飲み干していたのである。


「良かった・・・初めて作ったから・・・心配だったんだよ」
照れ笑いのシヌの口元からちらりと覗いた八重歯。
(フフ・・・また見ちゃった)
ミニョは、不思議と顔が綻ぶのを感じるのだ。


その後食欲が出てきたミニョは、先に用意された朝食にも手を付け始める。
完食とまではいかないが、8割がたは食べることが出来た。


検温で再びやって来た看護士は、殆ど空になった容器を眺めた後シヌに視線を移す
「ドラマだけじゃなくて専任ドクターになって欲しいですね。もちろんこの病室限定で」
「それは願ったりかもしれません」


看護士とシヌのそのやり取りをミニョは不思議そうに見ていた。
ただわかったことは、本職から見てもシヌはお医者様のようなのだということである。


このあとはリハビリが待っているのだが、少し気が進まない。
折角シヌが来てくれたのに・・・
それでも1日でも休むと復調するまで2日かかるとトレーナーに言われている。
風邪等の体調不良は別として、できるだけ毎日メニューをこなすようにとも・・・・


その言いつけをしっかり守っているミニョは、今のところ皆勤だ。


「じゃあ・・・あのこれからリハビリなので」
「そうか・・・終わるまでここで待っていても良いかな?」
当然帰ると思っていたシヌの言葉。


「はい「あら?それなら一緒についてきてもらえば良いじゃない?」
ミニョの返事を遮ったのは、看護士である。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
シヌはなんだか嬉しそうだった。


だがトレーニングルームでミニョを待っている間、シヌは特に若い女性たちからの注目を集める。
中には直接話しかけてきた女性もいる程だが、対してシヌは困惑した表情で頭を傾けていた。


リハビリが終わった後、すぐにミニョの傍へと駆け寄り労いの言葉を掛けるシヌ。
そしてミニョへ向けられた羨望の眼差し。


周りに不似合いだと思われているのかもしれない。
そんな風に考えていたミニョの身体が、ふわりと浮いた。
あっと声をあげる間もなく、そのまま静かに車椅子へと乗せられる。


「じゃあ・・・戻ろうか?」
「はい・・・」
恥ずかしさと戸惑いそして喜び。
ミニョの中で複雑に絡み合う感情・・・
うつむいたままのミニョに代って、トレーナーの先生にお礼の言葉を伝えてくれる。


「今日のミニョさんは、いつも以上にがんばりましたよ。撮影で忙しいでしょうが時間が合えばまた来てくださいね。」
「ありがとうございます・・・是非そうさせていただきます」
和やかな二人の会話のなかに、微妙な空気を感じたが気のせいだろう。


シヌが押す車椅子のスピードが少し速いと思ったミニョは、さりげなくシヌに尋ねてみた。


「あ・・・ごめんね・・・トレーニングルームでは男性患者や先生もミニョを見ていたから、
早く病室に戻りたいなって、気が急いていた。ここからはゆっくり帰ろう?」
自分を見ていたなんてシヌの勘違いだろうけど、それを言うならシヌだって皆から注目を集めていたのだから


「色々聞かれたけど、言葉がわからない振りをしたんだ。ミニョに集中したかったしね」
さっきミニョが見ていた光景、そういうことなのかと納得。
こんな素敵な人を独り占めしていて、申し訳ない気持ちにもなった。


改めて思う・・・
何故これほどまでに自分を気にかけてくれるのか?
何故、疲れた身体なので会いにきてくれるのか?


ミナムの妹で、可愛そうだと思ってくれているから??
“それだけじゃない”というミナムの言葉は本当だろうか?


病室に戻ってから何度かタイミングを窺うが、どのタイミングで聞けばいいのかわからない。


昼食後?
お茶の後?
そんな風に考え込んでいるから、シヌに気付かれてしまう。


「どうしたの?悩み事?俺で良かったら話して?」
心配そうな声でミニョを覗き込むシヌ。


(もう・・・思い切って聞いちゃえ!!)
腹をくくったミニョ。


「あの・・・シヌさん!!」
だが、ミニョの次の言葉をつなぐことは出来なかった。


病室のドアが勢いよく開いてしまったのだ


============================================================


ミニョちゃんコールに気付かなかったシヌは、焦りまくりです。
それほど疲れていたんですよね?


そしてミニョちゃんも、電話が来なかったことでお落ち込みモード
食事も手付かず状態。看護士さんにも心配を掛けてしまいます。


だけど、シヌが来たらすぐに元気になりました。
お手製のスムージが羨ましいです。


リハビリを一瞬サボりたいと思ったミニョちゃんですが、ここは真面目なミニョちゃん。
今日もがんばっています。
看護士さんの好意でシヌもミニョちゃんのリハビリを見学できました。


あんなかっこいい人が立っているだけで、注目でしょうが。
シヌは“ボクハ、エイゴワカリマセン”の振りでございます。(わるぅ)


リハビリの先生は、ミニョちゃんよりも10歳くらい年上の男性です。
おそらくミニョちゃんのことは気に入っているに違いありません。
シヌはすぐにそれを察知してますよね?
だから、あえてミニョちゃんをお姫様だっこしてアピールです。


一方のミニョちゃんは、こうまでされていてもシヌの気持ちがつかめません。
ある意味仕方ないですね。


それでも、ようやく行動に起こそうとしましたが、お約束の展開が待っています。

拍手[30回]

ROULETTE 12


「あ・・・ジェルミ帰ったんだ?ミニョって何の話だよ?」
今の電話を聞かれたようだが、ミナムは何食わぬ顔を装うとした。


「ごまかすつもり?じゃあ電話貸してよ・・・確かめるから!!」
ジェルミの言葉に観念したミナムは、電話の相手がミニョであることを認めた。


「ミニョどこにいるの?どうして帰ってこなかったの?どうして今まで隠してたんだよ!!オレずっと心配してたのに・・・」
これまでずっと押さえていたのか、ジェルミの言葉はとまらない。


「ごめん・・・悪かったよ・・・でも隠していたのは訳があるんだ・・・」
目の前のジェルミに事情を話し始めた。


「そんな・・・うそだろう・・・向こうで事故に巻き込まれて…記憶障害なんて・・・オレの事忘れているなんて」
ミナムの告白を聞き、ジェルミは予想以上にショックを受けている。


「うそじゃない・・・事実だ・・・あとさ、あの日ミニョが帰国しなかった理由はわからないからな」
動揺するジェルミに対し、あえて淡々とミナムは語った。
そしてドラマでの大学病院のロケで、偶然居合わせたシヌが傍についていることも。


「え?シヌヒョンが?だってミニョはシヌヒョンのことも覚えてないんでしょう?」
「ああ・・・ミニョが目覚めたときの反応は、かなりショックだったと思うよ。だけど・・・その後の行動はやっぱりシヌヒョンらしくてさ」
記憶の無いミニョには、ミナムのバンド仲間と自己紹介をしたらしい。
無理に思い出させるではない・・・初めから覚えて貰えばということなのだと。
その甲斐あって、記憶がない状況でもミニョは明るくリハビリに励んでいるということも付け加える。


「そうか・・・シヌヒョンがいるなら安心した。きっと甲斐甲斐しく世話をやいているんだろうね?」
「わかるのか?」
表情が落ち着いてきたジェルミに、ミナムは不思議そうに尋ねる。


「うん・・・だってミナムとしてここで過ごしていたとき誰よりも面倒をみていたのは、シヌヒョンだったんだよ。今だから言っちゃうけど…最初加入したばかりの頃・・・ちょっと意地悪しちゃったんだ・・・だけどその時だってシヌヒョンが庇ってた」
大好きなシヌが新入りのミナムに取られたとヤキモチを焼いていたころのことを懐かしそうに語った。
ジェルミから語られる話はミニョのそれよりも詳細で、如何にシヌがミニョを気遣っていたかがわかるエピソードだ。
更に、ジェルミの話は続く


「ミニョに振られたときは、すっごくショックだったな。シヌヒョンならともかくテギョンヒョンを好きだって言われてさ・・・何で?って思うだろう?」
それでも二人の仲がうまく行かなくなったときは、結局サポートしたジェルミである。
大好きなミニョが幸せでいてくれるならという思いだったと。


「そうか・・・隠していて本当に悪かったよ・・・」
「ううん・・・オレこそ怒鳴ってごめんね・・・」
あっという間に仲直りをした二人。
加えてこのことはまだテギョンには伏せて欲しいと伝えると、ジェルミは無言で頷く。
だが次にジェルミの口から出た言葉は、思いかげないものだった。
二人でミニョに会いに行こうと言い出したのだから


「一緒にって・・・お前仕事あるだろう?」
レギュラー番組を持つジェルミは、かなり多忙なことをミナムは知っている。
が、なぜかジェルミは余裕綽々の様子なのだ。


「実は、次回はスペシャルで海外ロケなんだよ」
場所の希望を聞かれたとき、どうせならシヌの近くがいいとスタッフに伝えていたらしい。
そして番組にミナムがゲストとして参加をすれば視聴率もUPするだろうし、テギョンに怪しまれずにすむだろう。
アン社長には事前に話をつけて、ロケの後の数日オフを貰っていることも。


「はぁ・・・ロケの話もっと早くに教えろよ。オレにだって都合ってものがあるのに」
「えー!!だってミナムずっと仕事セーブしていてずるいって思ったからさ。付き合ってもらおうってね」
少々不満な表情にミナムに対し、ジェルミはどこ吹く風だ。


だが・・・ジェルミに話せたことで、ミナムは心が少し軽くなったように思ったのだった。


一方ロケ地のシヌたちといえば―


「じゃあシヌ・・・これを」
監督から渡されたギターを手に取るシヌ。


「はぁ…アレク…お前のお陰で面倒なことになっただろう」
「ごめん…でも決めたのはプロデューサーたちじゃないか?」
あの日シヌの弾き語りに感動した彼らは、急遽シナリオに手を加えたようだ。


「すごいよね。そのためにシヌの役柄を本当はミュージシャンになりたかったのに、家庭の事情で医者を目指したっていうエピソードを入れたんだから」


「ああ・・・なんだか無理やりって感じで一番俺が驚いたよ・・・」
それでもこうして歌うことになったのだから、精一杯の思いをこめて歌い始めた。


彼女が俺のものになったらって・・・夢を見てる


一線を超えて・・・
優しく抱きしめるんだ


実現できればって夢を見てる。


君のためにしてあげたいことが、たくさんあるよ
そのチャンスを俺にくれさえすれば


「カーット!!シヌ流石だな!前に聞いたときより更に気持ちがこもっているじゃないか?」
「いえいえまだまだ未熟ですみません・・・ボーカルは専門じゃないので緊張しました。」
プロデューサーからの賞賛の言葉に淡々と答えるシヌ。


「あら?シヌそれは謙遜というものよ。ねえアレク?」
「ああ・・・確かに・・・妙に来るものがあるな」
リタの言葉に、素直に同調するアレク。


「うん!この前聞いたときも思ったけど、なんだかシヌの歌みたいだ。ドラマOA後の反響すごいだろうね」
「そんなことないよ。さらっと流されて終わりだろう?」
すっかりミュージシャンとしてのシヌに魅了されたカイルが熱く語るが、シヌは苦笑しながら答えた。


「フフッ皆がこんなに褒めているのに・・・ホントにクールなのねシヌって。」
揶揄するリタにも、表情を変えないシヌ。


だがこのシーンの撮影後にようやく戻れると監督から聞かされたときは、
自分では気付かないくらいに、笑顔だったと後々カイルに聞かされることになるのだが・・・


その日の深夜・・・
シヌはアパートに戻るために、車を走らせていた。


次の日がオフになったためゆっくり帰ればよかったのだが、少しでも早くミニョの顔を見たいシヌは、一人だけ先に帰宅を決める。


“えーシヌ先に帰っちゃうのー?じゃあオレも一緒に乗せてって♪”
シヌの返事を聞く前に、カイルはちゃっかりと車に乗り込んでいたのである。


カイルはあわただしく帰宅する理由はないはず、やんわりとシヌが指摘をする


「だって・・・オレがいたらお邪魔虫になるだろう?このロケでアレクってばシヌにジェラ気味だったじゃないか?あっちに戻ってから気持ちよく仕事が出来るように、イチャイチャしておけば良いよ」
恋人同士のアレクとリタのため、気を利かせたらしい。
もちろん彼らは、それとは気付かせないように・・・


見かけよりしっかりしている奴だと改めて思う。
助手席に眠る寝顔は、まだまだ子供だが・・・


それから2時間ほど過ぎたころ、カイルが目を覚ました。


「あースッキリした。」
「まだしばらく着かないから、寝てても良いぞ」
背筋を伸ばし手首を回すカイルを見て、促すシヌ。
だが、カイルから意外な言葉が返ってきた。


「運転代るよ・・・シヌ」
「え?ああ大丈夫だ・・・このまま俺が運転する」
カイルの言葉だけ受けとっておくつもりだった。


「もうっ疲れているのに寝ないで運転して隈でも出来たらどうするのさ、
『シヌさん・・・大丈夫ですか』って心配されちゃうだろう?」
「だから、その物真似全然似てないって・・・」
相変わらずのクオリティの低さに、溜息をつくシヌ。


「運転なら大丈夫だよ?こう見えても運転歴はシヌより長いと思うしね。」
見せられた免許証の取得年齢を見ると、その通りだった。


「わかった。じゃあ頼む」
折角の好意に甘えることにした。


カイルが運転する車に乗るのは初めてだが、その心地よさにシヌはいつの間にか眠ってしまったのだった


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ついにジェルミにばれてしまいました。
ミニョちゃんが帰国しなかったときは、すごガッカリのジェルミです。
その後もテギョンさんの手前もあって、聞きたくても聞けない状況があったのだと思います。


ミナムなミナムで、ミニョちゃんのことを知ったらジェルミはショックを受けるだろうと心配していたのです。


でも、ジェルミだってミナムの時代をささえていた一人ですし、隠されたのは悲しいですよね。
それでも、ミニョちゃんの事情を知ってわかってくれた優しいジェルミです。


シヌが着いていることで、安心したようですね。
ミナムはずっとミニョちゃんの様子が気になったいたから、仕事がらみとはいえようやく会いに行けそうです。
(シヌ好きのジェルミに感謝!!)


一方シヌは、ようやくロケを終えて帰途につけそうです。

拍手[38回]


ROULETTE 11



上の連中がいなくなったことで、あとは自由になった。


このときがチャンスだと思い、カイルに言付けてホテルに戻るシヌ。


移動中のタクシーの中、携帯を確認したがミニョからの着信はない。


 


「はぁ・・・リハビリ初日なら疲れているよな・・・」


別に自分はミニョの恋人でもなんでもない。言うなれば兄の同僚。


思った以上に自分が落胆しているのを感じながらベッドに寝転び携帯をしばらく見つめる。


 


すると待ちわびた人からの着信を告げた。


 


「もしもし!!」


ガバッと勢いよく起き上がって、電話に出るシヌ。


 


「あっミニョです・・・すみません・・・こんな時間でお休み中でしたか?」


いつでもこっちを気遣うミニョ


 


「いや・・・全然まだまだ起きているよ。だけどミニョこそ深夜だよ大丈夫?」


入院中のミニョにとっては、とっくに寝ている時間だ。もしかして疲れすぎて眠れなかったのだろうか。


 


「今日リハビリの初日終わりました。もっと早い時間にって思ったんですけど撮影中なら迷惑かなって・・・」


どうやら昨日の電話のことを気にしているのだ。


 


「すぐに出れなくても、ミニョからの電話なら掛けなおすんだよ。俺ににそんな風に気を使わないで?」


電話がないことに悶々していたが、実はミニョの思いやりだったことがわかり愛しさが溢れてしまう。


目の前にいたら・・・堪らず抱きしめていたかもしれない。


 


「はい・・・でも疲れていたり忙しかったら、無理しないで下さい」


尚も自分を気遣うシヌに、ミニョの声が聞こえないことのほうが無理だと強く言い切ってしまった。


 


肝心のリハビリは、予想以上に緊張してガチガチだったらしい。


「トレーナーの先生に、何度もリラックスといわれてしまいました」


「先生の言うとおりだよ・・・まだまだ先が長いんだからね」


ミニョの身体が元通りになることをもちろん願うが、あせって欲しくないのだ。


 


その後は他愛もない話の後、アレクとリタがミニョに会いたがっている事も伝える。


「ミニョの気が進まないのなら、無理しなくていいからね」


そういってミニョを気遣う心の片隅には、


彼女を隠しておきたいという気持ちは間違いなくあったのだった。


 


強引であったがミニョから必ずもらえる電話。その声を聞くだけで、ハードなロケもやり遂げられる気がした。


何より、できるだけ早く終わらせてミニョに会いに行きたい。


だがシヌのその思いは確実に演技にも良い影響がでて、更に出演シーンが増えるという結果を招くことになった。


 


所変わって、ANJELLの宿舎。


シヌがいたころはにぎやかだったこの場所が、やけに静まり返っているとミナムは感じる。


 


グループとしてして活動停止中の状況下、作曲家として多忙を極めるテギョン。


トーク力を買われ新番組のMCに抜擢されたジェルミ。


そんな二人に比べたら、ミナムのスケジュールには余裕がある。


尤もいくつかあるオファーを、断っていての状況だが・・・


 


ミニョのことがあってから、単発の仕事のみ入れて貰っているのだ。


何かあれば、駆けつけることが出来るようにという思いで・・・


 


ミニョのことは、まだミナムの胸のうちに留めている。


記憶障害のことを知ったら、テギョンは強硬手段に出るかもしれない。


気性の激しいテギョン。仮にも恋人であった自分の存在を忘れているなんてプライドが許さないだろう。


 


「そこが・・・シヌヒョンとの決定的な違いだろうな」


ミニョの写真を見ながら、話しかけるミナム


するとミナムの携帯が着信を告げる。


(噂をすれば・・・なんとやらだな)


 


『オッパ?』


「ミニョ・・・電話くれるの久しぶりじゃないか?オッパは寂しくて泣いていたよ」


しくしくと電話越しに泣きまねをするミナムに、素直はミニョはあせっているようだ


 


『ごっごめんね・・・オッパも仕事が忙しいって思って』


「可愛い妹からの電話なんだから、気にするな?でどうだ?リハビリは順調か?」


先週ミニョからの連絡を受けてから、経過が気になっていたのである。


 


『うん・・・自分ではわかんないや・・・』


「そうか・・・焦るなよ・・・先は長いんだ」


そういって励まそうとすると、とっくに同じ言葉を言われていたらしい。


 


『シヌさんがね・・・目標を決めてリハビリに臨めば良いって・・・』


「シヌヒョンが・・・そうか?」


ミニョからの会話にシヌのワードが頻繁に出ている。


最初は記憶を失っての心細さ故だと思っていたが・・・


 


それだけじゃないだろう・・・


 


ミニョの話によると地方ロケにいくまでは、殆ど欠かさず会いにきていたという。


そして疲れた様子など決して見せない。


いつも、ミニョの身体を気遣うらしい。


 


『オッパのお陰でシヌさんに優しくしてもらえるんだよね?ありがとう』


「え?お前なぁ・・・それだけのはずないだろう」


ここまでされて単なる好意だと未だに思っている、鈍感な妹。


 


『それだけじゃないって・・・何?』


「さぁね・・・本人に聞いてみればーどうしてですかって」


ミニョの疑問に対し、冗談交じりで答えるミナム。


 


だが・・・素直なミニョはそのままの意味で受け取ったようだ。


 


シヌはおそらく自分からは動かないだろう。


記憶を失っているミニョの弱みに・・・そういうことを考えない男だ。


だけど・・・今のミニョの心を占める多くはシヌ。


シヌが傍にいるからこそ、ミナムも安心して任せることができたのだ。


できれば・・・記憶を取り戻さないままで、シヌとうまく行って欲しいとすら思う。


抜け落ちた数年間は、案外問題じゃない。


 


だが・・・ミナムはすっかり忘れていた。


シヌとは違った形でミニョを大切に思っていた一人の男を・・・・


 


ミニョことを、テギョンとジェルミに伏せていたためいつもは部屋でこっそりと話していたミナムだが・・・今日は二人が泊まりの仕事だと聞いていたので…リビングでくつろいでいたのだ。


話に夢中で、ドアが開いたことにも気付かない。


『それじゃあ・・・オッパ・・・』


「ああ・・・いつでも電話してこいよ・・・ミニョ」


そうして通話を終えたミナム


 


「ミニョ・・・って今の電話ミニョなの?」


誰にいないはずのリビングに、よく知った声。


まさかと思ってミナムが振り向くと・・・


 


「どういこと・・・説明してよ・・・!!」


今にも泣きそうな顔で、ジェルミが立っていたのだった。


 



 


 

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